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非日常05.道明とDOMYO

2018.04.03
HP-top.jpgDOMYOタイ集合

2015年よりスタートしたDOMYOのコレクションより、スタンダードタイ、ストレートタイ。コンテンポラリーな雰囲気を醸すタイだが、奈良時代の正倉院にルーツを持つ安田組(あんだぐみ)と呼ばれる伝統的な組み方で作られている。   ©DOMYO

 

col_1st_BB1501 col_2nd_cuff-links_t-300x300.jpgカフリンクス

DOMYOのボウタイとカフリンクス。2015年のデビューコレクションから登場したボウタイはDOMYOを代表する人気アイテム。大きなボウで形を自由に整えられるバタフライタイプとスタンダードタイプがある。  ©DOMYO

 

色、茜色、猩々緋、浅蘇芳、黒紅、臙脂、本紅、韓紅花、・・・・・・上野・池之端に1652年に創業した有職組紐 道明を代表する冠組(かんむりぐみ)の無地の帯締めには、実に29色もの「赤」が存在します。この多彩な色数は赤だけではなく、青も緑も同じこと。源氏物語や枕草子などの平安文学に登場するこれらの典雅な色名の由来は、平安時代に編纂された法典「延喜式」の染法をもとにしたもので、これらの色名を含めて道明には冠組の無地が約180色、さらに新しい色が年に一色ずつ増えているといいます。他にも多色使いの組紐に使われる色は無数にあり、道明の染場では年間5000もの色が染め上げられています。目を奪われるのは色だけではありません。奈良の正倉院や法隆寺に残る、奈良組、笹浪組、唐組、安田組(あんだぐみ)などの組紐から復元された帯締めの醸し出す印象の大胆さ、おおらかさ。数百はあるという多様な組み方のひとつひとつの名を聞き、由来を知れば、いにしえから現代へとつながる組紐の奥深さに思わず感嘆してしまいます。

IMG_2083 冠組赤

(左)上野・池之端の道明の暖簾をくぐるとケースに並んだ帯締めの多彩な色、多様な組み方に目を奪われる。合わせたい着物や帯を持参して帯締め選びを相談する女性の姿も。(右)赤、とひとことでは括れない多種多彩な色。この微妙なニュアンスの色は、すべて上野の道明の工房で糸から手染めされている。©DOMYO

もの愛好家で道明の帯締めを知らない人はいない。そう断言しても過言ではないでしょう。色彩豊富な冠組の帯締めは、きものを美しく着こなしたいという女性にとって、なくてはならない必需品のひとつ。道明本店には手持ちのきものや帯を持参して、自分の装いに最も相応しい帯締めを求める女性客がいつの時代も後を絶ちません。その魅力は色の豊富さ、柄の美しさのみではなく、きものを自分自身で着付ける女性だけが経験できる、帯に吸い付くような締めやすさにあります。道明の帯締めはきものを装う女性にとって、画竜点睛と呼べるものなのかもしれません。手組であること、そして手染であること。これが道明の組紐の大きな特徴です。機械化の時代の流れにあっても、手染、手組に今日までこだわり、貫いてきました。手組の組紐には、機械生産の組紐にはない伸縮性と風合いがあり、熟練した職人がその経験により判断する力のかけ方、強弱や微妙な手加減は、機械によるオートメーションでは決して成しえないものだといいます。職人の手により一色一色染め上げられる糸染は、組紐作りの最初の工程であり、美しく適切な色に染めあげられた色糸は、よい組紐作りの第一歩。伝統に則った道明の帯締めが世代を超えて愛され、現代に受け継がれる理由がここにあります。

三井寺

2色大暈し

(上)鎌倉組 銘 三井寺。染、組共に高度な技術を要する組紐。正装用としても、趣味の紐としても巧緻な逸品。(下)冠組  二色大暈し。冠組は、武官の冠に使われていたと言われる紐で、伸縮性に優れた締め心地の良い帯締。薄い地色に、結び目から手先に向けて色が重なる。

 

御岳組五舞鸞 001

(左)御岳組 銘 五舞鸞(ごぶらん)。武州御岳神社にある赤糸威の鎧に使われていた紐の組方から、御岳組と名付けられた帯締め。ゴブラン織りのような印象も持つ。(右)笹浪組 金さざれ。この組み方は古墳時代の遺品にもみられ、正倉院には東大寺大仏開眼会の時に使用された大幡の縁かがりや、条帯などが残されている。©DOMYO

明の創業は1652年。武士を辞めて町人となった越後の高田藩の藩士が、糸商として江戸に店を開いたと伝えられています。江戸時代には、武士の刀の下緒、柄糸としての組紐の需要が大きく江戸の町では数多くの糸商が職人を抱えて組紐を製作していたといいます。「自らの武具は自らの手で作るべし」という教えのもと、組紐の技術研究の一角は江戸の武士たちによって担われ、組紐を組むことは武士のたしなみのひとつでした。道明は明治の幕開けとともに、帯締め、羽織り紐といった時代に即したものづくりへと移行。有職組紐の名が表すように、正倉院など日本各地に伝わる歴史的組紐の調査研究、復元模造や組紐に関する資料、技術の保持といった役割を今日まで果たしています。

