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非日常 07.ヘリテージローズの花園「佐倉草ぶえの丘バラ園」《後編》

2018.05.15
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木製の階段の両脇に植えられたチャイナローズと、パーゴラに絡むつるバラに包まれて谷へと降りていくという、ドラマティックな植栽がされたサンタ・マリアの谷

 

9.ラ・ボンヌ・メゾンコーナー バルティモア・ベル

フランス、リヨンのバラの名園「ラ・ボンヌ・メゾン」の名前を冠したコーナーより。オーナーのマスクリエさんから寄贈されたつるバラ、バルティモア・ベル

 

~世界に認められた、殿堂入りバラ園~

月はバラが一年でもっとも光り輝く季節。「佐倉草ぶえの丘バラ園」もまさに今、最盛期を迎えています。バラ園のゲートをくぐると、案内マップで1番に記されている日本を代表するバラ育種家であり研究家の鈴木省三コーナーの透き通るような純白のつるバラ『新雪』がゲストを迎えます。「佐倉草ぶえの丘バラ園」に植えられているのは、後生に残すために収集・保存が必要とされるヘリテージローズ。一口にヘリテージローズと言っても、原種からオールドローズまでそのルーツや背景は多種多様で、それぞれ少しずつ開花期が異なります。

毎年一番初めに開花するのは『ロサ・キネンシス・スポンタネーア』。八重桜の散る頃に咲き始め、バラの季節の到来を告げる一重咲きの可憐な原種のバラです。続いて「魁(さきがけ)のバラ」と呼ばれる原種の『ロサ・プリムラ』や『ロサ・バンクシアエ』(モッコウバラ)が華やかな序曲のようにたわわに咲き誇れば、いよいよオールドローズの饗宴の幕が開きます。


(左)ナポレオンの妃ジョゼフィーヌの寵愛を受け、マルメゾン宮殿のバラを描き図譜を出版したルドゥテの描いたバラが集められたルドゥテコーナーより、ラ・ベル・スルターヌ、
(右上段)特に香りの良いバラを集めた香りのコーナーより、アルベルティ―ヌ、(右下段)一重咲きのバラを集めたシングルローズコーナーより、アン・エント

 

界でも例の少ない、ボランティアの活動で管理・運営されているバラ園です。現在登録されている55名のボランティアの方々は千葉、東京などの関東圏の方が中心。バラ園を支えているという自負のもと、年間を通してバラの管理にあたってくださっています」と語るのは「佐倉草ぶえの丘バラ園」事務局長の吉田美沙子さん。ボランティア登録の際の約束は「週1回は来園できること」「草取りを厭わないこと」の2つだそうです。バラが咲く季節は春と秋。しかしながら、草取り、誘引、剪定、施肥、園路づくりなど、バラ園にかかわる作業は、一年を通して休む暇もなく続きます。

「夏は日々雑草との闘い。お盆休みもありません。年末年始の数日を除いてはローテーションを組んで作業に当たることが必要ですが、バラと植物を愛するボランティアの方々は、ご自宅で育てているコンパニオンプランツの苗を交換するなど、楽しみながら通ってきてくださいます」と吉田さん。2014年、「佐倉草ぶえの丘バラ園」は、アメリカの「Great Rosarians of the World Program 」より「殿堂入りバラ園」として選ばれました。表彰の理由は、ヘリテージローズ保存の重要性を一般に啓蒙したことに加え、貴重なヘリテージローズの収集・保存にボランティアの力を結集していることも大きいといいます。


(左上段)オールドローズに最も多い花色で構成したホワイト&ピンクコーナーより、プランセス・ルイーズ、
(左下段)日陰に強いバラを選んで植栽されたシェードコーナーより、ルイーズ・オディエ、
(右)数少ない黄色の原種とその改良種を収集したイエローコーナーより、オレンジ・モス

 

倉草ぶえの丘バラ園」に贈られたもうひとつの賞、それは世界39か国のバラ会で構成される世界バラ会連合から、3年に1度開催される世界バラ会議(2015年リヨン大会)において授与された「優秀庭園賞」です。これは、世界中のローズガーデンの中から、特に評価が高い卓越したローズガーデンに贈られるというもの。ガーデンの美しさと魅力、メンテナンスの質の高さ、一般の人々への影響力、 バラとバラ文化の普及実績という全4項目において、満点のトップ成績で表彰されました。「殿堂入りバラ園」と「優秀庭園賞」のダブル受賞は、アジアでは唯一、「佐倉草ぶえの丘バラ園」のみが持つ栄冠です。

