日本語 | English | 简体中文 | 繁體中文

PREMIUM SHIGA プレミアム滋賀

《第5回》近江八幡の歴史と風土とともに、アートが響きあう BIWAKOビエンナーレを訪ねて

2018.10.29


今年はじめて会場に加わった寺本邸。江戸時代から近江八幡の地場産業であった近江八幡瓦。寺本家は八幡瓦製造の最大手だったという。前栽に歩みを進めると、そこはすでにギャラリー。写真右から、岩絵具を使用し立体感が美しい水墨画。長谷川早由「island」 、畳のマットさと光の対比がユニーク。井上剛「ヒのマ -散光ー」、障子に差し込む光に揺れる金魚が美しい。西村麻美「珈琲深湖」。

PREMIUM 滋賀《第2回》でご紹介した、近江商人のふるさと・近江八幡。特に八幡堀沿いの旧市街一帯は、古都の風情が静かに残る美しい町でした。この秋、その近江八幡でBIWAKOビエンナーレが2年ぶりに開催されています。その特徴は、八幡堀界隈に点在する町家建築をギャラリーとして使用し、国内外のアーティストの作品展示をしていること。大広間にも、そして開け放たれた庭、土蔵の中まで、さまざまなアーティストが各町屋の持ち味や、しつらえを活かした作品を制作しているといいます。町家と現代アートがどのようなケミストリーを見せてくれるのか知りたくて、近江八幡を再び訪れました。


寺本邸の庭から母屋を望む。南野 馨「Untitled  1704」。

インスピレーションを与え、作品へと導く
町家のちから

本邸は、八幡堀沿いにひときわ大きな塀に囲まれ、往時の威容を感じさせるお屋敷。今年で4回目の参加となるcircle side(サークルサイド)の作品「edge type」は、寺本邸・母屋の奥に位置する土蔵の闇の中に展示されています。circle sideは安積亜希子さん、小笠原寛夫さん、北村博朗さんの3人で活動するメディアアートのユニット。メンバーのひとり、安積さんがこの作品の制作過程について、興味深いエピソードを話してくれました。寺本邸というトポスの持つ力に圧倒され、当初の構想とはまるでちがうものが出来上がっていった、というのです。「場所が作品を定義してしまう、とでもいうのでしょうか。あらかじめ、こんなものを作ってみたいという構想を持っていても、変化を余儀なくされる。この場所が私たちに作品を生みださせる、作りださせるのです」。


作品名に付された緯度と経度は、寺本邸の場所を示したもの。circle side「 " edge type [ 35° 8' 27.4"" N  136° 5' 30.4""E ]"」

回の作品は、寺本邸に打ち捨てられていた瓦を素材にし、そこへ映し出される映像と、実際にサンプリングした雨音を使用したサウンドが融合したものです。「私たちが、素材や空間を大切にしたいと、以前より強く思うようになったのは、BIWAKOビエンナーレに参加をするようになってからです」と安積さん。

カネ吉別邸の中前栽に映える。園三 「露地紋」。(写真左) circle side 安積亜希子さん(写真右)

総合ディレクター 中田洋子さんに聞く
BIWAKOビエンナーレとは

田洋子さんが発起人となり、2001年に大津から始まったBIWAKOビエンナーレも今年で8回目となります。ニューヨーク、マニラ、パリと長い海外生活を送っていた中田さんは、里帰りするたびに景観が激変する日本に危機感を覚えていました。古く、しい街を自らのアイデンティティとして大切にしているパリのように、精神性を失ってほしくないのに…。そう考えていた中田さんが近江八幡の町家と出会ったのが2002年のこと。「歴史と美しさが共存する町が、こんな近くにあったということが驚きでした」。ひとりの知己もいないこの町で、少しずつ協力者を増やし、2004年に5軒の町家を会場にすることからスタート。今年は12会場のうち10会場が町家になりました。


江戸末期創業の酒蔵跡を利用したまちや倶楽部。驚くほど広大なスペースに仕込み樽や酒瓶などが残され、作品との距離感がユニーク。展示点数も多く、見応えのある会場だ。
写真左、辻村耕司「ある日ある所, 誰かが語りかけてくる」(写真右)。ひとりの女性が北欧の古語であり、現在では卜術としても注目されるルーン文字を組み立てる様子を映し出すメディアアート。Gabriela MorawetzEldrun  (写真左)

 旧扇吉もろみ倉は、醤油製造を行っていたという。写真左から、伊島薫「ONE SUN」、田中誠人「Fullmoon  effect」(写真左)作品の質量に圧倒される喜多邸の離れ。江頭誠「ブランケットが薔薇でいっぱいⅢ」(写真右)

BIWAKOビエンナーレ 総合ディレクター 中田洋子さん。近江八幡の旧市街の美しさに「目からうろこが落ちるような衝撃を受けた」そうです。当初、周囲からは怪しまれたこともありましたが、会場として使用できるよう徹底した掃除をし、町家を丁寧に扱ってくれることが知られるようになると、中田さん達への対応は変化していきました。それでも、この16年間でかなりの町家が取り壊され、駐車場などになっていったことに危機感を募らせています。 

モダンなお茶室を再現した、カネ吉別邸の土間。松本 悠以 + 永井 拓生「奇想天蓋」(写真左) BIWAKOビエンナーレ 総合ディレクター 中田洋子さん。(写真右)

近江八幡から発信する
アートと町並みの保存という両輪

場となる町家は、江戸期に建てられたものが多く保存状態はまちまち。空き家となっているものがほとんどです。そのため、スタッフやインターンが時間をかけて掃除や修繕をし、準備。夏にはアーティストたちが近江八幡へ入り、町家に備え付けられていたものなどを利用しながら、その場に呼応する作品を作り上げていく‐‐‐それがBIWAKOビエンナーレならではのスタイルなのです。約80組のアーティストの作品を展示した町家、そして町全体は、まるで息を吹き返したように生き生きとした表情を見せていました。「近い将来、アーティストに実際に生活してもらう、アーティストインレジデンスも試みたいですね。また海外での展開も考えています。アートと町並みの保存を両輪として、この近江八幡から発信していきます」と中田さんが語ってくれました。晩秋を迎えるひととき、町屋と現代アートが響きあう時空間に浸ってみてください。

 

 PREMIUM滋賀第1回から4回はコチラから

 

BIWAKOビエンナーレ2018 きざし~ BEYOND

開催期間:2018年09月15日(土)~11月11日(日)
開場時間:10:00~17:00
休場日:火曜定休
開催場所:滋賀県近江八幡旧市街 
料金:会場パスポート料金 一般2,200円【前売2,000円】、学生(大学生・専門学校生・高校生)1,500円【前売1,300円】、中学生以下無料

 https://energyfield.org/biwakobiennale/

 

取材、文/千祥 写真/平林義章