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松本城の天守群:「美しき城」vol.7 萩原さちこ

2016.03.14

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5棟の国宝に隠されたドラマ

眺める場所によって、天守が醸し出す表情に違いを感じませんか。乾小天守と渡櫓及び大天守が並ぶ西側から見ると、壁面の装飾も少なく、殺風景で緊迫感のある雰囲気。それに対して辰巳付櫓と月見櫓が並ぶ南側は、デザインや色合いにも遊び心やゆとりが感じられるのではないでしょうか。それは、5棟の国宝が一度に建てられたのではなく、増築されて完成しているからです。乾小天守と渡櫓及び大天守は戦国時代に、辰巳付櫓と月見櫓は江戸時代につくられました。戦乱の世に築かれた戦闘仕様の前者と、太平の世に築かれた後者では、構造や意匠が大きく異なるのです。お気に入りのアングルを探しながら歩くのも、松本城散策の楽しみのひとつです。

月見櫓は、その名の通り観月のためのレクリエーション施設です。1633年(寛永11)3代将軍・徳川家光が善光寺への参詣時に立ち寄る話があり、前年に急ぎ増築されたといわれます。おもてなしの場ですから、戦闘色は一切ありません。櫓内に入ればそれは一目瞭然で、薄暗く閉鎖的な戦闘仕様の天守に対して、月見櫓は広々として明るく、貴賓室のような優雅な雰囲気です。舞良戸と呼ばれる板戸を外せば吹き抜けになり、さらに開放的な空間が広がります。

月見櫓の脇には舟着場があり、どうやら小舟で水堀に出ることもできたようです。満月の夜には水堀に小舟を浮かべ、月を愛でることもあったのでしょうか。そもそも水堀は敵の侵入を防ぐ防御装置ですから、松本城の水堀の幅も築城時の鉄砲の射程を計算して設定されています。戦いのためにつくられた水堀は、この頃には水辺の遊び場へと変化していたのかもしれません。

 

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