学生時代、銀座でアルバイトしていたころはよく銀ブラをした。「この街を歩く人は大人が多く、背筋が伸びました。木村屋のあんパン一つ買うのもちょっと大人になった気分でした」。

Lounge

Tokyo, 7 p.m.

竹脇麻衣のGINZA 夜7時

2019.11.21

「シネスイッチ銀座」で見た映画が教えてくれた、人生を愛するということ

学生時代、東銀座でアルバイトしていたころはよく銀ブラをした。「この街を歩く人は大人が多く、背筋が伸びました。木村屋のあんパン一つ買うのもちょっと大人になった気分でした」。

ファッションイラストレーションや、キュートな猫の絵で人気のイラストレーター、竹脇麻衣さん。可憐な深窓のお嬢様の面影はそのままに、自立する真に強い女性となる過程には、映画との出合いもあった。銀座の映画館で観る映画は、心の栄養と感性となって、さらに彼女とその作品も輝かせてきた。


愛する猫と暮らし、個展の準備をはじめイラストの仕事で毎日忙しく過ごす竹脇さん。猫の世話と誠実な仕事ぶりゆえ、ゆっくり外出する時間もなく、銀ブラも無理。でも銀座といえば映画館。銀座の真ん中にある「シネスイッチ銀座」にはよく足を運び、忘れがたい映画を何本も観てきた思い出がある。

銀座4丁目からすぐ、シネスイッチ銀座の入り口で。祖母から母へ、娘へと伝わった美しいバッグを手に。 銀座4丁目からすぐ、シネスイッチ銀座の入り口で。祖母から母へ、娘へと伝わった美しいバッグを手に。

銀座4丁目からすぐ、シネスイッチ銀座の入り口で。祖母から母へ、娘へと伝わった美しいバッグを手に。

美術学校の恩師に導かれ、
映画に目覚める

幼少から私立の学校に通い大学は法学部へ。法律、とくに民法を学ぶのが楽しかった。でも「家にいるのが好き。家でする仕事をしたい」と就職せず、美術学校セツ・モードセミナーへと進む。アルバイトをしながら数年通い、在学中にイラストレーターとしてデビューする。「それまで、私はちょっと不思議な人、と思われていましたが、セツに行ったらみんな個性的な人ばかり。な~んだ私はふつうなんだ、と気が楽になりました」。その校内の掲示板にいつも貼られていたのが、セツ・モードセミナー創始者・校長であり映画評論家でもあった、長沢節さんによる映画評。初めてそれを見た時『プリシラ』が大絶賛されていた。「学生時代は親の方針で、映画館へ一人で行くことが禁じられていました。この映画評を読み、これは一人でも行かなくては!と」。その上映館がシネスイッチ銀座だった。


『プリシラ』(1994年)は、オーストラリアの砂漠をドラァグクイーンの3人組がバスで旅するロードムービー。「登場人物はみな生きずらさを抱きながら、さまざまな出逢いや体験で少しずつこじれたものがほぐれ、自分の家に帰っていく。観終わった後は感動で震え、すぐには席を立てないほどでした。周りも同様の人ばかりで、小さな映画館に漂う包み込まれるような優しさと共感にも心を動かされました」。

地下にある劇場「シネスイッチ1」は座席数271と広々している。ルーフバルコニータイプの2階席もあって人気だ。 地下にある劇場「シネスイッチ1」は座席数271と広々している。ルーフバルコニータイプの2階席もあって人気だ。

地下にある劇場「シネスイッチ1」は座席数271と広々している。ルーフバルコニータイプの2階席もあって人気だ。

心のこじれが和らぐ、
そんな映画に魅せられて

それから20年近くこの映画館に通い、『バスキア』から『日日是好日』まで無数の映画を観てきた。洋画も邦画も好き。ミニシアターの映画の魅力は、さまざまな国の、地味でもじんわり心に響く作品が見られること。未知の場所で繰り広げられる人々のユーモアや優しさ、時には意地悪さ、ちょっとした言い回しや感情表現にドキドキしてしまう。さりげなく置いてある小物も魅力的で、そんな細かな部分を拾い上げるのはどんな人だろうと、監督の名前も覚えるようになった。

上映時間の前後はクラシックな木の椅子のあるロビーで一休み。 上映時間の前後はクラシックな木の椅子のあるロビーで一休み。

上映時間の前後はクラシックな木の椅子のあるロビーで一休み。

映画への愛情があふれる、上映作品に関するディスプレイを眺めるのも楽しい。 映画への愛情があふれる、上映作品に関するディスプレイを眺めるのも楽しい。

映画への愛情があふれる、上映作品に関するディスプレイを眺めるのも楽しい。


もし、猫がいなかったら…、
という言葉が思いつかないほど愛して

育ったのは、広い庭に野鳥もノラ猫もやって来るような、大きな家。家族みんな動物が好きで、犬も猫も飼ってきた。雨の日ノラ猫たちはどうしているだろう、と心配でたまらなくなるというほど猫好きの竹脇さん。2012年には、少しでも不幸な犬や猫を減らそうと有志で出版した、猫と人の不思議で心温まる奇跡のような実話の絵本の絵を担当した。タイトルは、ずっと一緒にいたいから、『明日もいっしょに起きようね』。これは竹脇さんの母親が、毎晩眠る前に語りかけてくれた言葉だった。「子供の頃の、絵本作家になりたという夢がこの本で叶いました。幸せなことですが、ブレなかったんだなと、自分の頑固さに少し驚いてもいます」。

