豊栄町を流れる椋梨川(むくなしがわ)。

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日本が誇るプレミアムコットンの世界

2019.8.22

資生堂が切り開いた化粧用コットンの故郷、広島を訪ねて(前編)

豊栄町を流れる椋梨川(むくなしがわ)。

美しさを支えるのは
豊かな水と緑
上質なコットンのふるさとを訪ねて

スキンケアをすることを「お手入れ」という。きれいになりますように、そんな思いを込めながら、化粧品を手のひらに取り、優しく肌になじませる。資生堂はその願いをもっと叶えたいと考えた。そしてたどり着いたのが、スキンケアにコットンを用いるということだった。「ザ・ギンザ スーペリアコットン」に化粧水をしみこませて、頬からひたい、口もとへと、コットンを顔に乗せてみる。心地いい。手のひらで化粧水をつけるときには感じたことのない感覚のあと、充足感とも呼べる感情が沸き起こる瞬間があった。なめらかに肌をすべり、均一に塗布することを可能にするだけでなく、感情まで満たす資生堂のコットン。このコットンのことがもっと知りたくて、最高級化粧用コットン発祥の地・広島を訪ねた。


世界初
コットンという化粧用品が
生まれた地・広島

広島空港から車で30分。青い稲穂がそよぐ田園、石州瓦と呼ばれる赤い釉薬のかかった瓦屋根の家々を眺めているうち、サンヨーコーポレーションにたどり着く。出迎えてくれたのは、社長の小迫隆司だ。戦後、布団用の綿打ち業から起こし、医療用脱脂綿の製造を手がけていた小迫社長の父が活躍していた1962年、資生堂の依頼を受け開発するまで、化粧用コットンはこの世には存在しなかったという。以来、資生堂グループのコットンすべて、また〝ザ・ギンザ特選コットン〞などの製造を一手に引き受ける。資生堂の化粧品の多くは、コットンを使って肌に塗布することを推奨している。たとえば「ザ・ギンザ エナジャイジングローション」には「ザ・ギンザ スーペリアコットン」を、「クレ・ド・ポー ボーテ ローションイドロ」には「クレ・ド・ポー ボーテ ル・コトン」をというように、化粧品にベストマッチするコットンを開発しているのだ。

豊かな田園風景に石州瓦の家々が点在する山あいに、世界に誇る最高峰化粧用コットンを製造する、サンヨーコーポレーションはある。 豊かな田園風景に石州瓦の家々が点在する山あいに、世界に誇る最高峰化粧用コットンを製造する、サンヨーコーポレーションはある。

豊かな田園風景に石州瓦の家々が点在する山あいに、世界に誇る最高峰化粧用コットンを製造する、サンヨーコーポレーションはある。

小迫社長はアメリカ、ブラジル、ペルー、オーストラリアなど、世界中の綿花の生産地を視察してきた。選び抜かれた原綿だけがサンヨーコーポレーションに集められてくる。もっともクオリティが高いといわれる、最初に摘まれた部分(ファーストピック)の綿花だけを使用する製品もあるというから驚く。また、生産地によって、原綿のもつキャラクターが異なるというのもユニークだ。たとえばカリフォルニア産は繊維が細長く、カールが少ない。テキサス産の繊維は中太で、くせ毛のように強くカールしている。オーストラリア産は長さがほどよく揃っている。それぞれを手に取ってみると、弾力の強いもの、繊維を長く引くものなど、確かにまるで違うのだ。特徴をとらえてブレンドし、製品に生かす設計をすることが重要となる。

世界中から集められた原綿が詰まれた倉庫を案内してくれた、サンヨーコーポレーションを率いる小迫隆司。少年時代はパイロットに憧れていた小迫。生来、機械にたずさわることが好きだった。コットン製造への情熱は、原綿と製造機器、両方に注がれる。 世界中から集められた原綿が詰まれた倉庫を案内してくれた、サンヨーコーポレーションを率いる小迫隆司。少年時代はパイロットに憧れていた小迫。生来、機械にたずさわることが好きだった。コットン製造への情熱は、原綿と製造機器、両方に注がれる。

