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ホテルオークラ 至福のおもてなし 《第7話》

2018.04.10

ホテルオークラ 至福のおもてなし

《第7話》

 

オークラの流儀を、次世代に繋ぐ

__A_9879ホテルオークラ東京には、男性スタッフの髪型にも独自のスタイルがある。写真の料飲部の料飲サービス課課長中野公士朗の髪型が典型だが、これはいわゆる「オークラ・カット」と呼ばれてきた

 

野公士朗の仕事をひとことで説明するのは難しい。現在、中野は料飲部の料飲サービス課長として、サービス全体の売り上げも管理しながら同時に、ホテルオークラ東京内のレストラン・バーに従事する200余名のスタッフの“動き”全体にも目を配る。その“動き”とは、通常業務のルールや宴会の段取りやしきたりはもちろんのこと、服装や姿勢や表情などの所作の微細にまで含まれる。それらを指導するのも中野の役割だ。

  ホテルオークラ東京は、その「もてなし力」でも高い定評があるが、それは美しい“所作ごと”が徹底されているからこそ。それを、次世代に伝えるのが中野に課せられた大事な責務である。さしずめ、オークラ流の教授といったところだろうか。そう書くと、コワモテな教官のイメージを抱くかもしれないが、中野はご覧のように常に静かな笑みを絶やさず、どのような場面でも穏やかに対応する。常連のお客様はもちろんのこと、スタッフからの信頼も厚い。まさにオークラの流儀の体現者でもあるが、それはオークラ入社後に先輩方に鍛えられたおかげで身についたこと、と中野は振り返る。

__A_9993ホテルオークラ東京には待機姿勢一つとっても流儀があり、立って待つ時は手の組み方は必ず左手を上にする

ークラには、サービスに関する膨大なマニュアルがあると思われがちであるが、実は今まで厳密にマニュアルとして明文化されることがなかった。むしろ、マニュアルがないからこそ、活きたサービスができるというのがオークラの流儀でもあったという。国際的なホテルとして開業したホテルオークラ東京は、文字どおり世界中からいらっしゃるお客様に対し、臨機応変に対応する必要があった。想像力や瞬時の判断がスタッフに要求されたために、あえてマニュアル化しなかったのではないかと中野はいう。「先輩たちからは “常にお客様の先を見ろ”と言われてきました」。

  文化はされていなかったものの、ホテルオークラ東京には、サービスに関する独自のルールや作法、あるいは秘伝の多くが伝わっている。例えば、ティースプーンは縦に置く。テーブルサービスはお客様の右側から出し引きする。これらはオークラ独自の作法である。待機姿勢一つとっても流儀がある。立って待つ時は、手の組み方は必ず左手を上にすること。重心は両足の親指の付け根にする。これはすぐに動作を行えるための秘訣でもあるという。男性の髪型にも独自のスタイルがある。写真の中野の髪型は、「オークラ・カット」と呼ばれ、短めの7・3分けでサイドとバックは軽い刈り上げに。分け目は左右どちらでもいいが、瞳の中心の延長線上で分けるというが暗黙の了解だ。

__A_9780ホテルオークラ東京 料飲部の料飲サービス課課長 中野は、サービス全体の売り上げも管理しながら、レストラン・バーに従事するスタッフの“動き”全体にも目を配る

「現在は、それほど徹底している訳ではないですが」と中野は笑う。そうした所作ごとや作法も、お客様のおもてなしに通じなければ、ただの虚礼になってしまう。「行き詰まったら、目の前のお客さまにとって最上のものを探れ」それが、マニュアルを超えた、オークラのサービスの真髄に通じる。

 とはいえ、開業から半世紀を超え、現在 新本館のオープンに先駆けて、改めて「オークラのサービスとは何か?」を見直す時期にさしかかっている。新本館が完成すれば、新たな施設のもとスタッフも増員されるだろう。時代に即したサービスを徹底するには、半世紀以上に及ぶサービスの歴史を振り返り、一度データ化して次世代に繋ぐ必要があるという考えのもと、料飲部では現在、サービスに関わるルールを編纂する作業を進めている。編集担当者は中野を含め7人ほど。マニュアルというよりサービスに関わる伝統の技の継承を目的にしていると中野はいう。オークラのサービスの伝統を繋ぐその編集作業は、新本館建設と並行して急ピッチで進められている。

 

 

文・中村孝則

写真・青木倫紀

構成・藤野淑恵