「星野リゾート」代表・星野佳路「星野リゾート」代表・星野佳路

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Portraits

日本のエグゼクティブ・インタビュー

2025.3.12

星野リゾート代表・星野佳路  確固たるリゾート戦略と、観光産業への提言

国内外に展開する「星のや」、21カ所の「界」をはじめとして、「リゾナーレ」「OMO(おも)」「BEB(ベブ)」などの5つを中心に、それぞれのブランドカラーを鮮明に打ち出した、国内外72施設(2025年2月現在)の展開で注目を集める「星野リゾート」。代表を務める星野佳路さんが、軽井沢で100年以上続く「星野温泉」を閉じ、「星のや軽井沢」を誕生させたのは2005年のことだった。










それ以前から、山梨や北海道でのリゾート再建を成功させ注目を集めていた星野さんだが、現在の「星野リゾート」を語るうえで、大きな転機となったのは、やはり「星のや軽井沢」の誕生といえる。その誕生の経緯を尋ねると、意外な答えが返ってきた。




脱軽井沢から始まった、「星のや軽井沢」








「軽井沢らしさをできるだけ排除する、いわば脱軽井沢。まず最初にそれを考えました」

星野さんが排除しようとした「軽井沢らしさ」というのは、軽井沢に対して多くの人がイメージする、避暑地、別荘、教会といったものだった。














「従来のイメージに捉われていると夏しか集客できません。温泉という武器があるのだから、通年を通して魅力ある施設するためには、夏の避暑地や教会が持つ、欧米っぽい雰囲気にこだわらず、失われつつある日本の集落をここに再現し、春夏秋冬の美しさを温泉旅館で楽しんでいただければ。そんな思いで立ち上げました」

 




星野グループ星野代表 星野グループ星野代表





脱軽井沢。それが意外に聞こえるのは、国内各地に点在する「星のや」と「界」いずれも、その土地の文化や風習をリスペクトし、それを組み込んだ宿泊客体験プログラムやワークショップなどを積極的に取り入れているからだ。




「星のや京都」では、「和歌の家」として知られる冷泉家当主夫妻の手ほどきによって和歌を詠む「歌詠み」体験が年に2回開催されている。またすべての「界 」では、「ご当地楽」と題した催しやプログラムがあり、たとえば「界津軽」では津軽三味線の生演奏が毎晩行われ、夕食には大間のまぐろがお目見えする。




「脱軽井沢」どころか、滞在することによってその土地の文化に肌身で触れる。今やそれが「星のや」や「界」の大きな特徴のひとつとなっている。

 



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「歌詠みの家」として知られる冷泉家当主夫人による「歌詠みの会」が年2回開催される。©Hoshino Resorts

 




界津軽 界津軽

「界津軽」の「ご当地楽」として毎晩催される、津軽三味線の生演奏。©Hoshino Resorts


遠隔地にある温泉旅館に足を運んでもらう手法とは



「温泉旅館ブランド『界』を立ち上げたとき、畳敷の和室があって、きもの着た女将がいてという、数多存在する類型的な温泉旅館にしてしまうと、関東でいえば熱海、箱根、草津のような東京近郊の温泉旅館がやはり有利になってしまいます。




そうした温泉旅館に対抗し、どうしたら遠隔地の温泉旅館である『界』にまで足を運んでいただくか、その方策を考えたときに、辿り着いたのが『ご当地』という発想です」




地方にある昔ながらの温泉旅館にも、その土地独自の文化や風習は存在していたはずだ。ただ、ややもすると当たり前すぎて気づかなかった「ご当地」に積極的に光を当て、さらに深掘りして宿泊客に提案していく。












「星野リゾート」が、「界」を展開していくときに取り入れたこの手法が、現在のリゾート業界では、スタンダードになりつつある。




「模倣されるのはビジネスの世界では当然で、我々が行っていることを見ていただいているということでもあり、ありがたいとも言えます。ただ、今後はこの手法だけでは厳しくなっていくことも予想されるので、次なる手段を考えなければならない時期かなとも思っています」

 

 



オーバーツーリズムの解消方は地方への分散化



約3,690万人。先ごろ発表された2024年の訪日外国人旅行者数である。コロナ前の2019年を上回る過去最高の数字となり、それは喜ばしいことではあるが、同時にオーバツーリズムという問題も引き起こしている。




京都市にいたっては、若年層を中心とした人口流出に歯止めがかからない状態が続いている。インバウンド増加に対応するためのホテル建設ラッシュに伴う地価高騰が、その要因だとされている。深刻なオーバーツーリズムに対する有効な対策はあるのだろうか?