世界中から集められた原綿が詰まれた倉庫を案内してくれた、サンヨーコーポレーションを率いる小迫隆司。少年時代はパイロットに憧れていた小迫。生来、機械にたずさわることが好きだった。コットン製造への情熱は、原綿と製造機器、両方に注がれる。

各生産地から収穫された原綿はコンテナに載せられ、収穫後半年でここ広島にたどり着く。まず、原綿に付着した種子などを落とし、脱脂漂白を施す。その後原綿をよくほぐし、梳いて薄い膜を作っていき、さらに何層にも重ね、スーパーウォータージェット工法でコットンを絡めていく。よく乾燥させ、反物状に巻き取ったのち、コットンの形状にカット、箱詰めされて出荷される。その工程ひとつひとつに、サンヨーコーポレーション独自の工夫があると小迫は語る。常に技術を磨き上げ、資生堂の化粧品の進化とともに並走する力をつけてきたといえる。

アリゾナから届いたばかりの原綿を確かめる小迫。繊維系が太く、カールしているのが特徴だという。 アリゾナから届いたばかりの原綿を確かめる小迫。繊維系が太く、カールしているのが特徴だという。

アリゾナから届いたばかりの原綿を確かめる小迫。繊維系が太く、カールしているのが特徴だという。

プレミックスと呼ばれる第一次ブレンドの工程。綿花に付いた種などを落としていく。 プレミックスと呼ばれる第一次ブレンドの工程。綿花に付いた種などを落としていく。

プレミックスと呼ばれる第一次ブレンドの工程。綿花に付いた種などを落としていく。

不純物を取り除いたのち、複数のキャラクターのことなるコットンを混ぜていく作業。製品ごとに配合比率が変化するという。 不純物を取り除いたのち、複数のキャラクターのことなるコットンを混ぜていく作業。製品ごとに配合比率が変化するという。

不純物を取り除いたのち、複数のキャラクターのことなるコットンを混ぜていく作業。製品ごとに配合比率が変化するという。

コットンの種類ごとに袋詰めされ、くみ上げた地下水で酵素を使って脱脂洗浄する。「綿花を覆っているろう分をしっかり落とし、繊維にすき間を作ります。コットンが肌の上でよくすべるようにするために必要な工程であり、コットンのよしあしが決まります」と小迫。 コットンの種類ごとに袋詰めされ、くみ上げた地下水で酵素を使って脱脂洗浄する。「綿花を覆っているろう分をしっかり落とし、繊維にすき間を作ります。コットンが肌の上でよくすべるようにするために必要な工程であり、コットンのよしあしが決まります」と小迫。

コットンの種類ごとに袋詰めされ、くみ上げた地下水で酵素を使って脱脂洗浄する。「綿花を覆っているろう分をしっかり落とし、繊維にすき間を作ります。コットンが肌の上でよくすべるようにするために必要な工程であり、コットンのよしあしが決まります」と小迫。

「コットンは生きている」と小迫は言う。梅雨から夏、コットンは湿気から水分を集め、冬には水分を放出し乾燥しがちになるため、工場内では保管、生産まで、室温と湿度の扱いに細心の注意を払う。しかしこの特性こそ、コットンをスキンケアに用いることのメリットに通じる。化粧品をよく吸収し、かつ肌の上でしっかりと放出すること。これが手のひらでなじませるだけでは実現できない、コットンのなせる技だ。さらにコットンを使ったお手入れの心地よさをより表現するため、進化し続ける化粧品をサポートするために、研究は続く。新製品が発表される毎に、マッチするコットンの開発が求められる。対象となる化粧品の特性に合わせた設計を考え、何度も試作を繰り返すという。


