蔵前「とんかつ すぎ田」のロースカツがいかにうまいのか語るの巻蔵前「とんかつ すぎ田」のロースカツがいかにうまいのか語るの巻

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これを食べなきゃ人生ソンだよ

2023.6.23

蔵前「とんかつ すぎ田」のロースカツがいかにうまいのか語るの巻













うまいものがあると聞けば西へ東へ駆けつけ食べまくる、令和のブリア・サバランか、はたまた古川ロッパの再来かと一部で噂される食べ歩き歴40年超の食い道楽な編集者・バッシーの抱腹絶倒のグルメエッセイ「これを食べなきゃ人生ソンだよ」の第一回目のテーマ、それはトンカツ。東京は蔵前の「とんかつ すぎ田」のロースカツがいかにうまいのかを、これでもかと語るの巻のはじまり。

 








圧倒的にいちばん好きなトンカツ店
「とんかつ  すぎ田」

 

稀代の大食漢だった喜劇役者の古川ロッパは、トンカツもよく食べたが、いまよりもはるかにマズそうなそれを食べていたようだ。

 

筆者はこれまで東京にあるトンカツの名店と言われる多くの店を訪ねてきた。台東区寿の「すぎ田」はその中で、総合的にいちばん好きなトンカツ店である。当店の暖簾を守る主人の佐藤光朗さんは、二代目。「なんとかオヤジに近づこうと研鑽しています」などと客と言葉を交わしているのを耳にしたことがあるが、きっと先代の腕はとっくに超えているに違いない。

 

トンカツであるから軽やかとは言いにくいが、やはり軽いと評したくなる。食後に油で胃が重くなったりすることはない。だから、一人で訪れてもロースとヒレの両方を食べることにしている(と告白すると、大抵は唖然とされる)。

 

 







まず、迷わずロースカツを食べるべし!

 

 

本当は、隠れた名品であるエビフライも食べたいから、二人で訪れて、ロースを一人前ずつ、加えてヒレとエビフライをシェアするのが理想的だ(って、食いすぎだろ!)。この店に来るのなら、サラッと一人前とかいうのではなくて、「今日は揚げ物祭りだぜ」、そのぐらいの気構えをもって訪問したいものだ。

 

私の友人は60歳を超えているのに、きっと満腹中枢がイカれているのだろう、ロースを一人前食べた後で、ヒレとエビフライとオムレツをシェアしてからふたたびロースを一人前ペロリと平らげていた。そのぐらい軽いということの証左でもある。もちろん、それにはさすがに呆れたが。

 

この店でずば抜けて素晴らしいのはロースである。一人前しか食べられない人は、迷わずこれを食べるべきだ。








すぎ田のロースカツ すぎ田のロースカツ

絶妙な火入れの、すぎ田のロースカツを見よ。







カツを揚げる鍋は、低温と高温の二種が並んでいる。オランダ産のラードを使用しているらしい。まずは低温の鍋で充分に泳がせたあと、高温に移す。火入れの見極めこそは達人の業がなせるものだ。タイミングはもちろんタイマーなどではなく目視で行う。

 

鍋から引き上げ、油を切りつつ蒸しの工程を終えたロースかつは、店主によって幅1.2センチほどに切り分けられる。この細さが素晴らしい。こういう切り分け方は、東京では稀である(四ツ谷荒木町の「車力門 ちゃわんぶ」のはもっと細い)。







すぎ田のトンカツに宿る、神々しいまでの品格を見よ

 

この店のトンカツの盛り付けは、神々しいまでに美しいと思う。その佇まいには、思わずオーッと歓声をあげたくなる。品格があるのだ。黄金色の衣は肉にぴったりと張り付いている(ちなみに、衣がパカパカはがれるトンカツに出会うと、あ~あとガッカリする。はがれた衣の内側には、往々にして卵の黄身が丸見えだったりして、さら興が削がれる)。

 

おそらく肉の下処理が秀逸なのだろう。赤身と脂身のバランスがいい。脂身は少な目で、ロースの脂身がちょっと苦手という人でも行けてしまう。豚肉の素性を店主に尋ねたら、たしか、千葉県産の豚との答えだったような記憶がある(違っていたら、ごめんなさい)。








試しに真ん中辺の一切れを持ち上げてみよう。完璧な状態で揚げられたうっすらとピンク色の肉が認められるはずだ。もしそれが赤色なら、火入れは不十分で食べてはいけない。真ん中まで白かったら火の入れすぎだ。肉も硬くなってパサついてしまう。切り身の周縁部が白く真ん中辺りがピンク色に染まっていればジャストである。「すぎ田」のロースの切断面は、東急池上線池上駅の「燕楽」のそれに似ているかもしれない。







塩→醤油→ソース→醤油へ戻る、悶絶するトンカツの円環運動

 

 

筆者はソースをドバっとかけるようなことはしない。一切れずつ愛しむようにして食べる。まずは塩で食べたい。皿の隅っこに盛った塩をちょいとつけ一口。衣をカリッと破り、肉に歯が到達する。肉は柔らかく甘い。うめぇ~、思わず口から感嘆が漏れる。大げさじゃなく、その旨さに驚愕する。塩が豚の甘みを一層引き立てるのである。さらにちょいとつけ一口。

