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2018.3.22

日本のプレミアムに取り組む企業 
星野リゾート 代表 星野佳路氏インタビュー

ラグジュアリーな「星のや」や、リゾートホテル「リゾナーレ」、温泉旅館「界」など、国内外で36カ所のリゾートを運営し、常にその動向が大きな注目を集める、星野リゾート。そのトップが、ホテル・旅館業界の風雲児と呼ばれる、星野佳路さんです。

「真似ごとはするな」。アメリカで受けた洗礼

コーネル大学院卒業時 コーネル大学院卒業時

曾祖父が興した軽井沢「星野温泉旅館」の開業から数えて103年。歴史の長い企業である一方、星野さんが社長に就任してからは破竹の勢いとも言える事業展開で、常にチャレンジングな姿勢を見せる星野リゾート。そのイメージとは裏腹に、「直感は信じず、納得のいくビジネス理論に忠実に進める」のがモットーだそう。「25歳で、アメリカのコーネル大学ホテル経営大学院修士課程に進学。ここで2年間かけてマーケティング他、ビジネス理論をしっかりと把握したことと、世界中から集まった50人の同級生と過ごした濃密な時間が、現在の自分に大きな影響を与えていますね」。

 

25歳の星野青年にとっては、ハワイやNYなどの海外リゾートや都市のホテルがキラキラとした憧れの対象で、古い施設のまま営業を続ける実家の旅館は格好の悪いもの。「いつか、実家もあんな風にしてやろう」という思いを抱いての留学でした。しかしそれは、あるレセプションにスーツ着用で参加した際、同級生に言われたひと言で、覆ります。「『お前、なんでイギリスの民族衣装を着てるんだ?』と言うのです。確かに普段はTシャツ、ジーンズとラフなスタイルでも、フォーマルな場では、インドや中東など他国の出身者は自分たちの国の伝統的な衣装を身に着けていました。それぞれ自分の文化を背負って、アメリカに来ているのですね。向こうの人は、他文化の真似ごとに対する抵抗感が非常に強いのです」。まだ若く、利害関係のない学校で出会った同級生たちとの本音のつき合いの中で、彼らの心の中にある日本人に対する見方を知ることができました、と星野さん。

「これは相当に強烈な体験でしたよ。だって、日本にいる時はスーツ=フォーマルの証だと、何の疑問も抱かなかった。なのに彼らは言うわけです。『日本には長い歴史とすばらしい文化や伝統があるのに、本当は君達は、アメリカや西洋文化に憧れているんだろう!』とね。私の持っているもの、着ているもの、動作ひとつひとつに、彼らはそれを感じているということに、私は強烈な悔しさや恥ずかしさを感じたというのが、この2年間でした」。

日本が海外でホテルを運営する意味

実家の旅館を継ぐという既定路線の中で、「西洋の真似ごとをしている、とバカにされるものか。ぼろぼろの旅館をいかに格好良くするかが、自分の仕事だ」と初めて分かったのが、留学の最大の成果となりました。

 

大学院修了後の80年代後半、バブル景気の中、多くの日本のホテル運営会社が海外に進出。しかし、90年代にほとんどが失敗して撤退します。「当時はシカゴにいましたが、『日本はなぜ、アメリカまで来て西洋ホテルをやっているのか?』とジャーナリストが質問してきました。あの頃の私たちは日本でやっていることがそのまま海外で通用すると思っていましたし、なぜ西洋ホテルを?という単純な疑問に対する答えを持っていなかった。撤退の理由をバブル経済の崩壊に求める人は多いですが、私は違うと思う。シンプルに、世界の人達が考える日本企業が運営する宿泊施設のあり方に、私たちが期待されることに応えられなかったというのが、失敗した一番大きな理由だと思います」。

 かつての星野温泉旅館  かつての星野温泉旅館

かつての星野温泉旅館

その後、星野さんは帰国し、91年に星野温泉旅館社長に就任。95年には社名を現在の星野リゾートに改称する中、日本のホテル・旅館市場における施設の圧倒的供給過剰な状況を鑑み、運営特化戦略を採るという大きな方向転換を行います。不動産リスクを負わず、運営力を提供して固定費を得る手堅い仕組みに加え、2013年に立ち上げた観光特化の不動産投資信託もスタートし、星野リゾート・リートとして東京証券取引所に上場。いずれも、日本で初めての試みでした。