 





「インバウンドの宿泊の80%が、じつは東京、京都、大阪、北海道、福岡の5都市に集中しています。つまり残りの42県はアンダーツーリズム。5か所に集中している80%のインバウンドを42県に分散させる。これが解決法です」

 



星野さんが考える解決方法は明解だ。



32か所ある国立公園のコンテンツ強化




「インバウンドの集中は、とりわけ東京、京都、大阪が凄まじく、その理由は、これらの都市がもつ文化に魅力があるからです。観光には、文化観光と自然観光の二つがあり、日本は文化観光が強く、その反面で自然観光が弱いために、これまでは自然観光を打ち出すことを苦手としてきました。



この自然観光を強くし、そこへインバウンドを流入させていくのが解決策です。カナダとスイスは自然観光が強く、それを目的とした観光が成立しています。日本も豊かな自然が残る国。自然観光のポテンシャルは十分に持っています」

 



星野佳路さん 星野佳路さん



その際にキーワードとなるのが、国立公園だと星野さんは考えている。




「日本には全国で35の国立公園があります。それぞれが特徴をもち、魅力に満ちた場所です。国立公園の魅力をアピールし、そこにインバウンドを呼び込めば、3都市の集中というのは解消されていくはずです。国立公園へ足を運ぶには、地方都市が拠店となりますから、地方都市の活性化にもつながります」



自然観光は、多くのリピーターを生む





星野さんは、その例としてサンフランシスコを挙げた。1980年代、サンフランシスコは観光地として日本人にとても人気のある都市だった。ところが今、サンフランシスコを目的とした観光客は激減している。





ただ、サンフランシスコから少し離れたナパバレーには多くの人が訪れ、そのゲートウェイ都市としてサンフランシスコにも観光客が存在する、という状況になっているそうだ。

 



「自然観光は、リピーターが多いという特徴もあります。政府は、将来的には6千万人のインバウンドを目標としていますが、それを達成するには、国立公園を中心とした自然観光のコンテンツを強化し、リピーター増やすことが一番有効だと考えています。そうすれば地方に分散し、オーバーツーリズムの解消にもなります」




インバウンドに比べ、じつは伸び悩んでいる日本人観光客



訪日外国人旅行者数の増加に伴い、インバウンドによる観光消費額も伸びた。その一方で、日本人による国内観光消費額も伸びてはいるが、インバウンドの伸び率よりは少ない。いわば頭打ち状態となっている。



「日本人の観光消費額を伸ばす最も有効な手段は、休日の分散です。道路は渋滞し、宿泊料金もあがる、ゴールデンウィーク、夏休み、年末年始だけがまとまった休日という現状では、これ以上の伸びは期待できません。




愛知県は11月に一週間の「あいちウイーク」を設け、県内の小・中・高の公立高校では、その期間中に学校長の判断で任意の1日を休校日としています。保護者がそれに合わせて有給休暇を取得し、近隣へ出かけるきっかけとなって、観光消費額の効果もあがっています。国全体ではなく、こうした地方からの取り組みが、観光需要の分散と、それに伴う消費額の増大になっていくのではないでしょうか」



減少する観光人口の歯止めは、休日の分散化


「インバウンドの増加や観光消費額の伸長に目がいきがちですが、28兆円とされる2023年の観光消費総額のなかで、日本人による消費額は22兆円前後。じつは、日本人観光客が消費額の3分の2以上を支えているのです。日本人観光客は大切であり、そこが伸び悩んでいるのは由々しき事態でもあります。





その一方で、日本人の観光消費額は2025年以降は今よりも下がる可能性が大きい、私はそう予想しています。観光を支えてきた団塊の世代の大半が後期高齢者となり、多くの方が今までのようには観光地に出掛けなくなるからです。そのためにも、休日の平準化は急務だと思います。このことは、もう随分前から言い続けているのですが……」

 

 


2028年、北米での温泉旅館開業を予定


昨年10月、「星野リゾート」はアメリカでの2028年温泉旅館開業予定を正式に発表した。場所はニューヨーク州。マンハッタンから車で3時間半ほどかかるシャロンスプリングスという、1800年代中盤に栄えたリゾート地だ。鉱泉が湧出するこの地では、先住民族が治療効果を求めて足を運ぶ、いわば温泉保養地と知られた土地だった。

