2025年11月、奈良県天理市で新たなオープンドア・イベント「天理 倉の耕流祭」が開催された。
2700坪というスケールを誇る物流倉庫「中川政七商店・NKG倉庫」が天理市に誕生したことをきっかけにして、「倉庫のお披露目にとどまらず、天理という土地の文化や魅力を多くの人に伝えたい」という想いから企画された。イベントは市内業者で立ち上げた実行委員会が運営し、市内全28社が参加。ものづくり、食、文化、歴史を横断する、天理市の魅力を発信する一大イベントとなった。
開催直前にはメディア向けツアーが実施され、初めて天理市を訪れる機会を得た。
そこで出会ったのは、教科書の中にあるような古代史が、今も静かに息づくまちの姿だった。天理は、想像以上に“古代ロマン”に満ちた場所なのである。
中川政七商店の「NKG倉庫」全景。
倉庫内には撮影用スタジオも備えている。写真:中森一輝
喧騒を離れ、古代へと導くデスティネーション
奈良盆地東部に位置する天理市へは、JR・近鉄「天理駅」まで大阪駅・京都駅から約50分。都市の喧騒を抜け、車窓に広がる景色が次第に緑を増していくにつれ、心の緊張も自然とほどけていく。駅に降り立つと、澄んだ空気と穏やかな時間の流れが迎えてくれる。
1.古墳を現代に翻訳した駅前空間「天理駅前広場コフフン」
天理駅の改札を出ると広がる「CoFuFu(コフフン)広場」。
天理駅改札を出ると目の前に広がっているのが「天理駅前広場コフフン」だ。
市内に約1700基も存在するといわれる“古墳”をアイコンに、古墳を想起させる野外ステージや大型遊具、カフェ、観光案内所が配置されている。市民の日常と共に観光客にとっては歴史の入り口である。
デザインを手がけたのは、佐藤オオキ氏率いる世界的デザインオフィス「nendo」。
土地の記憶を呼び起こすデザインは、古代と現在の交流点である。
2.大和屈指の古社「石上神宮(いそのかみじんぐう)」
写真:天理市観光協会 フォトコンテスト受賞作品
石上神宮ではニワトリが放し飼いされている。ニワトリは御神鶏(ごしんけい)」として崇められている。画像提供:天理市役所
古代豪族・物部氏の総氏神として知られる「石上神宮」は、日本最古の道「山の辺の道」に鎮座する由緒正しい古社である。古来より武器庫としての役割を担っていたとされ、現在では健康祈願のパワースポットとしても知られている。
拝殿は、白河天皇の御代に宮中の神嘉殿を移築したと伝わる国宝で、神社建築としては最古級。境内にある出雲建雄神社拝殿も国宝に指定され、楼門は重要文化財となっている。
古代から大切に守られてきた聖地であることを身体で感じ取れる場所だ。
石上神宮
天理市布留町384
拝観時間:5:30頃~17:30(季節により変動)
アクセス:天理駅下車 徒歩約30分
3.日本最古級の古道「山の辺の道」
ハイキングコースとして人気ある「山の辺の道」。
崇神天皇陵付近の山の辺の道。
竹之内町周辺の山の辺の道。
天理市から桜井市まで約16km続く「山の辺の道」は、日本最古の道として知られるハイキングコースになっている。万葉集にも詠まれたこの道を歩くことは、まさに“日本最古の物語”の中へ身を置く体験と言える。
道幅2mにも満たない小径には、柿畑や梅林、集落の家並みが連なり、ところどころで大和三山や二上山を望む風景が広がる。古社寺や古墳が点在し、『古事記』『日本書紀』『万葉集』ゆかりの地名や伝承に次々と出会うことができる。
アップダウンは少ないが距離は長いため、歩き慣れた靴で訪れたい。
4.『卑弥呼の鏡』が出土した「黒塚古墳」
南から見た黒塚古墳の後円部。
全長約130mの前方後円墳「黒塚古墳」は、1997年の発掘調査で歴史的発見が相次いだ古墳である。後円部の竪穴式石室からは、33面もの三角縁神獣鏡を含む副葬品が完全な形で出土。三角縁神獣鏡は「卑弥呼の鏡」とも呼ばれ、大和の中心部での出土は初めてだった。築造は3〜4世紀と推定され、大和政権の有力者の墓と考えられている。現在は史跡公園として整備され、誰でも自由に見学できる。
天理市柳本町1118-2
アクセス:JR「柳本駅」徒歩7分、近鉄「天理駅」→桜井行バス「柳本」下車 徒歩3分
5.山の辺の道沿いに建つ「天理市トレイルセンター」
天理市トレイルセンター。
山の辺の道を歩く途中で立ち寄りたいのが「天理市トレイルセンター」だ。館内ではこの地域の古墳や歴史遺物についても紹介され、地域の産品をはじめとするお土産仏も充実している。
また無料休憩スペースやトイレのほか、シャワー設備、バイクラック、開放的なデッキも備えており、ノルディックポールの無料貸出も行っている。併設の「洋食Katsui 山の辺の道」は、ハイキングの合間の食事にも最適だ。
