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PREMIUM SHIGA プレミアム滋賀

《第7回》歴史と自然の里・奥永源寺 新たな息吹をもたらす2人の挑戦

2018.12.03

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奥永源寺エリアとは、杠葉尾(ゆずりお)、黄和田(きわだ)、蓼畑(たではた)、政所(まんどころ)、箕川(みのかわ)、蛭谷(ひるたに)、君ヶ畑(きみがはた)の7つの点在する地区からなる。

紅葉の美しさで有名な永源寺から、さらに山間部に分け入っていくとそこは奥永源寺というエリアです。近江に惹かれた白洲正子の著書『かくれ里』、『近江山河抄』、『西国巡礼』にも登場する歴史と自然豊かな奥永源寺。しかし近年は人口減少により、限界集落の問題に直面しています。その奥永源寺に移り住み、未来を切り開こうとする人たちがいます。かれらの思いや願い、活動についてお話しをうかがいました。

の茶どころ・政所(まんどころ)を歩く

「宇治は茶所、茶は政所」と歌われるほど、茶どころとして名を馳せていた政所。集落に分け入っていくと、渓流沿いの斜面に茶畑が見えてきます。不規則に、小さくまん丸いお茶の木が点在し、茶の木が整列するように並んだお茶畑ではありません。「みなさんが思い浮かべる茶畑というのは、戦後になってからのものなんです」と案内してくれたのは、地域おこし協力隊に応募し移り住んだ山形蓮さんです。戦後、在来種から「やぶきた」など品種改良したものに植え替え、農薬や化学肥料を使用して増産する方向へと進んでいった日本各地の茶産地。政所では、地場産業であった林業が衰退し過疎化が進み、同時に茶づくりの担い手も減少。近代化されることのないまま現在に至ります。「その結果、自家用や従来のお付き合いのあった方にだけ販売するというスタイルになり、幻のお茶となってしまったのです」と山形さんが説明してくれました。


渓流沿いの急な斜面に点在するお茶畑とお茶農家。茶の木はすべて在来種。水はけのよい土壌、谷筋という地形による朝晩の寒暖差と朝霧など、良質なお茶を生み出す条件がそろっている。(写真上) 案内してくれたのは山形蓮さん。政所茶の生産や普及、啓発活動に奔走する日々を送っている。(写真下左)可愛らしい花をつけるお茶の木。量産する産地では茶木に花を咲かせることはないが、ここでは自然のリズムにゆだねられている。(写真下右)

お茶づくりだけでなく、自然を守るという思いとライフスタイルまで伝えたい

来種が残り、昔ながらの栽培方法が脈々と続いている政所。肥料もススキや落ち葉を使うため、もちろん無農薬です。過去には農薬を使うことを考慮することもあったそうですが、琵琶湖に続くこの渓流に農薬が流れたらその水で生活する人たちに申し訳がないと、政所の人々は農薬使用を拒みました。「政所茶をたくさんの人に味わってほしい。知ってほしいという思いとともに、政所の人たちが守ってきた自然を大切にするという価値観、ライフスタイルまでも一緒に伝えたいのです」。山形さんが政所茶、そして政所の人々に惹かれ、共に暮らす理由がここにあります。

木地師の里、君ヶ畑から新事業創生を目指して

「地域づくりに貢献したかった」と語る前川真司さん。山形さんと同じく地域おこし協力隊として、この君ヶ畑町に移住してきました。とはいえ、人口減少が進み、限界集落となった君ヶ畑の地域づくりは簡単なことではありません。木地師のふるさとガイドツアーなど、さまざまな企画を実施していますが、それだけで生計を立てることは困難。試行錯誤の末、前川さんがたどり着いたのは東近江市の花、紫草(ムラサキ)を使った新事業でした。


集落のすぐそばを流れる御池川の澄んだせせらぎ。(写真左)惟喬親王を主祭神として祀る、大皇器地祖神社。惟喬親王が木地師(きじし)の祖と呼ばれる所以は、惟喬親王がこの地に移られ木工技術を伝えたという伝承から。(写真中央) 明るさとバイタリティで、限界集落の問題に取り組む前川真司さん。(写真右)

絶滅危惧種 ムラサキを使ったオーガニックコスメ「MURASAKI no ORGANIC」の誕生

近江市で栽培されているムラサキは、地球温暖化の影響でほとんどが死滅してしまう年があるほど栽培が難しい植物でした。しかし標高400メートル以上に位置し、冷涼な奥永源寺エリアでの栽培に成功。その根を紫根といい、古来からヤケドや傷の薬として用いられてきたことに着目し、スキンケアコスメ「MURASAKI no ORGANIC(ムラサキノオーガニック)」を開発することになりました。奥永源寺で栽培されたムラサキをメインに、配合する自然成分はなるべく滋賀県産のものを用います。「継続的に生計を立てていける事業を創生することを模索してきて、ムラサキにたどり着きました。雇用を生み、奥永源寺に活力をもたらしたいのです」。その努力が実り、環境省の「グッドライフアワード2018 サスティナブル・ビジネス賞」を受賞しました。前川さんの挑戦はまだ続きます。


「MURASAKI no ORGANIC(ムラサキノオーガニック)」は、洗顔、化粧水、乳液、美容液、ハンドクリームの全5品。ターンオーバーや、日焼けによるシミ、ソバカスのケアをサポート。手前は原材料の紫根。(写真左)ムラサキの根。「冠位十二階最高位」の「濃紫(こきむらさき)」の染料として使われていたことからムラサキと呼ばれた。(写真中央) 白く可憐な紫草の花。万葉の時代に蒲生野(現東近江市)で、額田王が大海人皇子にあてて詠んだ「あかねさす 紫野行き 標野行き 野守りは見ずや 君が袖ふる」という恋歌にも登場する花。(写真右)

 

政所茶縁の会

http://mandocorocha.wpblog.jp/

山形蓮さんが代表を務める。政所茶の生産、また茶摘み体験などの普及活動を実施している。山形さんは「政所茶生産振興会」も発足した。

政所茶縁の会 ONLINE SHOP

https://mandocorocha.theshop.jp/

政所茶縁の会のみなさんが栽培した在来種のお茶を購入できる。在来種で無農薬栽培ということで販売開始とともに売り切れてしまうほどの人気。

みんなの奥永源寺

http://okueigenji.co.jp//index.shtml

前川真司さんが代表を務める会社組織。政所茶・木地師・紫草・鈴鹿の自然など、奥永源寺の魅力を発信。木地師と呼ばれた木工技術者の技とその歴史をめぐるツアーや、紫根染め体験、政所茶の手摘み体験ツアー、イワナの摑み取りツアーなど観光事業、「MURASAKI no ORGANIC」の企画製作販売も手掛ける。

■MURASAKI no ORGANIC

http://www.murasakino.organic/

奥永源寺産の希少な国産紫根のエキスを使用したオーガニックコスメ。オンラインショップで購入することもできる。

道の駅 奥永源寺渓流の里

滋賀県東近江市蓼畑町510 
TEL:0748-29-0428
営業時間:9:30~17:30(4月~11月)、9:30~16:30(12月~3月)
休館日:毎週火曜日(火曜日が祝日の場合は、翌日の水曜日が休館日)、年末年始(12月29日~1月2日)

http://okueigenji-keiryunosato.com/shop.html

※政所茶、赤こんにゃくなど地元の特産品が購入できる。

 

取材、文/千祥 写真/平林義章