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第1回 過去の記憶を未来へつなぐ。建築家・田根剛が国際的に注目される理由

2019.01.16
pj1811-03935

2006年に2人の建築家と共にエストニア国立博物館の国際設計競技に優勝し、26歳で一躍世界の注目を浴びた建築家、田根剛さん。2012年の新国立競技場基本構想国際デザイン競技では『古墳スタジアム』がファイナリストに選ばれるなど国際的な注目を集めています。『未来の記憶』をテーマに、昨年末に東京オペラシティアートギャラリーとTOTOギャラリー・間で同時開催された展覧会についてお話を伺い、その理由に迫りました。

『田根剛|未来の記憶 Archaeology of the Future』という展覧会は、どういったきっかけでスタートすることになったのですか?

今回の展覧会は、同時開催というのが非常に大きなことでした。2年半から3年ほど前に、現代アートの美術館であるオペラシティから最初に声をかけていただきました。オペラシティは数年に1回、大規模な建築展を開催することで知られています。ただこれまでは、スターアーキテクトと呼ばれるような世界の名立たる建築家が開く、というイメージがあったので、最初にお話をいただいた時は「ちょっと無理です、僕には早すぎます」というお話をしていたんですが。キュレーターの方が、オペラシティはあくまでも、建築単体ではなく都市というものを見つめて考えたいし、特に東京においては、1人1人暮らす人々が都市の一部であり、その生活が都市を作っている。だからこそ建築が重要なんだ、ということをぜひ伝えたいということだったので、何か伝えられることがあるかもしれない、と。腹積もりを決めて、チャンスをいただけるならばがんばろう、そう思ったのです。その直後の1―2週間後に、ギャラリー・間の方も展覧会のお話を頂いて。本当にびっくりしましたが、こんなチャンスはもうないかもしれない、と同時開催のアイデアを思いつきました。それを双方にご相談したら、ギャラリー・間は建築専門ギャラリー、オペラシティは一般の方や学生さん、建築以外の方も多く来場されるので、相乗効果があるのではないか、ということで実現することになりました。


「田根剛|未来の記憶 Archaeology of the Future―Digging & Building」
展示風景 東京オペラシティアートギャラリー 2018 photo: Keizo Kioku

それまでここまでの大規模な展覧会を、しかも同時開催とは・・・。準備が大変だったのじゃないですか?

大変でした……。そこでテーマを考えたときに、これまで10年以上活動してきた中で、世代やグローバルな時代や、21世紀に入った時に、環境や情報も含めた時代の中で、新しいアイデアやデザイン、開発によって未来を作ろうっていう、新しいだけの前向きな姿勢だけでは、未来を信じられなくなってきた、というのが肌感覚としてあったんです。そうしたときに、新しさっていう新規性や奇抜性だけではない、なにか。それでも未来に向かっていかなければならない、建築というものは未来のために作っていかなければならないと思っていたときに、何が自分たちのものづくりを満たしていくものになるか、ということを考えていたら、『記憶』が大きな意味を持っているのではないか、と思ったのです。今回の展覧会は、『未来の記憶』というテーマで、それぞれオペラシティ・バージョン、ギャラリー間・バージョンで同時開催をやりたいという話をしました。

展示してある膨大な数のスケッチだとか写真だとかは、元々ためていたものですか?それとも後からこういったものを用意したのですか?

展示のために作ったのが、ほぼ全部ですね。なぜかと言うと、10年間活動していたDGT.というオフィスが解散し、今のオフィスを立ち上げてからまだ1年半しか経っていなかったので、大半は自分たちで用意しました。特にオペラシティとギャラリー・間で、同じものを見せてはいけないという点は一番考慮しました。オペラシティはダイナミックな大きな空間で、遺跡発掘現場のようなものを通して7つの代表作を見て、建築の奥深さを知ってもらおう、と。記憶という非常にコンセプチュアルだけども、これから自分たちが目指したい、志したい、考えていきたいテーマをすべて詰め込もう、というのが強かったですね。ギャラリー・間では、多くの専門的な建築家から学生さんも来られるので、数と量を増やして。こちらの方がスペースは小さいですが、数は600点と多いのです。


「田根剛|未来の記憶 Archaeology of the Future―Search & Research」
展示風景 TOTOギャラリー・間 2018 photo: Toshiyuki Furuya

ギャラリー・間の方が、より専門的な内容になっているのですね。

オペラシティは約300点以上の模型やモノが展示されていますが、量で言ったら、ギャラリー・間の方が圧倒的多いのです。こちらでは、サーチ&リサーチというテーマで何かを研究したり実験したりという、日々の自分たちの活動をそのままプロジェクトごとに見せていこう、という内容にしました。各プロジェクトごとだけではなく、その隣や向こうに見える次のプロジェクトとどうつながりがあるかというように比較しながら、本当に研究所として見てもらおうと。発掘現場で探求して得られるものと、研究所で研究してわかること、しかしながら両方ともアーキオロジーという考古学的な手法でやってみようと考えていました。

準備にかかった時間は?