北米進出 北米進出

©Hoshino Resorts





ところが、1900年代に入り、飛行機での移動が主になると、人々の足が遠のくと同時に観光地としても衰退の道を歩みはじめた。このシャロンスプリングスで地元の人々と手を携えながら、かつての温泉リゾート地を、温泉旅館を核として再生していく。それは、「星野リゾート」がこれまで国内で行ってきた事業と通底する部分が多い。



「かつて、日本の大手ホテルが北米に進出し、ことごとく失敗しました。バブルの崩壊を失敗の口実としましたが、じつはそうではありません。日本のホテルが北米で西洋スタイルのホテルを始めたからです。それは、喩えるならば、日本の鮨職人が、アメリカでフレンチを始めるようなもの。欧米人にとっては何故? ということになります」




「それと同じで、日本のホテル会社がアメリカまで来て、なぜ欧米スタイルのホテルなんか始めるの、という疑問を投げかけられますし、マーケットは納得しません。アメリカで受け入れられるためには、自分たちの文化のバックグラウンドを明確に打ち出し、それを提供していく、そのためには温泉旅館であることが必須です。このことは、アメリカに住んでいた80年代に、僕自身が痛感していたことでもあります」




温泉旅館を構成する4つの重要な要素




「日本的なデザインと建築」「日本食の提供」「温泉体験」「四季折々の美しさを背景にした心細やかなもてなし」。星野さんは、温泉旅館を構成する要素は、この4つに集約されると考えている。

 





「シャロンスプリングスには、鉱泉があり日本のような四季もあります。そんな土地で、本物の日本建築とデザイン、そして日本食を提供します。3年後の開業に向けた人員の確保も初めていますし、スタッフとして働いていただく現地の方々を日本に呼び、温泉旅館としてのサービストレーニングも行います。客室数はそれほど多くなく、せいぜい50室程度。日本庭園も造り、雪見露天風呂ができるような、まさに日本の温泉旅館そのものを北米で実現したいと考えています」






星野さんにお話を伺ったのは、「星のや東京」の一室だった。いつもそうだが、星野さんはきわめてカジュアルな装いだ。ネクタイはおろか、ジャケットを纏っていることも稀だ。しかし、「星野リゾート」としてのビジネス戦略や組織運営の在り方のみならず、日本の観光業界全体に向けて絶えず幅広い視野と斬新な発想を持ち、正確な数字やデータとともにそれを発信していく様は、まさしくビジネスパーソンの姿だった。




そんな姿が一変したのは、年間60日以上の滑走日確保を公言している、スキー談義に話題が及んだ時だった。

「今シーズンは80日を目指しています」

悪戯っぽく、少し得意げに笑うその笑顔は、スキーが好き好きでたまらない少年そのものだった。

















星のや東京 星のや東京

「星のや東京」の一室にて。館内はすべて畳敷きで、温泉も湧出。大手町のビジネス街に位置し、「塔の日本旅館」を標榜する。




星野佳路 Hoshino Yoshiharu 

星野リゾート代表。1960年長野県軽井沢生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、米国コーネル大学ホテル経 営大学院修士を修了。帰国後、91 年に星野温泉旅館(現・星野リゾート) 代表に就任。以後、「星のや」「界」「リゾナーレ」「OMO(おも)」「BEB(ベブ)」の5ブランドを中心に、国内外で72施設を運営。2003年には、国土交通省が選ぶ観光カリスマに選ばれ、幅広い見地から、国の観光政策にも多くの提言を行う。趣味はスキー。2024~2025シーズンは年間80日のスキー滑走を目標としている。

 

島村美緒  Mio Shimamura

Premium Japan代表・発行人兼編集長。外資系広告代理店を経て、米ウォルト・ディズニーやハリー・ウィンストン、 ティファニー&Co.などのトップブランドにてマーケティング/PR の責任者を歴任。2013年株式会社ルッソを設立。様々なトップブランドのPRを手がける。実家が茶道や着付けなど、日本文化を教える環境にあったことから、 2017年にプレミアムジャパンの事業権を獲得し、2018年株式会社プレミアムジャパンを設立。

 


Text by Masao Sakurai
Photography by Toshiyuki Furuya

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