「日本旅館」という新しいカテゴリーの創造

星野温泉旅館 看板 星野温泉旅館 看板

星野温泉旅館 看板

星野さんは数年前から、「日本旅館」を輸出するという主旨の発言をしています。日本旅館というカテゴリーを市場に生み出し、そこに泊まりたいというゲストを創出する。このアプローチ以外に、日本のホテル運営会社が海外に行く可能性はないとまで、断言します。「『日本旅館』という歴史があり、西洋式ホテルとは違う快適さを提供できる宿泊施設が、例えばニューヨークやロンドンに出店します、となったら、なぜそれを日本の会社がやるのか?という質問は、絶対に出ないですよね」。

 

世界のホテル業界でいえば、現在はまだ「日本旅館」というカテゴリーはありません。しかしアメリカの経営学者、フィリップ・コトラーの言葉を引用しながら、星野さんは「自分たちが戦える土俵を創る」と言います。

星のや東京

「例えば国内においては、東京近郊以外の旅館は非常に不利です。わざわざ遠いエリアに来ていただくためには、小さな範囲での地域の文化や食材などの特徴にこだわっていかないと、ゲストにとって滞在する理由が生まれない。ここはとても大事なポイントです。新しい驚きや発見があってこそ、『さすが日本のホテル運営会社』と評価される。こういうアプローチを取っている限り、矛盾がなく、後ろめたさがないのです」。「同級生たちがもし、星野リゾート運営のホテルに来ても、文句は言わせない。新しいプロジェクトの最終確認の時はいつも、彼らの顔が浮かぶ。常に『彼らに二度とバカにされるものか』という意地がありますよ」と星野さんは笑います。

 

この思いは、「日本旅館」カテゴリーの輸出にも、もちろん繋がります。2016年開業の「星のや 東京」は、都市で通用する日本旅館の見本を目指したもの。観光客からも、ビジネス客からも選ばれる「日本旅館」の成功により、海外の投資家の興味を喚起しようというわけです。

同級生に胸を張れる、いい仕事を

Kia Ora(キアオラ) ランギロア

今後について問うと、国内は星野リゾートファンが納得する視点で案件を慎重に選びながらの拡大を目指し、海外へは実力を付けるためにもさらに積極的に進出したいとのこと。
「私たちは基本的に運営のみを行う会社ですから、オーナーが声をかけてくれれば、地の果てでも行ってやるのが仕事。タヒチ案件で現地に視察に行った時は、正直本当に『地の果てだ』と思いました(笑)。しかし、運営を任せたいと言われるのは非常にありがたい。海外では特にトライすればするほど、実力が付く。『日本旅館』を安全に輸出するためには、今はまだまだ知見が足りないですから」。

 

星野さんは会話の中で幾度となく、「安全だ」という言葉を使います。ビジネス理論という、ある程度証明されたメソッドをしっかり把握し、それに戦略を当てはめていくのは、判断の間違いを減らす方法であるとも。「ビジネス理論に合わないことはやりません。直感による判断はリスクが大きいですから。勘には何の根拠もないですからね」。

 

星野リゾートが標榜するフラットな組織文化は、アメリカの経営コンサルタント、ケン・ブランチャードからの影響、2009年以来のマスターブランド戦略はアメリカの経営学者、デイヴィッド・A・アーカーのブランド・ポートフォリオ戦略理論に基づいたものだと星野さん。アメリカ留学時代に得た糧は、やはり大きな核となっています。当時の同級生達とは今も交流があり、同業者も多いため、「日本にはおもてなしという、すごい武器があるらしいが、それはつまり何だ?」などと問いかけてくるそうです。先日はサンディエゴ在住の友人夫婦が「星のや軽井沢」に滞在し、いい評価をしてくれたのだとか。

 

「いつまでに『日本旅館』を輸出するか?目標達成期日はいつも決めないタチなので、わかりません。海外で認められるホテル運営会社になるにはかなりの時間が必要になるでしょうから、もしかすると私の時代ではないかもしれませんね。しかし、できればひとつぐらいは成功させたい。そうですね、最初は『いいものはちゃんと評価する』北米でやるのがいいと思います」。

 

 

※この記事に記載されている内容、情報は公開当時のものとなります。

<プロフィール>

星野佳路(ほしの よしはる)

1960年、長野県軽井沢で「星野温泉旅館」の長男として生まれる。慶應義塾大学経済学部卒業、アメリカ・コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。1991年、31歳で星野温泉旅館社長に就任。以来「リゾート運営の達人」という企業ビジョンを掲げ、非日常感を追求した滞在型リゾート「星のや」をはじめ、全国で宿泊施設、スノーリゾートを展開している。
http://www.hoshinoresort.com/resortsandhotels/hoshinoya/

インタビュー 島村美緒 文 木原美芽 写真 野口伽那子

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