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日常05.Gimelのジュエリー~未来のアンティーク

2018.02.04
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まだ開ききらない桜の花の姿を映したブローチ。自然が生み出した生命の輝きの一瞬をジュエリーに留めたマスターピースは奥池のギメルの工房で春の訪れを待つ。950Pt, 18Kイエローゴールド、ピンクダイヤモンド、デマントイドガーネット、ダイヤモンド、サファイア

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可憐なつぼみからはらはらと舞いちる花びらまで。桜の美しさ、儚さを美しく表現。(左)つぼみブローチ 950Pt, 18Kイエローゴールド、ピンクダイヤモンド、デマントイドガーネット、ブラウンダイヤモンド、ダイヤモンド、サファイア (右)桜花びらネックレス950Pt, 18Kイエローゴールド、ピンクダイヤモンド、デマントイドガーネット、ダイヤモンド、サファイア ©GIMEL

は細部に宿る。この建築家ミース・ファン・デル・ローエの言葉を副題に、ギメルにとって初めての特別展『Four Seasons of Gimel ギメル 美の軌跡』が開催されたのは昨年9月のことでした。会場を訪れた人を最初に迎えたのは、キンバーライトに抱かれた一粒の0.36カラットのラウンドブリリアントカットのダイヤモンド。地球の奥深く、マントルで生成したダイヤモンドは、キンバーライトマグマの噴火によって地表にもたらされます。ギメルのジュエリーのはじまりが、地球がもたらしてくれた貴重な宝物であることと同時に、それはダイヤモンドの輸入商としてビジネスをスタートした、穐原かおるさんの軌跡のはじまりをも示唆したものでした。

 「宝石は地球からの奇跡のような贈り物。買い付けのときから創造のインスピレーションは沸き起こります。“この石を使ってこんなジュエリーを創ろう。” 石を見た瞬間にイメージが浮かびます」。ギメルのアートディレクターとして、デザインはもちろんのこと、石の買い付けも穐原さんの重要な仕事です。「ジュエリーと料理は一緒。素材が良くなくては駄目ですね。“ギメルに納めているということで品質を信頼される。”長くお付き合いのある業者の方々にそう言っていただけるのはありがたいことです」。

01蓮DIVAとスケッチ

蓮の裏

「DIVA」と名付けられた気品あふれるロータスのブローチのスケッチ。穐原さんが大切な方へのオマージュとして制作したギメルを代表するジュエリー。ファンシーカラーダイヤモンドが織りなす繊細なグラデーション、ゆるやかな曲線を広げる葉に零れる一滴の朝露、葉の裏側に息づくのは小さなサファイアのカタツムリ(写真下)。950Pt、18Kイエローゴールド、ピンクダイヤモンド、イエローダイヤモンド、デマントイドガーネット、ダイヤモンド、サファイア ©GIMEL

メルの代表作のひとつにロータスのシリーズがあります。ピンクとイエローのファンシーカラーダイヤモンド、デマントイドガーネット、ホワイトダイヤモンドを惜しみなく駆使し、絵画に描かれたような見事なまでのカラー・グラデーションに使用されているのは、膨大な数の中から選りすぐられ、さらに一粒一粒の形や色を合わせるために労力をかけて選び抜かれた宝石。そして、原石の美しさを最大限に生かすために留め金を極力見せず光を取り込む、「アジュール」と呼ばれる高度なテクニック。手に取るとハッとするほどの優しく滑らかな肌触りと、花の生命が凝縮されているかのような気高い輝きに心が揺さぶられます。

 2000年、サザビーズはギメルのクリエーションを、「革新的で影響力のある21世紀のジュエラー」として世界に向けて紹介しました。それから17年、昨年の展覧会に寄せられたサザビーズ国際宝石部門の責任者であるデイビッド・ベネット氏の「繊細で色彩豊か、細部まで注意を払い精巧に創られた比類ないデザイン。自然の造形に触発され、日本の美の真髄が凝縮されたギメルのジュエリーは、流行の移り変わりや時代の評価にも揺るがない極めて重要なジュエリー」という賛辞は、ギメルの創造性の更なる昇華を物語っています。

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(左)葡萄のモチーフのピンブローチを作製するために、ブリオレットカットと呼ばれるカットを施したカラードストーンを大きさ、色、かたちなどを吟味し慎重に選ぶ。(右)上で紹介した桜のブローチの仕上げ。ギメルの工房では新作ジュエリーの制作に加え、販売したジュエリーのメンテナンスにも応じる。 ©GIMEL

「石の美しさを引き出す工夫がされた4本爪でギメルの小粒石はセッティングされています。ジュエリーは永く身に着けて楽しむものだからという願いが、ここに込められています。建築にたとえると、それは100年以上も風雪に耐えられる家を構想したことに等しく、ギメルのジュエリーなら100年後であっても、ミュージアムクオリティを保ったまま多くの方を魅了し、支持され続けているはずです」。サザビーズの国際ジュエリー部門のシニアスペシャリストであるダニエラ・マセッティ氏がギメルの展覧会に寄せたメッセージには、ギメルのジュエリーが「未来のアンティーク」と世界から称賛される所以がこめられています。

