日本語 | English | 简体中文 | 繁體中文

闇というキャンバスに、光の絵の具で描く。照明デザイナー・石井リーサ明理さん 《後編》

2018.07.09
_O6X5698

 

照明デザイナーとして活躍する、石井リーサ明理さん。後編では世界中で仕事をする彼女だからこそわかる、多岐にわたる業務内容やお国柄による個性の違い、そしてご自身の今後のことなどをお話しいただきました。

 

照明デザインにも、建築、都市や庭園、イベント、美術館、舞台など、さまざまな分野があるとうかがいました。

え、そうです。それぞれに特徴が違います。例えば都市計画なら街全体の話ですから、スケールはとてもエキサイティング。やりがいも社会的責任も大きいですが、一方で完成までに長い時間がかかり、気が遠くなることもあります。それに対してイベントだと3ヶ月程度で完結することも多く、そのスピード感が楽しい部分でもあります。わずかひと晩だけということもあって、「ああ、なくなってしまった」という寂しさも……。美術館の特別展などでは、その展示の中で作品をどう見せたいかによって、光の当て方も違い、職人的な技も使う器具も変わってきます。限定された空間という点では一緒でも、人や物が動く劇場ではまたやり方が異なります。

照明デザイナーさんによって、店舗照明が多い、都市ばかりやっている、劇場照明専門、照明器具のデザインが中心など、さまざま。私はどんな分野でも、お話があって、条件やスケジュールがあえば、できる限り多彩なことにチャレンジしようと考えています。

分野が違えば、プロセスも期間も違うわけですね。

「ポンピドー・センター・メッツ」(写真提供:石井リーサ明理)

の通りです。例えば私の代表作のひとつ、フランスの国立美術館、ポンピドー・センター・メッツ。大型国際コンペ後の当選案展覧会で建築家のジャン・ド・ガティンさんと坂茂さんによる、大胆な木構造の屋根が建物をふわっと包み、冠雪した雪のような当選案を見た時、「これはすごい! 光を当てたらきれいだろうなぁ」と夢中になりました。一目惚れですね。当時私は独立したばかり。黙っていてもお話は来ませんから、照明案を作って自分から売り込み、幸運なことに採用していただきました。これは完成までに5年ほどかかっています。

日本と他国とでは、仕事のやり方に違いがあるのでしょうか。

ランスは、いい意味でも悪い意味でも融通無碍なところがあって、ネゴるとどうにか話が通ったりすることがあります。もちろんこちらがネゴられることもあります(笑)。フランスのすごいところは、国籍や人種にかかわらず、表現ができるアーティストには正当な評価をしてくれることです。スペイン人のピカソやポーランド人のショパンがフランスで活躍したのはご存知の通り。例えば私がフランスの国家的プロジェクトを担当する際も、「なぜ外国人にやらせるのか」といった発言は絶対に出ません。フランス語が必須なのがネックですけれどね。

一方、日本は最初にきちんと物事を決めますが、後からの変更はとても難しい。例えばLEDの技術向上は日進月歩ですから、計画後にいい器具が出ることはよくあるんです。でも、ダメなんですよねぇ。計画もスケジュールもきちんと決まっていて、それをコツコツこなす。農業国らしい仕事の進め方です。

不思議なのはイタリア。現場スタッフの遅刻なんてしょっちゅうで、スケジュールも遅れがちなのですが、最後の帳尻合わせ力がすごい!(笑)。職人さんの能力が実は非常に高いんです。でも普段はそれを見せずに、追い込みの時に見せる。「えー! こんなことできるの? こんなに速く?」といつも驚かされます。毎回そうですから面白いですよね。

 でもいずれにせよ、いつでもどこでも、初めて会ったチームと仕事をし、それを成功させるというミッションは変わりません。プレッシャーはプロジェクトの大小いかんに関わらず、その大きさは一緒。毎回が新しい挑戦ですし、数々の現場で鍛えられましたよ。

 

 

仕事の中で、自分が日本人であることを強く感じる局面はありますか。

風においては、ほとんどありません。感じないように意識しているという方が正確かもしれませんが。日本的な表現を売りにしているつもりは、まったくないですね。

結果的にですが、日本人であるメリットを感じる時はあります。提出物を期日に出すとか、普通にやっているだけで、周りに褒めてもらえるんですよ(笑)。また、照明デザインはチームでやる仕事。私は和を乱さず、なるべく仲良くやりましょうというスタンスなんですが、「あなたとは仕事がやりやすい」と言ってもらうことが多い。そんな時は、「ああ、日本人だからかな」と思ったりします。

近々では、2018年9月13日(木)、14日(金)に実施される、「ジャポニスム2018」のハイライト、パリ・エッフェル塔の特別ライトアップがありますね。

エッフェル塔ライトアップ文字消し込み後01

パリ・エッフェル塔のライトアップ(イメージ)

れまでもドイツ・ベルリンのブランデンブルク門や、イタリア・ローマのコロッセオなど有名なモニュメントのライトアップを担当させていただきました。これらは母との共同企画なのですが、いつも我々は有名な建物で、一般の方に無料で見ていただけるものをライトアップしようと考えているのです。今回のエッフェル塔も、偶然通りがかった方が「結構すごいね」「日本て、面白い」と感じて下さり、もう一歩進んで日本を知ろうとして下さったらいいですね。

今後、やってみたいことは。

明デザインは、必要とされるところに呼んでいただけなければ仕事になりません。ですから本当に夢物語ですが、砂漠や秘境にある遺跡などのライトアップをしてみたいですね。貧困や治安などの社会問題を抱えたエリアでは、ライトアップが仕事の発生や遠方からの観光客誘致など、問題解決策の一助になる可能性があります。光によってみんなの生活がハッピーになる。そんなよい流れを作るお手伝いができたらと考えています。

 

《前編》はコチラからご覧下さい。

 

石井リーサ明理(いしい りーさ あかり)

東京生まれ。東京藝術大学美術学部卒業。 東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。 ロサンゼルス、パリにてデザインを学んだ後、NYでの研修を経て、石井幹子デザイン事務所に入社。1999年、パリのライト・シーブル社に移籍し、チーフデザイナーとして数々のプロジェクトに携わる。2004年に独立し、I.C.O.N.を設立。国際的な照明デザイン・プロジェクトに従事すると同時に、光文化の研究、アートワーク制作、専門誌への寄稿や講演活動など、その活躍は多岐にわたる。

 

 

取材/島村美緒(プレミアムジャパン編集長)、文/木原美芽、写真/山村隆彦(人物)