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書家・芸術家 紫舟の祈り、アートのチカラ

2024.8.7

紫舟が語る「アート」も「祈り」も自身が生み出す「想像力」である




書家・芸術家として活動している紫舟(ししゅう)です。
作品や表現がどのように生まれるのか、展覧会にいらしたお客様にお尋ねいただくことがよくあります。そこで、こちらで制作の舞台裏や日頃考えていることをご紹介したいと思います。

 

アートは、
1.人間の脳を拡張
2.新しい考え方を提示

する力があり、科学や経済では解決できない人類の課題に対して、新しい視点で有効に働きかけることができます。アートの力が多くの方の救いになる方法を模索した結果として、昨年行いました大作地獄絵を焼き尽くす「地獄絵梵焼大護摩供」ARTプロジェクトが生まれました。

 

 

金峯山寺アート「地獄絵梵焼大護摩供」に込めた“祈りの力”

 

 

2023年10月21日、戦争や疫病の終息を祈願した「地獄絵梵焼大護摩供」を奈良県吉野町の金峯山寺(きんぷせんじ)において行いました。

日没後、約30名の僧侶や山伏の経と共に行われたお焚き上げでは、天を衝くほどの大きな炎が立ち上がり、あまりの凄まじい炎の熱に身をのけぞるほどでした。
燃え盛る炎の中にあるのはわたしが描いた15mに及ぶ「地獄絵図~四連作」。死後の世界と共に、心の地獄をカラスで表現しました。
「盗み」の罪の地獄は釜で煮られるカラス、「殺生」の罪の地獄は炎に焼かれるカラスで表現した他、「邪淫」「噓」も完成させました。






「殺生をしたカラスが堕ちた地獄」 「殺生をしたカラスが堕ちた地獄」

「殺生をしたカラスが堕ちた地獄」






「盗みをしたカラスが堕ちた地獄」 「盗みをしたカラスが堕ちた地獄」

「盗みをしたカラスが堕ちた地獄」






地獄絵に取り組むきっかけはコロナでした。世界中にに蔓延したのは疫病だけではなく、人の心の弱さ汚さも露わになりました。

それほど“ 未知なるウイルス“ は、人々の不安を煽り、人を「死」への恐怖に直面させました。

 

命あるものはみな生まれては死ぬ。新しいものは古くなる。形あるものは朽ちる。それらが自然の摂理と知りながら、死への恐怖は尽きない。生きゆくわたしたちの先にある死への恐怖が無知からくるものであれば、その不安から解放されるには「何のために人は死ぬのか?」を知り考えることだと分かりました。生きることに目的があるように、死ぬことにも目的がきっとある。
〈死の目的〉や〈命〉と対峙できる大作「地獄絵図」を制作することにしました。

 

 

天平時代に、聖武天皇や僧侶たちが大仏建立に至った行動は「祈り」。
平安を失った人々の心や行いを落ち着かせ、死への恐怖をやわらげる祈りの力は、アートにもあると信じて。

 

 

心に潜むモンスターを暴走させず、
コントロールすることで心は解き放たれていく

 

 

私たちを苦しめるものに、心に巣喰う負の感情があります。
まだ起きてもいないことを悪しきこととして怯える「不安や恐れ」、自分の思い通りにならないことへの「怒り」、他人を羨み妬む「嫉妬」、長く心に宿る「ゆるせない」気持ち、落ち着きを失った「イライラ」、相手を拒絶する「憎しみ」、されたことを忘れられない「恨み」、「執着」、「悲しみ」、「寂しさ」など。

 

 

それらの感情を心に野放しにして何度も思い返しているうちに、負の感情は私たちの美しい心を簡単に乗っ取り、ネガディブな思考を餌に膨れあがり、やがてはモンスターとなって暴走し、私たちの行動や言動を制御不能にさせます。
これを防ぐのが、自身の「意識」の力。意識が司令塔となって、この厄介な心の地獄を手懐けてコントロールしていきます。

しかし、心に巣喰う地獄のモンスターがすでに自分では手がつけられない状態に陥っているとしたら? そのような経験は誰しもあるはずです。アートの力で、心を巣食う地獄から人々を解放する方法はきっとあるはずだと考えていました。

 

 