320A6813 img-05img-03.jpg組みひも丸台 img-02.jpg組みひも

(上左・右)道明の製品は全て自社の職人による手染、手組で作られている。上野本店の4階にある染色の工房にて。冠組無地の色名は180色、それ以外にも無数の色を用いる。年間で5000色の色を染め上げる。(下左)丸台と呼ばれる江戸初期に作られた組紐台では、冠組などの厚みのある角組の組紐を作る。熟練の職人でも1日に製作できるのは1本。(下右)高台で組んでいく平組の帯締め。こちらは2日かけてようやく1本の帯締めが完成する。道明には現在30代から70代、100名の組紐職人が仕事をしている。道明が主宰して50年を数える組紐教室の卒業生も職人として活躍している。©DOMYO

十代当主、道明葵一郎氏は、2015年に先代からこの老舗を受け継ぐまでは建築家として仕事をしていました。2016年に竣工した新しい本店の建物は道明氏の設計によるもので、「組織、構造、意匠の全てを必要とする立体的な作業に組紐と建築の共通点を感じています」と語ります。道明氏が設計したコンクリート5階建の新社屋は、1階が従来通りの店舗、2階に組紐の工房、3階にデザイン室、オフィス、4階に染場、5階にアーカイブが備わり、「この建物自体が組紐を作るための道具として稼働している」というコンセプトで設計されたといいます。江戸時代に創業したこの上野の地は、戊辰戦争、関東大震災、第二次世界大戦など、度々の戦禍や災害による被害を被った場所でありながら、道明はその都度建て直されてきました。江戸時代と同じように現在も東京・上野の真ん中で、手染、手組で組紐が製作されていることに感動を覚えずにはいられません。



(左)上野池之端の道明の店舗。2016年に竣工した現在の建物は、建築家である道明第十代当主の道明葵一郎氏の設計によるもの。(右)道明葵一郎氏。組紐の研究者としても知られる父、道明新一郎氏(現・会長)と母、道明三保子氏(道明糸組法教處長)の元、幼い頃から寺社や博物館に慣れ親しむ。学生時代から糸染めを手掛けるなど組紐の工程には慣れ親しんでいた。©DOMYO

DOMYOと名付けられた洋装ブランドは、道明氏が十代目として社長に就任した後に登場した新機軸です。以前から存在したネクタイなどのアイテムをリブランディングしたもので、ネクタイ、ボウタイ、カフリンクスなどの他、ブレスレットやブローチなどの女性用のアイテムもスタートしました。デザインを手掛けるのはヨーロッパでアレキサンダー・マックイーンやカルティエといったブランドで仕事をしてきたデザイナー。一見、コンテンポラリーな印象を受けるDOMYOのアイテムですが、例えばネクタイは奈良時代から存在する安田組(あんだくみ)という、現代まで絶えることなく続く独自の組紐であるように、そのものづくりの工程は帯締めなどの伝統的な製品と全く変わりはありません。今年2月には洋装ブランドDOMYOとして神楽坂店もオープンし、今年で4シーズン目を迎える新作コレクションもまもなく発表されます。

 BG1707-2-236x300.jpgバングル1 BG1705-2-236x300.jpgバングル3 BG1702-1-236x300.jpgバングル2

DOMYOには女性用のアイテムも揃う。手染、手組という伝統に則った組紐のバングルは洋のアクセサリーとしても存在感を放ち、帯締め同様、装いの仕上げのキーアイテムになる。この春は新しいブレスレットタイプも登場予定。 ©DOMYO

 「組紐は大陸に起源を持ちながら、日本でより深く複雑な創造性を育み、洗練を遂げていきました。世界に誇る日本の美術工芸品としての組紐の価値を、DOMYOという新ブランドで発信したい。帯締めだけではなく新しいアイテムにも挑戦して、多くの方に組紐を手に取っていただき、その奥の深い魅力を感じていただければと思います」。岡倉天心らの文化人と広く交流を重ねた第五代、正倉院の研究に成果を出した第六代、博物館や寺社仏閣に残る組紐について論文を残した第七代、研究に没頭して新しい技術を考案した第八代、九代というように、道明の歴史を振り返ると、当主たちはそれぞれの時代において意味のある明確な役割を担ってきました。「次の時代を見据えて、外へと道明の世界を開いていくことが自分の役割ではないかと感じています」。まだスタートしたばかりの第十代当主の新しい時代、「道明」と「DOMYO」は上野から世界に向けて発信されていきます。

 

有職組紐 道明 HP  http://www.kdomyo.com/

 

 

選・文 藤野淑恵

TOSHIE FUJINO エディター/ジャーナリスト

「W(ダブリュー)」日本版、「流行通信」、「ラセーヌ」の編集部を経て、2000年春に創刊した「Priv.(プライヴ)」(日経BP社発行)の編集長に。「日経ビジネススタイルマガジンDIGNIO」編集長、オウンドメディア「GENUIN(ジェヌイン)」の編集統括など、クオリティ・マガジンの編集に携わる。センテナリアン時代のクオリティライフ実現に向けて新しいライフスタイルやロールモデルを紹介し、BESPOKE LIVINGを提案することが現在のミッション。趣味・関心事はガーデンツーリズム、オペラツーリズム、ワインツーリズム、チーズ、ガンドッグ、庭造り、オールドローズ、ジェロントロジー、保護犬/猫など。