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非日常 07.ヘリテージローズの花園「佐倉草ぶえの丘バラ園」《前編》

2018.05.02
歴史コーナー

伸びやかに枝を広げた幾種類ものバラがかぐわしい香りを漂わせながら風にそよぐ様子は、年に一度、春だけの非日常の風景。「佐倉草ぶえの丘バラ園」の「歴史コーナー」には原種、オールドローズ、モダンローズまで、時代を超えたバラが咲き誇る

 

2バラの枝の伸び方に即した、東屋やパーゴラ、アーチ、ポールなどの構造物が設置されて、その種類本来ののびやかなバラの姿を立体的に楽しめるのも、草ぶえの丘バラ園の特徴。多種多様な構造物のほとんどはボランティアの手で作られたもの。年間延べ3,400人ほどのボランティアが管理・運営に参加している。

 

~「日本のバラの父」の思いを受け継ぐ~

 

ラ園と聞いてあなたが思い描くのはどんなガーデンでしょうか。同じ高さに刈り込まれ、姿かたちの整った大輪のバラが一列にお行儀よく並ぶ、フォーマルで整然としたガーデン? もしそうだとしたら、今回ご紹介する千葉県佐倉市にある「佐倉草ぶえの丘バラ園」はあなたの期待を裏切るバラ園かもしれません。印旛沼にも程近い野趣に富む豊かな自然に囲まれた環境に位置し、園内の東屋やパーゴラ、アーチ、ポールなどの構造物には、のびやかに枝を広げたバラが幾重にも連なります。最盛期の5月半ばともなれば、一重からカップ咲き、白、ピンク、イエローといった様々なバラが心地よい風にそよぎながら、周囲に馥郁たる香りを漂わせます。

和の佇まいを持つ日本固有種から、古のルネッサンスの絵画に描かれたバラ、ナポレオンの妃がその宮殿で慈しんだバラ、そして熱帯地方でも育つインドのバラまで。広さ13,000平米(約3.21エーカー)の園内には、ヘリテージローズと総称される原種やオールドローズを中心に1,050品種、2,500株ものバラが、その品種本来の樹形を活かすように植栽されています。イングリッシュラベンダー、ジャーマンカモミールなど、バラと相性のよいコンパニオンプランツがつるバラの足元を彩り、至る所に花木も配されて、バラ園の枠を超えたシンフォニックな風景を描きます。

バラ単体1
日本のバラコーナーより ツクシイバラ(左)、サンショウバラ(右)。ツクシイバラは九州を意味するつくし(筑紫)とイバラを合わせて命名されたもの。1917年、熊本県にて標本が採取された。サンショウバラは日本固有種のバラで、名前の由来は葉がサンショウの葉に似ているため。富士箱根地区に分布し、山地に生育する


世に残さなければならないヘリテージローズの収集・保存を目的にした、世界でも例の少ないボランティアによって管理・運営されるバラ園として、「佐倉草ぶえの丘バラ園」は2006年の4月に開園しました。ヘリテージローズとは、スピーシーズと呼ばれる原種のバラと、オールドローズ(ガリカ、ダマスク、アルバ、ケンティフォリアなど西洋に古くから存在するバラ)の総称。バラ園を順路に沿って散策すれば、長いバラの歴史について一通り学ぶこともできる、バラの博物館のようなガーデンでもあります。

その前身は1996年から2004年の8年間にわたり同じく佐倉市に開園した、ローズガーデン アルバでした。「バラ愛好家たちの記憶に今も残るバラ園です。小さな秘密の花園のようだったと懐かしんでくださる方も多くいらっしゃいます」と語るのはNPOバラ文化研究所の理事の野村和子さん。同研究所が、アルバにあったバラをすべて佐倉市に寄贈して草ぶえの丘に移植。運営と管理を市から委託されたことを受けて誕生したのが、ここ「佐倉草ぶえの丘バラ園」で、その背景には、日本のバラ界を代表する一人の人物の意思とフィロソフィーが存在するといいます。

