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「心の科学」を世界に伝える、僧衣をまとうアメリカ人医師、Dr. バリー・カーズィン《前編》

2018.10.10
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者、科学者、そして仏教僧侶。希有な肩書きをもつ、カリフォルニア生まれのアメリカ人、Dr.バリー・カーズィン。ダライ・ラマ法王第14世の専門医でもある彼は、インドで慈善医療を行なう傍で、アメリカ、イギリス、スペイン、ドイツ、ロシア、モンゴル、日本などを巡り、僧侶と医師・科学 者両方の視点から、「心の科学」としての仏教についての講話、さらに瞑想リトリートなどを行っています。とくに「生と死」「メディテーション(瞑想)」「セル フケアと慈悲」「死に逝く人にどう寄り添うか」などをテーマとし、医療・介護関係者を含めた研修も病院・大学とともに行なっていましたが、最近は日本の企業などからの依頼も増えているとか。西洋と東洋、宗教と医療という全く違った考え方をつなぐDr. カーズィンにお話を伺いました。



「私は、誰・・・?」幼き日の疑問から僧侶の道へ

 すらりと高い背丈。柔らかな物腰。話し方は穏やかで、ユーモアを忘れない。たとえその場の空気が張りつめていても、一瞬でほぐしてしまう。そんな温かさを漂わす、親日家のバリーさん。医師でありながらインドで出家し、瞑想修行を積み、僧侶になった彼に、数奇な運命に至ったいきさつと、日本との関わりについて伺いました。

「 6歳から9歳の間に、私のなかに自然に湧き上ってきたひとつの疑問がありました。”私は誰なのか?””なぜ、私がいるのか?”という疑問です。その時は、答えを得ることはできませんでした。そして、10歳の時、脳膿瘍(のうのうよう)という病で死にかけました。14歳で鈴木大拙(禅についての著作を英語で著し、日本の禅文化を海外に広くしらしめた仏教学者)の本に出会い、”言葉が現実を創る”という一文に深い衝撃を受け、高校でその意味を知りたいと哲学クラブに入りましたが、答えは見つかりませんでした」。

の後、カリフォルニア大学バークレー校で哲学の学士を取得したものの、答えは分からなかったといいます。脳を診てくれた医者に憧れ、南カリフォルニア大学の医学部へ進み、医学を修めます。

「この頃、母が亡くなり、数年後に最愛の妻がこの世を去り、私は深く落ち込む体験をしました。半年後にインドへ渡り、この苦しみをどうしたらよいのか、と答えを探し求めるうち、チベットのラマから『空の智慧の教え』を聴く機会を得ました。その直後、幻覚を見たのです。私はネイティブインディアンのティピ(移動用住居)の頂上から中を覗きこもうとしていました。しかし、ティピの中は暗闇で何も見えなかったのです。不安と恐怖に襲われ、震えが止まりませんでした。自分の中には何もない・・・、という恐怖でした」。

*『空の智慧の教え』とは、「全ての現れは偽りであるが、物事は、言葉、言語、思考の領域で慣習的には存在する」ということを理解する教え。

年後、ダライ・ラマ法王にこの件を話すと、法王はこう答えられたそうです。
「それでいいのです。でも、行き過ぎてしまいましたね。あなたは、バリーという存在はまったくないと感じてしまった。もう少し、お下がりなさい。バリーは、在ります。しかし、それはあなたが日頃思っているバリーではありません」と。「この時、私はやっとここに辿り着いたんだと思いました。チベットの教えが自分にはしっくりきました。深い平和に満ちた我が家、自分の居場所、 自分の深いところにある疑問に答えてくれる場所ににようやく辿り着いたと思えたのです」。


西洋医学の医師として法王の側近に

めてチベット亡命政府がある北インドのダラムサラを訪れたのは1986年。チベット医学の医師たちと交流を重ねるうちに、2ヵ月、6ヵ月、1年、2年と次第に滞在が長くなり、気づけば30余年。その間、仏教哲学を学び、瞑想修行に励み、比丘(ビクシュ、僧侶)に認定されたバリーさんは、今では法王側近の医師として活動されています。

「法王の専門医になるきっかけは2度ありました。1989年、カリフォルニアで行なわれた科学者たちの”マインド&ライフ会議”に参加された法王に、空についての瞑想をしたい、と伝えました。すると法王は、”空と菩提心は50%、50%だ”とおっしゃったのです。空とは、現実を捉える智慧。菩提心とは、慈悲の実践です。胸に雷が落ちたような体験でした」。

王から深い教えを頂いた後、バリーさんは法王庁から呼ばれ、「法王はブラジルの環境国際会議に参加する予定だが、コレラが流行っている。止めるべきだろうか?」と相談を受けました。「ワクチンを打ち、よいホテルに泊まり、食事に気をつければ大丈夫でしょう」とお伝えすると、法王はワクチンを打ち、会議に参加することを選ばれたそうです。空の智慧を求める西洋の真摯な医師として信頼を得たバリーさんは、以来、ダライ・ラマ法王の専門医としてダラムサラに在住するようになりました。

「私がダラムサラにいられるのは、ダライ・ラマ法王の優しさのお陰です。今、私は法王がおられるパレスに住んでいます。時おり、これは夢ではないかと自分をつねってみたりしているんですよ(笑)」。

《後編》に続く

 

<プロフィール>

Dr.バリー・カーズィン Barry Kerzin M.D.
医師、科学者、チベット僧侶。 アメリカ、カリフォルニア出身。現在、インド・ダラムサラ在住。ワシントン大学医学部客員教授、香港大学名誉教授。世界トップクラスの科学者とダライ・ラマ法王を中心とする「マインド&ライフインスティチュート」の教員・研究員。 2007年に日本に一般社団法人ヒューマンバリュー総合研究所を設立。年に数回来日し、 仏教講話、マンドフルネス指導、瞑想リトリートを行なっている。
https://jp.humanvaluesinstitute.org/

  

取材/島村美緒(プレミアムジャパン編集長)、文/北澤杏里