「皆川魔鬼子 テキスタイルの世界観」 原由美子01

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皆川魔鬼子 テキスタイルの世界観

2019.9.10

4. スタイリスト・原由美子が大人の女性に提案する「HaaT」の服

スタイリストとして70年代から仕事をしてきた原由美子は、HaaT(ハート)がデビューした時に受けた衝撃が忘れられない。イッセイミヤケのテキスタイル部門のプロフェッショナルである皆川魔鬼子がつくり出したHaaTは、原が常に求めていた「大人の女が気負わずに、自分らしく着られる」、そんな新しい世界観の服だった。長きに渡ってファッション界を見続けてきた原だからこそ感じる、HaaTの魅力を綴る。

 

 

文・原由美子

雑誌のページのために洋服を選び出し、写真で紹介するのが私の仕事だ。初めて取り上げたHaaTの服は、鮮明に覚えている。テキスタイルから発想するブランドとしてHaaTが発表された2000年のことだ。遠い憧れだったパリコレクションも、この頃には聞き慣れた言葉となり、バブル崩壊という荒波からも解き放たれつつあった。海外ブランドと日本の若いブランドが並立し、今に続くファストファッションが存在を主張し始めた頃でもあった。選択の幅がどんどん拡がっていく喜びはあったが、大人の女が気負わずに、自分らしく着られる服はないかと常に探していた気がする。

ASHA BY MDSのコレクションより ASHA BY MDSのコレクションより

ASHA BY MDSのコレクションより

そこで出合ったのが、インドの手仕事を最大限に生かしたHaaTの服だった。ディレクターは70年代からイッセイミヤケのテキスタイルを担当し、その実力を発揮していた皆川魔鬼子。イッセイミヤケとインドと言えば80年代にスタートした「ASHA BY MDS」の記憶もあった。衣食住にわたり、インドの職人技を現実的な商品に落とし込んだ贅沢で豊かな世界観が印象に残っていた。年長の友人が愛用していた白い木綿のゆったりとしたコートドレスや、思い切って手に入れたピンタックを施した生成のベッドカバーがすぐ浮かぶ。


伝統技術と独自の感性で作り上げられた
HaaTのこだわりと世界観に共感

そのASHA BY MDSよりも、もう少し身近で、インドならではの良質で着心地の良い素材と細やかな手仕事を、皆川さんならではのセンスでまとめ上げた服が見られるに違いないと期待したのだ。インドの素材や技術が基本にあっても、決して、いわゆるエスニックとか民族調におちいることなく、日本ならではの洋服になるという確信のようなものだった。そんな私の心を最初にとらえたのは、足踏みミシンでインドの伝統的なモチーフをステッチした小さな襟つきの半コートだった。薄い中綿入りで、素材は、あえてナイロン。ケミカルな印象はなく、中綿入りがシャープな雰囲気に見える。遊び心が感じられて引かれたのだ。シンプルなトップスとパンツ、またはドレスにサラリと羽織ってみたくなるコートだった。働くためというより、自分のための時間に、少しリラックスしながら、お洒落心をさりげなく満たしてくれそうな魅力があった。以来、シーズン毎の展示会を見ながら、気になった商品を、雑誌の連載ページで使わせていただいている。

2019年秋冬コレクションより。 2019年秋冬コレクションより。

2019年秋冬コレクションより。

ほのかにエスニック調のインド風ブラウスやドレスも、HaaTの良質な木綿と精緻な刺繍で仕上げられ、程よいフィット感のボリュームにおさえられることで、大人向きの、上質でさりげないカジュアル着になることも教えられた。

2018年HaaT春夏コレクションより 2018年HaaT春夏コレクションより

2018年HaaT春夏コレクションより

ボーダー風の裾の柄がロマンチックなロングスカートも、ジャカード織で表現することで、存在感のある優雅さに変わり、いつまでも着たい非日常の大切な一枚になっていた。最近では、美しいグリーンのカビラステッチを施したシンプルなポロ襟の半袖ドレスが衝撃だった気がする。触れても、着ても心地良いコットンが、ステッチの効果で立体感と陰影を生み、グリーンにも深みを与えていた。柄はなくシンプルこの上ないのに饒舌なのだ。時代に沿って進化している伝統の技術の底知れぬ力に脱帽するしかなかった。

2017年HaaT秋冬コレクションより 2017年HaaT秋冬コレクションより

2017年HaaT秋冬コレクションより

HaaTの商品で、最初からずっと手仕事の魅力を伝えてくれるTamashaのバッグも忘れられない。ビリ刺繍をした程よい大きさの、さまざまな色と型のバッグ。気分良く気軽に出かけたい時、革のバッグや大型トートとは全く異なる装いに仕上げてくれる。紬のきものでの軽い外出も、Tamashaを持つことで、その人らしい雰囲気の装いにまとめあげてしまうようだ。

もうひとつ忘れてならないのは、最近HaaTに加わったORJ。シンプルで活動的なアイテムが、おさえた色調と実用的な素材で潔くデザインされている。HaaTと自在に組み合わせることで、ガラリと表情を変えられる力のある新ラインだ。

 

→ 次回は、山村紘未(モデル)です。

(敬称略)

Profile

原由美子 Yumiko Hara
スタイリスト、ファッションディレクター

1945年生まれ。雑誌「アンアン」創刊時よりスタッフとして参加し、1972年より同誌にてスタイリストの仕事を始める。以後、「婦人公論」「クロワッサン」「エル・ジャポン」「マリ・クレール日本版」など数多くのファッションページに携わる。『お茶をどうぞ 対談 向田邦子と16人」(河出書房新社)に、原由美子との対談が収められている。著書に『原由美子の仕事 1970→』(ブックマン社)、『原由美子のきもの暦』(CCCメディアハウス)など多数。

 

 

HaaT/ISSEY MIYAKE INC.
https://www.isseymiyake.com/haat/ja

Photography by © ISSEY MIYAKE INC. Yuriko Takagi

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