 

つづく一切れは、和辛子をつけて醤油で食べる。醤油かよ、と思う向きがほとんどだろう。私は醤油で食べたら旨いトンカツというものに初めてここで出会った。騙されたと思ってやってみてほしい。私はこの店に未体験者を連れていって、醤油で食べさせ、その旨さに悶絶する様を見るのが好きだ。そして、必ずこう叫ぶのを聞くことになる。「ホントだ! 醤油、合うねー!」

 

好奇心旺盛な人は、ウスターソース、イギリスのやや酸味が強くよりスパイシーなリーペリンソース、中濃のトンカツソースと食べ進めてみるといい。ウスターソースとリーペリンソースまでは大丈夫だが、中濃ソースは味が強すぎて、肉の繊細さを消してしまうように感じる。よって、必然的にベストマッチである醤油に戻るのである。

 

ちなみに、しゃきしゃきのキャベツには、ウスターソースかリーペリンソースが合うと思う。醤油でもいい。

 

筆者が東京でいちばん旨いと思うこのトンカツが、ごはんと豚汁と漬物が付いて、2800円で食べられるのである。その事実に感激しなければならない。旨さに比すれば、安価であると言わねばならぬだろう。都心に近づけば近づくほど、トンカツの値段は上がる。しかもどうと言うこともないトンカツがである。蔵前まで一足伸ばしても、十分にお釣りがくるってなもんだ。

 







ロースカツと並ぶ名品、日本一のエビフライも喰らおうではないか

 

では、ヒレはどうか。これも間違いなく旨い。旨いのではあるが、ロースの感動のほうが勝る。ロースかヒレかは、肉質への好みの問題になろうかと思う。それよりも感動的に旨いのは特大のエビフライのほうかもしれない。ある高名な食の評論家を連れて行ったら、頭はもちろんのこと、シッポまでむしゃぶりついていた。いわく、「日本一のエビフライだ!」。それに関して、特に異論はない。

 

三人以上で来た時に、もう一品お奨めしておきたいのが、オムレツだ。バターの味が濃厚なツヤッツヤのオムレツである。中身はとろりん、そこにケチャップ。んー、たまらん。

 

さて、揚げ物だけではなく、名脇役にも触れておかねばならない。白米が秀逸なのである。ツヤツヤで粒が立っている。相当に旨いご飯だ。合わせ味噌であろう豚汁も漬物も良いし、何といってもキャベツのみずみずしさが見事だ。包丁が冴えているから、極細切りで甘いのである。お代わりは必至だ。切り置いたものがなくなったら店主がその都度に切り足す。ちなみにこのキャベツよりも旨いと思ったのは神田小川町の「ポンチ軒」だ。

 

酒を呑む人は、瓶ビールの後で日本酒を合わせるといいだろう。麦焼酎でもいいし、最近ではメニュー表に森伊蔵(1500円/90ml)なんてのもある。筆者は合わせたことはないが、芋焼酎とトンカツの相性はとてもいいはずだ。







最後に店内の様子に触れておきたい。普通、トンカツ屋というのは、店内がどうしても油ぎってくる。早稲田あたりの名店といわれる店ですら、店全体が油っぽい。それは換気が不十分で、客のカラダにも油の粒子がついてしまうことを意味している。

 

 

ところが、この店は、まるで油っけがしない。まず換気が抜群にいいのだ。そして、テーブルもイスも壁紙も天井も、厨房にあるステンレスの冷蔵庫も、見事なまでに磨き抜かれている。毎日徹底した掃除をしているのかと思って店主に聞いたら、三日に一度、徹底した清掃を施すのだそうだ。カウンターに座って、周囲をキョロキョロと眺めてほしい。その事実にも驚嘆するに違いない。

 

 

次回予告。筆者おすすめ「東京のトンカツ店3選」を贈る

 

さて、筆者のイチオシは「とんかつ すぎ田」であるが、もちろん他にも「すぎ田」に比肩するうまいトンカツ店は存在する。ということで次回は筆者おすすめの「東京のトンカツ店3選」を贈る。乞うご期待。




とんかつ  すぎ田

東京都台東区寿3-8-3
03-3844-5529
11:30~14:00/17:00~20:30
日曜営業
定休日・木曜日

とんかつ ロース  2300円

とんかつ ヒレ   2700円

エビフライ     時価(3000円ぐらい)

オムレツ      1200円

ごはん       300円

豚汁        200円

座席数26席
※値段は変わるので、要確認





筆者プロフィール

 

食べ歩き歴40年超の食い道楽者・バッシー。日本国内はもちろんのこと、香港には自腹で定期的に中華を食べに行き、旨いもんのために、台湾、シンガポール、バンコク、ソウルにも出かける。某旅行誌編集長時代には、世界中、特にヨーロッパのミシュラン★付き店や、後のWorld Best50店を数多く訪ねる。「天香楼」(香港)の「蟹みそ餡かけ麺」を、食を愛するあらゆる人に食べさせたい。というか、この店の中華料理が世界一好き。別の洋物ベスト1を挙げれば、World Best50で1位になったことがあるスペイン・ジローナの「エル・セジェール・デ・カン・ロカ」。あ~、もう一度行ってみたいモンじゃのお。

 



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