構想は2年近く。同時にほかのプロジェクトも進行しているので、落ち着いて考える時間もあまり取れず、まずい(笑)と思い始めたのはオープンの9カ月くらい前。プロジェクトチームを作って本格的に準備し始めました。

オペラシティでは、エストニアの中も全部映像で見られて、そのスケール感が伝わりました。

藤井光さんという映像作家に、3回もエストニアに足を運んでもらいドキュメンタリーという形で撮っていただいたんです。各プロジェクトの展示の前にあったモニターの映像も、彼に明治神宮の森、京都や弘前の現場にも行ってもらって、図版や模型だけでは伝えきれない、場所や人々と建築の関わりを素晴らしいドキュメンタリー作品として仕上げてくださいました。


エストニア国立博物館 (2006‒16年)photo: Eesti Rahva Muuseum / courtesy of DGT.

エストニア国立博物館だと、なかなか見に行く機会がないせいか、皆さん、動かずにずっと見てましたよ、最初から最後まで。

そうですね。建築展というと、大半は模型と図面と写真で表現することが多いのですが。オペラシティもギャラリー・間も写真と図面は展示していないのです。その2つはなくそう、と。

写真と図面をなくそうとした理由は?

単純に音楽と同じように、展示をしようと思ったのが理由です。音楽って、楽譜と楽器と演奏家の写真でバッハの音楽を感じて欲しい、って言われても、難しいと思うんです。専門家じゃない人が見て、図面と写真を見て建築を想像するのも同様だと思うんです。そこでまず、オペラシティの場合は非常に大きな模型で、実際に動き回らないと体験できないスケール感を出しました。のぞいたり、内側に入って観察してみて、何となく全体が分かる。でも、全部は分からないぐらいの大きさのもの。あとは、映像があるので時間軸を利用して、時間を通して空間を体験してもらう、という、映像と模型で全貌を見せよう、というものですね。

とは言え、建築自体、つまり出来上がったものは建物にしか見えないんのですが、それまでに多くの人類や様々な文明の過程や、それらがあって初めて現在があるのだと思うと、そこに必要だった建築に関わる様々な手がかり、例えば、不思議なオブジェや僕らがスタディを繰り返した模型を経て、初めて建築が成り立っているのです。そこをぜひ、掘り下げて見せたいという思いで、写真や変な模型や一見、関係のなさそうなオブジェなどを意図的に展示しました。これら1つ1つが記憶の断片としてなければ、この建築は生まれなかった、というのをセレクトして。これらは、主にギャラリー・間で見せています。

感性に訴えるようなプレゼンをしたかった、という感じでしょうか?

考古学というのは、掘って振り返ってみないと、これがどの時代のどの文明のものなのか、もしかしたら違う民族が持ち込んだものなのか分からないですよね。見つけてた時にそこから何かを感じたり考えたり、説明の言葉もなく、それを見ながら何か考えてもらって体感してもらうということをやりたかったのです。解説して「こうなんです、ああなんです」ってすべて説明してしまうよりは、想像力を持ってワクワクしながら見てもらえる展示にしようと思っていました。

なるほど。面白いですね。反響はいかがですか?

反響は……すぐパリに帰ってしまってですね(笑)。でも、不思議だったのは、オープニングがオペラシティであって、朝起きてみたらすごい元気でスッキリしてたんです。全然寝ていなかったので疲れているはずなんですけれども、スッキリしてる。ふと感じたのは、「全部出し切ったんだ」ということ。今までの伝えたいこと、やってみたいことを全部表現として展示の中で出し切ったので、早くパリに帰って働かなきゃ、って(笑)。

後はもう、見てもらって、楽しんだり喜んでもらって、もちろん批判も含めて。僕自身はもうすべて出し切ったので、もう次のところに行かなきゃ、っていう。そのような気分になったのは自分でもとても意外でした。だからなのか、誰がどのように見ているかという点にはあまり気にしていないように思います。建築もそうですけれども、出来上がったものは使ってもらうのが一番大事なので。僕がどう思うかということよりも、使っている人たちが最大限喜んでくれたらいいな、と思っています。

本インタビューは全3回となります。


<プロフィール>

田根 剛(たね・つよし)
建築家。1979年東京生まれ。Atelier Tsuyoshi Tane Architectsを設立、フランス・パリを拠点に活動。2006年にエストニア国立博物館の国際設計競技に優勝し、10年の歳月をかけて2016年秋に開館。また2012年の新国立競技場基本構想国際デザイン競技では『古墳スタジアム』がファイナリストに選ばれるなど国際的な注目を集める。場所の記憶から建築をつくる「Archaeology of the Future」をコンセプトに、現在ヨーロッパと日本を中心に世界各地で多数のプロジェクトが進行中。主な作品に『エストニア国立博物館』(2016年)、『Todoroki House in Valley』(2018年)、『とらやパリ店』(2015年)、『LIGHT is TIME 』(2014年)など。フランス文化庁新進建築家賞、フランス国外建築賞グランプリ、ミース・ファン・デル・ローエ欧州賞2017ノミネート、第67回芸術選奨文部科学大臣新人賞など多数受賞 。2012年よりコロンビア大学GSAPPで教鞭をとる。

取材、文/島村美緒(プレミアムジャパン編集長)、写真(人)/古谷利幸