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株式会社虎屋 代表取締役社長社長 黒川光博氏インタビュー 《後編》

2018.03.03
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お客さまのために今すべきことが数多の挑戦に
1991年に17代社長に就任以来、和と洋の素材の相性を大切にした、自由で新しい菓子を提供する『TORAYA CAFÉ』(2003年)や、御殿場の緑深い敷地の中でどら焼きや大福など素朴な菓子を気負いなく楽しめる『とらや工房』(2007年)のオープン、さらにお客さまの想いを職人が一から形にする『和菓子オートクチュール』(2003年)の開始や、噛む力・飲み込む力が弱くなった高齢者の方にも食べやすい硬さの羊羹『ゆるるか』(2017年)の開発など、黒川さんはこれまでの虎屋のイメージを超えたチャレンジを続けています。しかしこれらのチャレンジは「新しいことをやってみたいからと挑戦してきたのではない」と黒川さんは言います。
「今何をすべきなのか、お客さまが今何を求めてらっしゃるかということを考え、やるべきことをやってきました。また我々が古いと思うことも若い人にとっては新鮮に映るように、新しいことばかりがいいとは限りません。今の時代に必要なことをとことん考えた結果が、和洋の垣根を超えた『TORAYA CAFÉ』だったり、新たな菓子だったりするんです」


とらや工房


やわらか羊羹『ゆるるか』

 

例えば、あんペーストの開発もそのひとつ。「完成品ではない、素材である「あん」自体を売るのは、菓子屋の本筋ではないと父は言っていました。ですから、あんペーストをつくろうと思った時、かなり悩みました。今までの考え方で行くのか、「あん」の新しい食べ方を提案するのか。今の時代を捉えて方向性を決めるのが自分の役目と、販売を決断しました」

 
(左)トラヤカフェ 『あんペースト』、(右)トラヤカフェ・あんスタンド 北青山店

また『和菓子オートクチュール』を始めたのは、和菓子屋の原点を忘れてはいけないと感じたからだそう。
「もともと菓子屋は小さな商売で、お客さまから『上に赤い模様をつけたこういうまんじゅうを20個欲しい』とご注文いただけば、店主が作ったものをお客さまに見ていただき、『もっと色を濃くして』とか、そんなやり取りをして購入していただくのが原点だと思います。ですから、本来お客さまのご要望に応えておつくりするというのは、珍しいことでも新しいことでもありません。それが効率や手間などいろいろな制約の中で、これまでなかなかお受けできないでいた。でもこれこそ菓子屋としてやらなくてはいけないことではないかと思ったんです。いただいたご要望に対し、職人が試行錯誤を繰り返し形にする。難しいものもありますが、担当した職人本人もやりがいを感じているようです。」

 

更なる飛躍が虎屋の歴史と未来をつなぐ
後はさらに海外への進出も検討中。和菓子も老舗もグローバルな視点を持つことが重要だと、黒川さんは考えています。
「数十年前、パリの老舗ラグジュアリーブランドの工房で様々な国の職人が仕事に従事しているのを目の当たりにした際、これが当たり前なんだと気がついたんです。海外に店舗や販路を拡大しようと思うなら、日本から人材も素材も供給するのは限界がある。地元の職人を育てたり、原材料もその国のものを使うことになるでしょう。企業規模拡大のためというのではなく、外に向かって何かやろうとするなら、そういうオープンな考えが必要になるはず。老舗だからとか、和菓子だから日本人が作らなくてはいけないというのはもうナンセンスです。一朝一夕にはいきませんが、これからはよりグローバルな視点に立って考えていかなければと思っています」

数百年続く伝統的なお菓子を誠実にひたむきにつくる一方で、今を見つめお客さまが求める新たな道を切り開く。歴史と未来を併せ持つ虎屋17代目の次なる挑戦が、私たちにまたどんな驚きを与えてくれるのか期待したいと思います。

 


〈プロフィール〉

黒川光博

1943年東京都生まれ。学習院大学法学部卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)に入社。1969年虎屋に入社し、1991年より代表取締役社長に。全国和菓子協会名誉会長、一般社団法人日本専門店協会顧問等を務める。著書に『虎屋 和菓子と歩んだ五百年』(新潮新書)、『老舗の流儀―虎屋とエルメスー』(共著/新潮社)がある。
https://www.toraya-group.co.jp/

 

《前編はコチラ


インタビュー 編集長 島村美緒 文 牛丸由紀子