さて、多くの人が、自分は“いい人”“地獄は関係ない”と思っています。
私自身もそうでした。自分の言葉や行動の過ちによって、悪気はなくても、知らずに他人を傷つけていること。嘘をつく気がなくても約束を忘れて結果的に嘘をついてしまうこと。人を傷つける弱さ、愚かさ、心の汚さが自分にはあるとまずは気づくことから始まります。
『人の振り見て我が振り直せ』、『自業自得』という言葉は、他人に向けて発することばではなく、その矛先は常に自分へ向けるよう心がけていきます。








「邪淫を犯したカラスが堕ちた地獄」 「邪淫を犯したカラスが堕ちた地獄」

地獄絵は他に「邪淫を犯したカラスが堕ちた地獄」、「嘘をついたカラスが堕ちた地獄」があり、すべてに火が放たれる。







「嘘をついたカラスが堕ちた地獄」 「嘘をついたカラスが堕ちた地獄」

身体がのけぞるほどの熱さの中で祈り続ける紫舟。











空高く登る炎、圧倒的な熱さが心の地獄を燃やし尽くす様

 

 

19年ぶりに行われた暗闇の中でのお焚き上げでは、地獄絵図に絵具で描いた剥き出しの内臓や目玉が飛び出したカラスが、本物の炎で燃えていきました。カラスの目玉は、さながら地獄の業火の中に燃え落ちていくように見え、それはおぞましい、まさに地獄そのもの。
地獄絵図が燃え尽きる様を見つめながら、私たちは「祈り」つづけました。

 

 

「私の心を巣食う地獄の一切が燃え尽くされますように」
「私を傷つけたと思っているあの人を完全にゆるすことができますように」
「私が幸せでありますように」「あの人が幸せでありますように」と、
燃える炎の熱さを全身で感じながら、わたしたちの地獄は金剛蔵王大権現様の炎で喰い尽くされるように祈りました。

「私の心に幼少より巣喰っていたモンスターは見事に焼き尽くされました。それ以降、あれほど思い返していた心の傷を思い出すことがなくなりました。そして傷ついた時と同じような状況になっても、もう完全にゆるしおえたこととして、その状況を受け止めずに、さらりと流せるようになりました。負の感情も現れなくなったのです。

 

 

「祈り」の正体とは?
数千年前から人類は「祈り」を行ってきました。時を超えて継承されつづける「祈り」にはそれだけの意味が必ずあり、祈りの力は実在するのでしょう。
1300年前に疫病蔓延時に大仏建立に至った行為も祈り。
「アート」も想像力、「心に巣喰う地獄」も想像力、「祈り」もまた想像力なのかもしれない。そう、辿り着いた答え、「祈り」の正体は「想像力」だということ。

 

私達の心の中のわだかまり、スムーズにいかない人間関係も、自分の行動や言動を左右する心の傷や痛みを作り上げたのも想像力。同じことを経験しても傷つかない人、覚えていない人もいる。一方で、自分の傷を何度も思い出しては、さらに深く傷つけることもできる。全ては自身の想像力が作り出しているもの。

 

想像力で傷つけた心は、想像力で癒すことができる。過去の心の痛みや感情の上に、「完全に恕(ゆる)し終えた」記憶を、上書き保存ができる、この想像力こそが「祈り」の正体でした。








「恕」 「恕」

「恕」











世界では数千年前から芸術と宗教が深く繋がり人々を救い癒してきました。「祈りの力」を、現代のアートの表現力で、人々に分かりやすく、想像しやすくしたのが本プロジェクトでした。善く生きるために心を救う一助になれれば幸いです。

 

 

想像力は使いようです。どうか、あなたの想像力があなたを苦しめることがないように。 次回プロジェクトにご参加ください。









紫舟 shisyu

書家/芸術家/大阪芸術大学教授
六歳から書をはじめ、奈良・京都で三年間研鑽を積む。『書』と、文字を平面の制約から解放した『三次元の書』、絵と書が融合した『書画』のほか、伝統文化を新しい斬り口で再構築した作品は、唯一無二の現代アートと言われている。フランス・ルーヴル美術館地下会場でのフランス国民美術協会展にて、書画で「金賞」、彫刻で「最高位金賞」を日本人初のダブル受賞(2014)。翌年には同展にて「主賓招待アーティスト」に選出され大規模展を開催など、世界活躍。国内では、天皇皇后両陛下(現上皇上皇后両陛下)が『紫舟』展に行幸啓されました(2017)。伊勢神宮「祝御遷宮」。春日大社「祝御造替」。明治神宮「明治神宮鎮座百年祭」。NHK大河ドラマ「龍馬伝」や「美の壺」の題字も手掛ける。

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