「海藻で 海も人も すこやかに」――このスローガンを掲げる合同会社「シーベジタブル」は、海藻の「研究・生産・加工・販売」を行う会社である。海藻を研究し、陸上と海面での栽培方法を確立させ、食利用に加えて、海藻の新たな活用方法を提案する。日本の海域に生息する海藻は約1500種類以上もあり、そのすべてが毒を持たず、食用になり得る。だが、肝腎の海藻が激減しているのだ。会社名の「シーベジタブル(SEA VEGETABLE)」は「海藻=海の野菜」を意味する造語である。社には、研究者から料理人まで各分野のスペシャリストが集まり、栽培はもちろん料理開発まで行っている。無限の可能性を秘めた会社のあり様が高く評価されて、「PREMIUM JAPAN AWARD 2026」を受賞した。共同代表の友廣裕一氏に話を聞いた。
海藻資源の現状と「磯焼け」の原因
海の元気を取り戻すためには、海藻が極めて重要な位置にあることはあまり知られていない。理論だけではなく、実際に海藻の栽培に着手したところに、「シーベジタブル」の唯一無二の存在意義がある。
まず、海藻をめぐる海の現状を知ることによって、そこに喫緊の課題性があることが理解できるだろう。
以下、友廣氏が話す。
「天然海藻全般について言えるのですが、例えば、ひじき、昆布、とさかのり、天草なども収穫量が激減しています。とりわけ、ひじきの国産比率は10%程度まで低下し、輸入に頼っているのが現状です。すじ青のりにしても、天然物が市場から消え、ピーク時には価格が3〜4倍に高騰するなど、資源枯渇が深刻化しています」
共同代表の蜂谷 潤さんと出会い、海藻の豊かな未来を目指してシーベジタブルを創業した、と語る友廣さん。
一つひとつの海藻を見ると、色も形もさまざま。海藻の美しさに改めて気づく。
その原因はどこにあるのだろうか。
「海藻が減少する『磯焼け』の最大の原因は、魚やウニによる食害です。特に、温暖化のために冬の海水温が下がらなくなり、海藻を食べる生物が一年中活発に活動することで、芽が生えたばかりの海藻が食べ尽くされていまい、資源が回復できなくなっています。河川からの栄養減少も特定の海藻の成長が遅くなる原因にはなりますが、圧倒的な主因はやはり食害、とりわけ魚が海藻を食べてしまうからです」
海水温の上昇も、魚やウニの活動も御しがたい。現時点で、取られている対抗策はあるのか。
「現在の主な対策はダイバーによるウニの駆除ですね。一個ずつハンマーで叩くわけですが、広大な海域全体を網羅するアプローチとしては効率や継続性に課題が残るため、局所的・限定的な施策にとどまる側面があります。一方で、特に魚の食害に対しては有効な手立てがないのが現状です。既存の対策では、限界があると言わざるを得ません」
地元の漁師と協力し、海面栽培を続けている。画像提供:シーベジタブル
技術開発、天然依存からの脱却
そこで、「シーベジタブル」が成し遂げたことが三つある。
一つ目は、未利用海域の活用と栽培技術の確立である。
「漁師さんが種苗を調達して海で生産できる状態になっている海藻は、わかめ、昆布、海苔、沖縄もずくの4種程度に限られています。その結果、4種類の海藻が育つ海域は利用されていますが、それ以外の多くの海域が未利用な状態。つまり『海の耕作放棄地』のままとなっています。
当社が着手する時に最初にやることは、これらの未利用海域に適した海藻を見つけ出すことです。種苗研究所技術を確立した30種類以上の海藻の中から、海域に適した海藻を選びます。
私どもは種苗生産から量産までの技術をゼロから開発しましたが、海面栽培の場合は漁業権が必要になるので、自社で生産した種苗を漁師さんに譲渡して育ててもらいます。生産する海藻の一部を紹介しますと、すじ青のり、あつばアオサ、はばのり、とさかのり、みりん、若ひじき、スーナ、もずく、などです」
真上にあるガラスの小鉢に入っているのがシーベジタブルの「もずく」。このもずくは、市場に多く流通している「オキナワモズク」とは異なる、 一般にはほとんど出回っていない希少品種。画像提供:シーベジタブル
二つ目に挙げられるのが、世界初となる地下海水を使用した青のりの陸上栽培技術の成功だ。