2つの受賞は、「佐倉草ぶえの丘バラ園」が世界と繋がっているバラ園であることの証でもあります。園内には、フランスはリヨンにあるバラの名園「ラ・ボンヌ・メゾン」コーナー、熱帯地方でバラの育種に情熱を傾けるヴィル・ヴィララカヴァン夫妻の夢が詰まった「インドの夢」コーナー、イタリアでのバラ研究と希少品種の収集で知られるヘルガ・プリシェさんより寄贈されたバラが植栽された「サンタ・マリアの谷」があります。「佐倉草ぶえの丘バラ園」ならではのこれらの個性的なコーナーは、各国のバラ園やバラ研究家との深い交流の賜物でもあるといえるでしょう。

後編3
(左上段)バラの研究およびチャイナローズとハイブリッド・ギガンティアの収集で知られるイタリア在住のヘルガ・ブリシェさんより寄贈されたバラが植栽されたサンタ・マリアの谷より、マダム・ランバール、
(左下段)「熱帯地方でも丈夫に育つバラを」というインドの育種家、ヴィララガヴァン夫妻の夢を託したバラが集められたインドの夢コーナーより、サクラ・サンセット、
(右)ラ・ボンヌ・メゾンコーナーより、紫がかった花色が美しいエリンネルング・アン・ブロード

 

ラは絵画などの芸術作品とは違い、放っておけばいずれは消えてゆくものです。『佐倉草ぶえの丘バラ園』でも、毎年100本のバラが枯死して新しく100本植える、というのが現状。後生に残すためにバラ苗のバックアップは欠かせません」。吉田さんによると、国内はもちろん、イギリス、フランス、イタリア、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドなど、各国のバラ園とのネットワークによって、最後の一本がなくなったときでも、お互い融通しあうことで希少な品種を守り続けることが可能になるということです。

「花の開花がもっとも多いのは例年では5月の第3週頃。花を丁寧に鑑賞したければ午前中、バラ園全体の風景や雰囲気を楽しみたければ夕方がお薦めの時間帯です」。NPOバラ文化研究所の理事・野村和子さんが教えてくれました。ヘリテージローズと呼ばれる原種やオールドローズは春のみの一季咲きのものが多く、5月下旬が最盛期。しかし、春とは一味違った風情で咲く秋咲きのバラもあります。葉が赤く色づき、ローズヒップがたわわに実る秋のバラ園もまた、春とは異なる魅力があるとのこと。バラ栽培に興味を持っている人は、冬のバラ園で施肥、剪定、誘引などの作業をしているグリーンサム(園芸名人)のボランティアの人々に尋ねれば、美しい花を咲かせるヒントを教えてもらうこともできるかもしれません。 

 

入口

 

(写真提供 NPOバラ文化研究所)

 

佐倉草ぶえの丘バラ園
〒285-0003 千葉県佐倉市飯野820
http://kusabueroses.jp/
TEL: 043-486-9356

 

非日常07.ヘリテージローズの花園「佐倉草ぶえの丘バラ園 」のストーリー前編 ~「日本のバラの父」の思いを受け継ぐ~  も合わせてご覧ください。)

 

 

選・文 藤野淑恵

TOSHIE FUJINO エディター/ジャーナリスト 「W(ダブリュー)」日本版、「流行通信」、「ラセーヌ」の編集部を経て、2000年春に創刊した「Priv.(プライヴ)」(日経BP社発行)の編集長に。「日経ビジネススタイルマガジンDIGNIO」編集長、オウンドメディア「GENUIN(ジェヌイン)」の編集統括など、クオリティ・マガジンの編集に携わる。センテナリアン時代のクオリティライフ実現に向けて新しいライフスタイルやロールモデルを紹介し、BESPOKE LIVINGを提案することが現在のミッション。趣味・関心事はガーデンツーリズム、オペラツーリズム、ワインツーリズム、庭造り、オールドローズ、ジェロントロジー、ガンドッグ、保護犬/猫など。