 世界のジュエリー専門家や愛好家を魅了するギメルのジュエリーはアートピースにも例えられますが、穐原さんは語ります。「希少で高価な素材である宝石を使って仕立て上げるジュエリーは、アートというよりも伝統工芸のフィールドに近いと考えています。自分を表現することよりも、技術を伝承し、守り続けることが大切。その中で日本の美しさ、自然の美しさを表現でき、そしてそれをまとう方がいつまでも輝くことを願っています」。奥池の四季折々の豊かな自然、旬の食材でいただく日々の食事、ぼんやりと眺める雲の移ろい、心を揺り起こされる絵画、沁みいるような美しい音楽、記憶に残るバカンス、誰にも邪魔されない機上での平和で孤独な時間―――。ギメルの詩的で物語に溢れるジュエリーは、石との出会いに加え、これらを創造の源に生まれるのです。

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(左)穐原さんの愛するバリ島・サヤンの森に囲まれたリゾートで、鳴き声を耳にした月夜のカエル。見えないその姿からイマジネーションを得て生まれた愛らしいブローチ。18Kイエローゴールド、デマントイドガーネット、イエローダイアモンド、ルビ― (右)カサコソと動き出しそうなトカゲのブローチ。サラマンダーと呼ばれる古代ヨーロッパから王家の紋章などにも用いられていた火を司る精霊をモチーフにしたもの。 950Pt、ダイアモンド/ 950Pt、デマントイドガーネット ©GIMEL

常のジュエリーであること。それがギメルのジュエリーの基本と穐原さんは語ります。ギメルを設立する以前から穐原さんを信頼し、バックアップした大切な女性から学んだことは、ジュエリーは財産ではなく、毎日身に着けて楽しむものであるということ。木の葉の裏側に潜むてんとう虫や、瑞々しいロータスのブローチ裏側に息づく小さなカタツムリ。それは誰のためでもない、つける人の心の贅沢のために存在するのだと。

 幾度か穐原さんにお会いする中で、印象に残るジュエリーがあります。それは、スーツを着用されているシーンにも、シックに夜のドレスアップされたときにも、静謐な白い輝きで身体に寄り添うかのように揺れるダイヤモンドのステーションネックレスでした。穐原さんは今回の取材でも、ドレープを描く美しいニットに、このネックレスと、奥池の晩秋の風景を切り取ったような楓のピアスを装われていました。「ジュエリーは金庫にしまっておく財産ではありません。純粋にきれいだと感じられ、心から欲しいと思うものでなければ意味がないと思いませんか?」。私がかつて仕事をした雑誌で、初めてインタビューしたときの穐原さんのこの言葉は、以来ずっと心に留め置かれています。どんなに美しいマスターピースであっても、ギメルのジュエリーは非日常のものではなく日常のプレミアムであるのだと。

 

gimel_05穐原着用 楓ピアス

(左)ギメル アートディレクター/代表取締役の穐原かおるさん。(右)取材当日、穐原さんが身に着けていた晩秋の奥池の黄葉を映したかのような楓のピアス。950Pt、18Kイエローゴールド、マンダリンガーネット、イエローダイヤモンド、ダイヤモンド ©GIMEL

 

穐原かおる Kaoru Akihara

ギメル アートディレクター/代表取締役 28歳のときにGIA G.G.(米国宝石学協会の宝石学修了)を取得。1974年、「ギメル」の前身であるギモー商事設立。1984年にギメル制作部を発足し1991年に「ギメル」のブランドを立ち上げる。2000年、「革新的で影響力のある21世紀のジュエラー」としてサザビーズに選ばれる。昨年は松坂屋美術館において初の展覧会である『Four Seasons of Gimel ギメル 美の軌跡-“神は細部に宿る”-』を開催。今春、作品集『Gimel』(3万円 限定1,000部)を思文閣出版より発行予定。 

Gimel HP :  http://gimelgimel.com/

 

 

 

写真・川瀬典子(トップの桜ブローチ、工房、穐原さんポートレート)

選・文 藤野淑恵

TOSHIE FUJINO エディター/ジャーナリスト 「W(ダブリュー)」日本版、「流行通信」、「ラセーヌ」の編集部を経て、2000年春に創刊した「Priv.(プライヴ)」(日経BP社発行)の編集長に。「日経ビジネススタイルマガジンDIGNIO」編集長、オウンドメディア「GENUIN(ジェヌイン)」の編集統括など、クオリティ・マガジンの編集に携わる。センテナリアン時代のクオリティライフ実現に向けて新しいライフスタイルやロールモデルを紹介し、BESPOKE LIVINGを提案することが現在のミッション。趣味・関心事はガーデンツーリズム、オペラツーリズム、ワインツーリズム、庭造り、オールドローズ、ジェロントロジー、ガンドッグ、保護犬/猫など。