奈良県天理市柳本町577-1
アクセス:JR万葉まほろば線「柳本駅」より約1km。
6.古墳に泊まれるという唯一無二の体験「cofunia(コフニア)」
コフニア全景
萱生環濠集落西側に位置する西山塚古墳の麓に誕生した「cofunia(コフニア)」は、日本初の“古墳に泊まれる宿”である。築100年以上の古民家を、100人以上のボランティアと地域住民、クラウドファンディングの力で再生した。
陰陽五行をテーマにした宿泊棟は「金・水・土・木」の4タイプあり、それぞれが異なる世界観を持っている。真鍮の輝きが印象的な「金(こがね)」、ツリーハウス付きの「水(みず)」、洞窟のような「土(つち)」、木の温もりを感じる「木(き)」がある。
飲食棟「火(ひ)」では、薬膳の考えを取り入れた食事が提供され、かつての“おくどさん”を模したカウンターが象徴的だ。
飲食棟「火」。
「木」の棟。写真:中森一輝
前方後円墳を模したお風呂がある「土」の棟。写真:中森一輝。
天理で見つけた、心に残る美味と体験
古代史や古墳のイメージが強い天理市だが、まちを歩くと、土地に根ざしたものづくりや食文化が今も静かに息づいていることにも気づかされる。ここでは、天理市内で生まれ、育まれてきた“少し特別な日常”に出会える美味と体験を紹介したい。なお、店舗を構えない場合もあるため、訪問前には公式サイトでの確認をおすすめする。
7.日本のコーヒー文化を支える「やまのべ焙煎所」
「やまのべ焙煎所」の歩みは、一軒の家電販売店から始まった。大一電化社代表の上田隆氏は、時代の流れとともに家業の在り方を見つめ直し、エスプレッソマシンの輸入販売へと舵を切る。2000年当時、日本ではまだ一般的とは言えなかったエスプレッソ文化を広めたいという強い想いが、その原点にある。
現在では、生豆の仕入れルートの確立から焙煎、抽出に関するアドバイスまでを一気通貫で行う、プロフェッショナル集団へと進化し、大一電化社の並びに、「やまのべ焙煎所」がある。全国のバリスタやカフェ、レストラン、新規開業店のサポートも行い、日本のコーヒーシーンを足元から支えている存在だ。
その焙煎豆はオンラインショップで購入できるほか、天理市トレイルセンター内にある「洋食Katsui 山の辺の道」でも手に取ることができる。山の辺の道を歩いたあと、一杯のコーヒーで余韻を楽しむのもまた贅沢な時間だ。
8.歴史を継承する柿の葉すし「平宗」
奈良を代表する郷土食「柿の葉すし」。その歴史を語るうえで欠かせない存在が「平宗」だ。起源は明治時代、奈良・吉野で営まれていた料理旅館にさかのぼる。当時、地元の家庭料理であった柿の葉すしを、遠方から訪れた客人にも楽しんでもらうため、味や形を工夫したことが現在につながっている。
それまで発酵させた“なれずし”だったものを、すし飯を使い、魚の塩分や酢加減を調整することで、そのまま食べられる洗練された味わいへと昇華。さらに、ひと口サイズに仕立て、具材にバリエーションを持たせたことで、現代の柿の葉すしの原型を築いたとされている。
2022年に天理市内にオープンした「平宗 便利館」では、工場を併設し、イートインスペースも完備。柿の葉すしの製造体験教室も開催されており、実際に自分の手で柿の葉に寿司を包む体験もでき、食文化を“知る”だけでなく“記憶に刻む”ことができる。
写真:中森一輝
柿の葉寿司製造体験教室の様子。写真:中森一輝
9.奈良の伝統技術を昇華させた、蚊帳織りふきん「ならっぷ」
奈良は、かつて蚊帳の一大産地だった。時代とともに蚊帳そのものは生活から姿を消したが、その技術は今も形を変えて受け継がれている。天理市に拠点を置く丸山繊維産業は、蚊帳織りの技法を活かし、寒冷紗や包装資材の製造を行っている企業だ。
その伝統技術を現代の暮らしへと落とし込んだブランドが「ならっぷ」。奈良の粗目織物である蚊帳織りをベースに、「絵便りふきん」をはじめとする、日常に寄り添う上質な布製品を生み出している。一度は目にしたことがある人も多いだろう。吸水性と速乾性に優れ、使うほどに風合いが増すふきんは、日々の暮らしを静かに豊かにしてくれる存在だ。
ちょっとした贈り物や旅の記念として選びたくなる「ならっぷ」の製品は、天理のものづくりの精神を今に伝えている。
手間がかかる工程蚊帳織り技術を使い、現在の暮らしに合った商品を生み出している。写真:中森一輝
龍王山から望む大和三山。写真:天理市観光協会 フォトコンテスト受賞作品
Text by Yuko Taniguchi
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