「海洋環境(栄養塩不足など)に左右されない安定した高品質生産のために、地下海水を用いた陸上栽培技術を確立しました。全国に拠点を構えて、障害のある方や高齢者と共に、通年で安定した栽培を行っています。すじ青のりや黒のりに関しては、商業レベルでの陸上量産に世界で初めて成功し、2024年には黒のり生重量10万枚相当の生産を達成したのです。
私たちの基本方針は『海で作れるものは海で、海で作れないものは陸上で』と考えていますが、陸上栽培の場合は費用も大きくなるので、事業性(成長率×単価)も加味して進めています」
種苗生産の技術開発といい、陸上や海面での量産技術といい、世界に類のないことを成し遂げている企業であることは特筆に値する。
「海藻は生態系ピラミッドの底辺を成すものです。つまり、海面での海藻栽培は、小型葉上動物を増やし、それを餌とする魚の個体数を増加させるものでもあります。生態系ピラミッドの土台を広げることは、海の豊かさを回復させることでもあるのです」
全国的に青のりの供給が危ぶまれるなか、地域や企業からの「すじ青のりを作ってほしい」という声に応える形で、2016年にシーベジタブルが創業された。かつて一大産地だった高知県・四万十川でも水温上昇により1980年代以降から収穫量が激減しており、同社は創業当初から地下海水を用いた陸上栽培に着手。独自開発した設備と生産ノウハウによって高品質なすじ青のりの安定供給を実現した。その後、2020年に四万十川の出荷量がゼロにまで落ち込むなかでも、日本のすじ青のり文化を守り続けている。画像提供:シーベジタブル
地下海水を使用した海藻の量産型の陸上栽培では、異物混入が少なく、一年を通して水温が安定。シーベジタブルでは、全国各地で風味豊かなすじ青のりやあつばアオサを育てている。画像提供:シーベジタブル
事業展開と食文化のアップデート
実は、日本人の海藻消費は激減している。1人当たりの1日の海藻消費量は、平成6年で4.2グラムだったものが令和4年には2.1グラムと、28年間で半減してしまった。
かつてはワカメの味噌汁やひじきや酢の物を食べていた日本人の食卓が、欧化してしまったためだろう。
「日本において食が多様化するなかで、変化に対応できなかったのが海藻という食材じゃないかと感じています。そこで大事になってくるのは、料理開発です。従来の酢の物や味噌汁といった用途はもちろんあるのですが、大事なのは、例えば海藻をパンや焼き菓子と組み合わせたり、乳製品・油分と相性の良いイタリアン・フレンチでの活用など、新しいレシピや食べ方の提案です」
インタビューの際に出してくれたのは、北海道のチガイソを発酵させて作ったドリンク。深みがありながら、すっきりとした味わい。横にあるのが乾燥したチガイソ。
海藻が主役の「海藻サラダ」。画像提供:シーベジタブル
若ひじきを使った、ペルーを代表する料理「セビーチェ」。画像提供:シーベジタブル
「社内の料理開発チームや社外パートナーシェフたちとともに、家庭でも実践しやすい海藻の新しい食べ方や調理法を発信しています。
と同時に社内では、海藻×発酵といった研究開発も熱心に行っています。一例を挙げれば、『青のりしょうゆ』というまったく新しい海藻発酵調味料があります。そうした商品によって市場を再活性化させて、海藻の需要と消費を促しています」
ガストロノミーとのコラボレーションも盛んだ。
例えば、2025年のミシュランガイド東京および京都・大阪のセレモニーでは、三つ星に輝く「L’Effervescence」や「菊乃井 本店」が海藻を用いた料理を披露。「noma Kyoto」では、シーベジタブルの海藻を使用したメニューを2年連続で提供した。予約が極めて困難な「Pizza 4P‘s Tokyo」では、シーベジタブルの海藻を使用した2種類のメニューを常時出している。
これらは世界や日本のトップレストランだが、いずれも食材に対して極めて高い意識を持つシェフたちの店だ。
シーベジタブルの製品。「すじ青のり原藻(10g)」¥1,620、「とさかのり(22g)」¥810、「若ひじき(30g)」¥810
シーベジタブルが創業当時から主に生産している「すじ青のり」は、青のりの中で最も香り高く、最高級品種と言われる海藻です。画像提供:シーベジタブル