(2)バラ単体1
世界の原種コーナーより、ロサ・マルギナータ(上段左)、 アジアの原種コーナーより、ロサ・フィリペス(上段右)、中国のバラコーナーより、モッコウバラ(下段)

(2)バラ単体2
歴史コーナーよりプランセス・マリー(1829年作出 フランス)(上段左)、ラウプリッター(1936年作出 ドイツ)(上段右)、ジョーヌ・デプレ(1830年 フランス)(下段)。歴史コーナーは改良の基本種から始まって、それらが交配を繰り返し現代バラにいたるまで、改良の歴史、流れがわかるような植栽をしたコーナー


本を代表するバラ育種家であり研究家の鈴木省三は、「日本のバラの父」「ミスターローズ」と称され、京成バラ園芸においてバラの育種に邁進し、世界中のバラの育種家たちと交流を重ねながら、バラの香りや色素の研究にも取り組んだ人物です。野村さんは京成時代から長年に渡り助手を務めていました。「鈴木省三が折にふれて語っていたのが『バラの博物館のない国家は文化国家とはいえない』ということでした」。その思いをNPOバラ文化研究所の理事長である前原克彦さんらが中心となって形にしたのが、「佐倉草ぶえの丘バラ園」の前身であるローズガーデン アルバだったのです。

「ミスターローズ」のフィロソフィーは「佐倉草ぶえの丘バラ園」にも継承されています。案内マップで1番と記載されたエントランスの程近くの鈴木省三コーナーから、イタリアから寄贈されたバラから成る15番のサンタマリアの丘まで、それぞれのバラの持つ美しさが最大限に生かされるよう設計された回遊式のバラ園は、庭に場所を移した博物館そのものです。「原種を中心とした貴重な品種を保存するというコンセプトも鈴木先生のものでした。アルバから移植されたバラのうち200種は、先生のプライベートコレクションから譲り受けたものです」。「日本のバラの父」の思いは、「博物館のようなバラ園」として、バラを愛する数多くのボランティアの力により佐倉の地に息づいています。「佐倉草ぶえの丘バラ園」は今年もまもなく、一年で最も美しいシーズンを迎えます。

 (2)バラ単体3
バラ育種家、研究家の鈴木省三の名を冠したコーナーより。聖火(1964年 鈴木省三作出)(上段左)、羽衣(1970年 鈴木省三作出)(上段右)、栄光(1978年 鈴木省三作出)(下段)

130325_rc03_01-thumb.jpg鈴木省三 
「日本のバラの父」「ミスターローズ」と呼ばれ、日本の風土に合ったバラの作出に生涯を捧げた鈴木省三(1913〜2000)。佐倉草ぶえの丘バラ園には鈴木省三が収集していた書籍、雑誌、カタログ、研究資料など9,000点が収められた資料室も併設されている

 

(写真提供 NPOバラ文化研究所)

 

佐倉草ぶえの丘バラ園
〒285-0003 千葉県佐倉市飯野820
http://kusabueroses.jp/
TEL: 043-486-9356

 

非日常 07.ヘリテージローズの花園「佐倉草ぶえの丘バラ園 」のストーリーは、次回、後編 ~世界に認められた殿堂入りバラ園~  へと続きます。)

 

選・文 藤野淑恵

TOSHIE FUJINO エディター/ジャーナリスト 「W(ダブリュー)」日本版、「流行通信」、「ラセーヌ」の編集部を経て、2000年春に創刊した「Priv.(プライヴ)」(日経BP社発行)の編集長に。「日経ビジネススタイルマガジンDIGNIO」編集長、オウンドメディア「GENUIN(ジェヌイン)」の編集統括など、クオリティ・マガジンの編集に携わる。センテナリアン時代のクオリティライフ実現に向けて新しいライフスタイルやロールモデルを紹介し、BESPOKE LIVINGを提案することが現在のミッション。趣味・関心事はガーデンツーリズム、オペラツーリズム、ワインツーリズム、庭造り、オールドローズ、ジェロントロジー、ガンドッグ、保護犬/猫など。