映画に心をほぐされて。見る人の心を明るく和ませる竹脇麻衣さんの絵。父は俳優の竹脇無我さん。晩年、麻衣さんの活躍を誰よりもよろこんでくれたことが記憶に残る。 映画に心をほぐされて。見る人の心を明るく和ませる竹脇麻衣さんの絵。父は俳優の竹脇無我さん。晩年、麻衣さんの活躍を誰よりもよろこんでくれたことが記憶に残る。

映画に心をほぐされて。見る人の心を明るく和ませる竹脇麻衣さんの絵。父は俳優の竹脇無我さん。晩年、麻衣さんの活躍を誰よりもよろこんでくれたことが記憶に残る。

暗いニュースが多いから、
絵の色は明るく楽しく

麻衣さんのお父さまは俳優の竹脇無我さん。今は亡き父親は、実力も人気も絶大で、映画やテレビの仕事で多忙を極め、幼少期はなかなか会えない時期もあった。映画が父親代わりになって、さまざなことを示し、「許してくれた」と感じるという。父も絵のうまい人だった。「私の描く絵で、少しだけ日常から浮遊してホッと一息ついてもらえたり、ニヤリとしてもらえたらと思っています。だから私の絵は細密で、見るたびに何か発見があり、毎回違うストーリーを想ってもらえるように心がけています。最近は世の中が暗いニュースばかり、それが悔しくて。だから色使いは明るく楽しくしています。これからも、漠然と頭にあるものが形になってきた時、そのシッポを必ず捕まえられるよう一歩一歩進みたいと思っています」。

 

映画を観た後、余韻に浸りながらサントラ盤を探しにレコード店に立ち寄ったり、画廊を眺めたり。夢を叶え、見え隠れするしっぽを追いかけながら、竹脇さんはいつしか、銀座を歩くすてきな大人のひとりとなっていた。

 

竹脇麻衣 Takewaki Mai
東京生まれ。青山学院大学法学部卒業後、セツ・モードセミナーへ。在学中にフリーでイラストレーターを始める。書籍、雑誌、広告などのイラストや著作で幅広く活躍する。著書に絵本『明日もいっしょにおきようね――捨て猫、でかおのはなし』(文:穴澤賢、デザイン:岡優太郎  草思社)、『ねこと太陽の大冒険 ぬりえBook ミャオトピアの仲間たち』(コスミック出版)などがある。

竹脇麻衣公式サイト
http://www.takewaki.info/
公式インスタグラム
https://www.instagram.com/mai_takewaki_illustration/

◆ 「CASSY」 は、『素肌にカシミヤ』をコンセプトに、最高級極細毛を使用した上質で肌触りが良く、シンプルで長く愛用できるカシミアニットウェアを提案するブランド 。12月より、竹脇麻衣さんと コラボレーションした 「CASSY gift 」の愛らしいギフトコレクションを「CASSY」のオフィシャルサイトで販売を開始する。
https://cassycashmere.com/fs/cassy/c/

◆毎年2月、猫の日(2月22日)にちなんで、新宿伊勢丹本店「アート&フレーム」にて猫の絵による個展を開催。サイン会も実施している。
会場:新宿伊勢丹本館6F アート&フレーム
会期:2020年2月12日(水)~25日(火)
サイン会:2020年2月22日(土)23日(日)両日共に14:00~16:00

 

 

シネスイッチ銀座
世界各国の良質な映画を多数上映し、幅広い世代に支持される映画館。ミニシアター興行成績第1位の『ニューシネマ・パラダイス』も話題になった。前身は、昭和30年代から”銀文”の愛称で親しまれた「銀座文化劇場」。1997年に「シネスイッチ銀座1・2」としてリニューアルオープン。洋画と邦画をスイッチ(切替)しながら上映している。

私のちいさなお葬式 私のちいさなお葬式

◆12月6日(金)より『私のちいさなお葬式』を上映予定。

73歳・元教師のエレーナ。ロシアの小さな村で充実した余生を送るある日、突然の余命宣告を受ける。都会で働くひとり息子に迷惑かけまいと自らお葬式の準備をするが、最終章で想定外の事態が持ち上がる。ロシアでの多数の賞に輝いたユーモアと愛にあふれる人生賛歌。監督:ウラジーミル・コット 出演:マリーナ・ネヨーロワ 2017年/ロシア/100分 12月6日(金)より、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
(C)≪KinoKlaster≫

東京都中央区銀座4-4-5  籏ビル
ふたつの劇場がありどちらも全席指定制。オンラインでチケット購入可能。*毎週金曜日レディースデー *毎月1日映画サービスデー *夫婦50割引(異性・同性/LGBTを問わず利用可能)*障がい者割引など各種割引も実施。
03-3561-0707
http://www.cineswitch.com/index.htm

Photography by Yuji Hori
Text by Misuzu Yamagishi
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