タンパク質を多く含む青のりを大豆の代わりに使用して発酵させた調味料。原料は、青のり、米麹、塩、水のみで、麹の甘い旨みと青のりの香りのバランスが調和した「青のりしょうゆ(200ml)」¥2,500。画像提供:シーベジタブル
多様なチャネルとの共創
外部企業との連携も盛んに行っている。
「百貨店関係ですと、2024年の9~10月ですが、伊勢丹新宿店と日本橋三越本店において、特別イベント『EAT & MEAT SEA VEGETABLE』を開催しました。それは全ジャンル横断の海藻フェアで、様々な店舗と弊社がコラボレーションしまして、約175商品が並びました。甘いお菓子との組み合わせからお酒がすすむ総菜まで、海藻の新たな食体験と言うべきものでしたね。今年10月から来年の春にかけて、複数の百貨店、デベロッパー、飲食事業者、料理人らと共に海藻フェアやイベントを仕掛ける予定です。
コンビニならセブン-イレブンとの協働では、『セブンプレミアム』で3商品『すじ青のり天ぷらうどん』『塩焼きそば』『豆腐とたまごのスープ』で、いずれもすじ青のりが主役の商品です。
ほかにも「SEA VEGETABLE Co Creation Project」というプロジェクト創出を目指したプログラムを実施しており、パナソニック株式会社、株式会社テレビ東京、東京建物株式会社、株式会社みずほフィナンシャルグループなどの企業に参画していただいています」
海藻の可能性は食用品だけではない。そこをしっかりと捉えているところが、「シーベジタブル」の会社としての凄みなのだろう。
「海藻の用途は、食品だけではありません。飼料、肥料、バイオプラスチック、繊維、化粧品など、多くの用途に応用の可能性があります。例えば、東京・八重洲の常設拠点では海藻を主役にした飲食店『シーベジスタンド』を運営していますが、空間の壁や照明に海藻を使用しています」
2026年3月、東京・八重洲にシーベジタブル初となる常設飲食店「シーベジスタンド」をオープンした。海藻を味わう「海藻ラーメン」や海藻料理、さまざまな酒を提供。
「この展開に関して世界銀行は、2023年の報告書の中で、海藻の食品用途以外として、バイオスティミュラント(農業資材)、動物飼料、栄養補助食品、代替タンパク質といった10の新市場を特定しています。
世界の海藻の生産量は、2002年から2023年の間に約3倍に増加しました。世界銀行の同報告書では、2030年までに市場規模が最大118億ドル(約1.7兆円)に成長すると予測されています」
まさに、会社の未来には無限の可能性と成長が約束されたようなものだ。
共同代表の蜂谷 潤さん(左)。蜂谷さんは、海藻の種苗研究から、陸上・海面での栽培方法の確立まで、研究・生産部門を担当している。画像提供:シーベジタブル
今後の課題と展望
今後の課題はどこにあるのか。
「世界では海藻は成長産業と位置づけられていて、すごく盛り上がっています。現時点では海藻の利用において日本が世界の最先端にいるのですが、生産量も消費量も減っていて、食文化も衰退傾向です。気づいたらまた海外から逆輸入されるなんてことになりかねないので、オールジャパンで海藻産業を進化させて、世界に広げていくような立場を目指したいですね」
消費者の意識改革も必要だろう。
1階のシーベジスタンド、2階の料理人の視点で海藻を研究開発しているSEAVEGE- Kitchen Labには海藻を使ったシャンデリアがある。写真は2階の海藻シャンデリア。
「レストランに加えて、百貨店やコンビニを通して、海藻の多様な使い方は徐々に消費者の中に浸透し始めているとは思います。課題は魅力的なメニューを開発して、従来の和食だけではない海藻の使い方を広めていくことです。
海藻がカラダに良いことは、日本人のほとんどが知っている事実だと思うのです。さらに一歩進めて、『食べれば食べるほど海の環境が良くなる』という共通認識ができて、そうした好循環が実現できることを期待しています」
シーベジスタンド
SEAVEGE- Kitchen Lab
東京都中央区八重洲1-5-11
Photos by Hidehiro Yamada
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