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ヴェネツィアと京都。ふたつの古都を太陽と月にたとえ、二都市を往来しながら、壮大なガラス作品を創作する三嶋りつ惠さん。《後編》

2018.11.20
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千年を超えるガラス製造の歴史を持つイタリア・ヴェネツィアで、精力的にガラス作品を創る三嶋さん。その作品はダイナミックで洗練され、原始的で有機的な印象も持ち、並外れた情熱とパワーを発しています。すべて透明なだけに、光を受けて、見る人の瞳と心に自由にさまざまに映ります。

30代半ばでガラス作家としてスタートし、今では世界各地にコレクターを持ち、パワフルに活躍されています。前編では、その才能を花開かせるまでの足跡と制作の源泉を、後編では、ヴェネツィアと京都で暮らす日常を聞きました。そこには、どんな試練や困難も創意工夫で乗り越え、人との縁に感謝しながら自由に生きる、しなやかで野性的な女性の姿がありました。

現在は京都とヴェネツィア、2か所を拠点に暮らしていますね。

子の希望もあり、2005年にヴェネツィアから日本に戻りました。当時は東京の根津に住み、ヴェネツィアで作品を制作する暮らしを送っていました。2011年に京都の洛北に築80年の数寄屋造りの家を見つけ、東京から移り住み、現在は京都とヴェネツィアを1か月ごとに行き来する暮らしを続けています。


築80年の数寄屋造りの家。

具体的には、どのようなライフスタイルでしょうか。

私のガラスの制作の場はヴェネツィアです。週に3日ほどムラーノ島の工房に通い、打ち合わせや下準備をし、主に金曜日に作品の制作をします。工房に行く日は朝4時に起き、太陽の昇る前の暗いヴェネツィアの街を歩きます。アカデミア橋を渡り、フォンダメンタ・ヌォーヴェからムラーノ島に渡るヴァポレット(水上バス)に乗ります。ガラス制作は瞬間の技であり、時間をかけるほどリスクも高くなるため、早朝からかなり集中して短時間で作品を仕上げます。午後は身体のバランスを整えるため、ジムに通うよう努めています。


ヴェネツィア ムラーノ島の工房で作品を制作する三嶋さん。

ェネツィアの暮らしで好きなのは、朝のバールでの空気感。エスプレッソの蒸気の音や、カップやお皿を重ねる音、あの香りや人々の会話…、そこで飲むエスプレッソは日本にいると恋しくなるヴェネツィアの日常のひとこまですね。

京都ではどのような過ごし方をしていますか

友人や知人との付き合いを丁寧に楽しんでいます。お茶事に誘われたり、皆で東寺の骨董市に行ったり。今は毎日、築80年の数寄屋造りの家を大工さんや職人さんたちと修繕し、建具などを作っている最中です。古い家の改修は無限にやることがあり、お金もかかって大変ですけれど、実に面白いのです。ムラーノでのガラス制作と同様、職人さんからは学ぶことも多く、何かを一緒に作り、成し遂げていくことが、私はほんとうに好きなんですね。

私にとってヴェネツィアは生活や仕事の基盤がある住み慣れた地で、一方、京都は、現在進行形で楽しみや喜びを見つけられる刺激的な場所。生まれ故郷も京都ですが、今住んでいる洛北は未知の土地でした。


大工さんや職人さんたちと修繕し、建具などを作っている最中の家。

イタリアを太陽に、日本を月にたとえ、その軌道を行き来しています。みずから輝く太陽と、光を反映する月――三嶋さんの作品にも、光と影、外に向かう激しさと、静謐な内省がある印象です。

タリア人は太陽が大好きで、日本は月に深い情緒を見出す国。イタリアは他国とも地続きで世界を感じさせ、日本はいい意味でも島国らしい国。まったく対照的な二か所で暮らすのは面白いですね。京都は平安からの歴史があるからこそ、そのエネルギーが新しいものに転換する力のある街。京都は今、パンドラの箱が開いて、ますます魅力的になっていると感じます。

現在の活動と、今後、成し遂げたいことをお聞かせ下さい。

2020年に向けて再開発される日本橋エリアでのパブリックアートのプロジェクトが進行中で、大きな作品を制作中です。また、ヴェネツィアならではの仕事ですが、個人の所有する豪華客船の内部を飾る作品なども、建築家や船の設計士を通して頼まれることもあります。


光を受けて、見る人の瞳と心に自由にさまざまに映る透明な作品。

今、自宅の他に、同じ洛北に、建築家の妹島和世さんが手がけた集合住宅の一室を借り、海外の友人に滞在してもらうなど自由なスペースとして活用しています。この集合住宅はアート関係の人が多く集う長屋的な雰囲気もあり、理想のコミュニティに近いものです。今後は自宅の庭にピザ窯を設置したり、畑で野菜を育てたりして、ぼんやりですが皆で楽しむ暮らしを夢見ています。ひとりではできないから、いろいろな人と関わって実現したいですね。


建築家の妹島和世さんが手がけた集合住宅の一室。Photo: 市川 靖史

ご自身の生き方、来し方を振り返って、メッセージを下さい。

像できること、やってみたいことは、とにかくすべてとことんやってみる――。そんな生き方で、苦労をしてもやりたいことの85%は行ってきたと感じています。頭の中で想像できる自分に出会うため、思いたったら行動に移しています。

自分自身に興味を持ち、未知の自分を思い描き、知らないことを知る喜びを糧に、”清水の舞台”から飛び降りて飛翔する、その連続です。とことんやってダメなら、いさぎよく3か月で辞めればいいとも考えます。若い人に伝えているのは、何かを始めたら中途半端にせず、ひとつひとつきちんと終わらせ、区切りの「。」を付けること。気分よく次に進むためです。完了させた物事や創り上げた作品は、自分の手を離れ、作品自体が遥かな世界を歩き、未知の海を泳ぎ、またあらたに豊かな果実をもたらしてくれるのです。

《前編》はコチラから

<プロフィール>

三嶋りつ惠 Mishima Ritsue(みしま・りつえ)
1962年京都府生まれ。20代の半ばでイタリア・ヴェネツィアに移住し、1996年にムラーノ島で職人との共同作業によるガラス作品の制作を開始。現在は京都にも拠点を持ち、日本とイタリアを行き来して活動を行う。

◆主な個展に
「星々」ShugoArts、東京(2017)
「IN GRIMANI」 国立パラッツオ・グリマーニ美術館 、ヴェネツィア(2013)
「あるべきようわ」 資生堂ギャラリー、東京(2011)
「Frozen Garden / Fruits of Fire」 ボイマンス・ファン・ブーニンゲン美術館、ロッテルダム(2010)
「しずかな粒子」 ヴァンジ彫刻庭園美術館、静岡(2007)、他

 ◆パブリックコレクション  
ヴァンジ彫刻庭園美術館(日本 静岡県)  
Musee des Arts decoratifs(フランス パリ)  
Boijmans Van Beuningen(オランダ ロッテルダム)、他

http://shugoarts.com/artist/59/

 

文/山岸みすず、写真/作家提供、協力/ShugoArts