なめらかな肌さわりの決め手
美酒を育む軟水で
コットンを編む

1992年、小迫はそれまで広島市内にあった工場を現在地に移した。コットン製造に適した軟水を求めた結果、日本酒の酒蔵が集まる西条にほど近い、現在の豊栄町(とよさかちょう)を見つけた。西条は、伏見、灘と並ぶ日本の三大酒どころとして知られる場所。賀茂泉、賀茂鶴、白牡丹など、広島を代表する酒造メーカーがそろい、酒造りにかかせない軟らかな水が出ることで有名だ。「良質な軟水が出ることが絶対条件でした。鉄分など少しでもミネラル分があると、コットンの繊維に絡みつき、ごわつきの原因になるのです」と小迫は語る。

水を張ったビーカーに洗浄前の原綿は入れると浮いてしまうが、ろう分が取り除かれた洗浄後の原綿は静かに沈殿していく。 水を張ったビーカーに洗浄前の原綿は入れると浮いてしまうが、ろう分が取り除かれた洗浄後の原綿は静かに沈殿していく。

水を張ったビーカーに洗浄前の原綿は入れると浮いてしまうが、ろう分が取り除かれた洗浄後の原綿は静かに沈殿していく。

すぐそばには、オオサンショウウオが生息するという、清らかな椋梨川(むくなしがわ)がある。 すぐそばには、オオサンショウウオが生息するという、清らかな椋梨川(むくなしがわ)がある。

すぐそばには、オオサンショウウオが生息するという、清らかな椋梨川(むくなしがわ)がある。

水は、コットンを編むことにも用いられる。高圧水流の噴射と吸引で、水だけでコットンを編むスーパーウォータージェット製法だ。アメリカで開発された織機の製法だが、これをコットン製造に用いるというのがサンヨーコーポレーションの独創性。これにより、コットンは毛羽立たず、表面はなめらかなものとなる。小迫は製造機械にもこだわりがあり、機械メーカーに発注し、組み立てずに納品、自社で組立から調整まで行う。工夫や調整を人まかせにしないから、常にチャレンジングな製品を送りだすことができるという自負がある。その技術力はもちろん、環境対策にも用いられている。使用した地下水は、酵素とバクテリアの力で浄化し、きれいな水に戻し、周囲の田園を潤す。肌に優しく接するコットンのように、自然にも優しく配慮する。

水の力だけで綿の繊維同士を強く絡み合わせる、スーパーウォータージェット製法。針のように鋭い水流でコットンを編んでいく。 水の力だけで綿の繊維同士を強く絡み合わせる、スーパーウォータージェット製法。針のように鋭い水流でコットンを編んでいく。

水の力だけで綿の繊維同士を強く絡み合わせる、スーパーウォータージェット製法。針のように鋭い水流でコットンを編んでいく。

水の針でコットンを編んでいく、スーパーウォータージェット製法。

スーパーウォータージェット製法で編まれたコットンを乾燥。X線検査後、ロール状に巻きあげる。 スーパーウォータージェット製法で編まれたコットンを乾燥。X線検査後、ロール状に巻きあげる。

スーパーウォータージェット製法で編まれたコットンを乾燥。X線検査後、ロール状に巻きあげる。

サンヨーコーポレーションが化粧用コットン製造にたずさわって57年。1961年、資生堂広島販売会社の美容部員が毎日自分たちで脱脂綿をハサミで小さく裁ち、接客に用いていたことから始まる。その手間を省くこと、そして心地よいスキンケア体験を提供したいという思いから世界で初めて、ここ広島で化粧用コットンが生まれた。そして現在、コットンを使うことで、手でなじませる以上に、化粧品のポテンシャルを引き出せることがわかってきた。毎日のスキンケアを支える、上質なコットンづくり。コットンを使ったスキンケアを、もっと知りたくなった。

 

(敬称略)

ザ・ギンザ https://www.theginza.co.jp/
ザ・ギンザ特選コットン https://www.cotton.theginza.co.jp/

 

取材協力
株式会社サンヨーコーポレーション

 

日本が誇るプレミアムコットンの世界(後編)へつづく

Photography by Ahlum Kim

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2019.8.29

資生堂のあくなきコットンへの情熱が、日本女性の肌を輝かせる(後編)

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