今年6月に「日本文化発信機構(JCCO)」が、「PREMIUM JAPAN AWARD(プレミアムジャパン・アワード)の第一回目を開催するに当たって、観光庁がその後援にあたることが決定した。Premium Japan編集長で同機構専務理事の島村美緒が、村田茂樹観光庁長官に聞いた。
エッジの効いたアワードに期待
村田 プレミアムジャパンのホームページを拝見しましたが、掲載してある記事から、ネットワークの広さに大変驚きました。
島村 ありがとうございます。まずは、私どもが企画しております「プレミアムジャパン・アワード」の後援を観光庁がお引き受けくださったことに、御礼を申しあげます。後援を決定された背景や理由を伺えますか。
村田 皆様の取り組みは、わが国の文化を海外の方に紹介する一つのツールであると捉えています。
特にアワードの選定というものは、知見のある方々が選び抜いた上で、「これが日本の文化の素晴らしさだよ」と伝えていく意味を持ちます。それは私たち観光庁が、外国の方にわが国の魅力を伝える取り組みを行っている目的と変わらないと考えました。
私たちは日本政府という立場がありますので、情報発信と言ってもどうしてもある意味、平等になってしまう側面があります。しかし、民間のアワードは、民間目線を中心にしていますから、ある意味、よりエッジの効いたものになっています。そういう洗練された情報発信に期待する部分があります。
プレミアムジャパンのコンテンツもそうですが、そのアワードが、この美しい日本文化の感動を世界中の皆さんに伝えるインターフェースとなることに大変期待しているわけです。
島村 日本にも様々なアワードがあるのですが、海外に向けて発信しているアワードがないこと、それがやってみようと思った最初の理由です。
選定条件に海外からの目線
島村 私ども以外は多言語でやってるメディアはほとんどないので、プレスリリースを送ってみると、海外のメディアの反応がすごくいいです。
あと面白かったのは、海外の投資家の方から連絡が来て、「日本文化に投資したいんだけど、どこに投資したらいいか選定ができない」と言うのです。
プレミアムジャパン・アワードは選定の条件として海外からの目線というものを入れています。海外の人から見て面白いかどうか、あとは海外に対して窓が開いているかどうかです。
アワードで選ばれた人たちが、その結果として、海外の投資家にとっての有益な情報になることも大いに考えられますね。
村田 日本の文化を維持、発展、継承させていくのに、後継者のことで悩んでいる分野も結構あります。その意味でも、海外へのビジネスがうまく成立すれば、日本の文化を持続的に継承していく一つのきっかけにもなるでしょう。そうした効果も期待したいです。
島村 ただ単にアワードを付与するのではなくて、受賞者たちが最終的にはは海外からの要望に繋げられる立て付けを作ることも目指しています。
村田 うまく好循環が出来ていい事例になれば、翌年からの先行事例になりますね。
4268万人と9.5兆円
島村 では、観光庁についてですが、特に日本の都市部では、多くの外国人旅行客を目にすることが日常になりました。最近のインバウンドをめぐる現状やトピックは何でしょうか。
村田 観光庁という役所ができたのが2008年で、その時のインバウンドの訪日外国人旅行者数はまだ800万人程度でした。その後コロナ禍があって一時落ち込みましたが、昨年2025年のインバウンドは4268万人で、4000万人の大台を初めて突破した記念すべき年になりました。これは過去最高の数字です。
それからもう一つ、人数だけではなくて、大事なのは消費額、経済効果だと考えます。インバウンドの方がいかに日本で消費してくれるかが経済的に非常に重要なわけですが、昨年のインバウンドの消費額は9.5兆円となっています。
もうすぐ10兆円に届きます。コロナ禍前の2019年は4.8兆円でしたから、その時の2倍になったことになります。
これは観光産業が外貨を稼ぐ輸出産業として、自動車に次ぐ第2番目の位置づけになっているということであり、観光はわが国の経済にとってなくてはならない産業に育っているわけです。
村田 トピックということでもう一つ付け加えますと、2019年から観光政策の財源として、「国際観光旅客税」を新設しました。日本人外国人どちらの方にも、出国の時に1回あたり1000円の税をご負担いただいております。
その税収は観光政策に使われているのですが、今年の7月からはこの旅客税を引き上げる方針が決まったところです。今後、財源がさらに充実してきますので、これを活用させていただいて、観光庁だけではなく、文化庁や環境省など、各省庁と連携してわが国の豊かな観光資源の魅力向上の施策を進めていくことが決まっています。
島村 訪日観光客をどんどん増加させたいわけですね。
村田 4000万人を超えたと申し上げましたが、もう少し先の目標は、2030年に6000万人を目指していますし、消費額は15兆円を目指しています。さらなる高みを目指して、官民を上げて取り組んでいるところです。
三大都市圏に7割、地方部に3割
島村 重点的な地域はあるのですか。
村田 まさに我々の課題となっているのが、地方への誘客です。
現状は大都市部、特に東京、大阪、京都に多くのインバウンドの方が来て宿泊しています。大都市部への観光客の集中を、少しでも地方に分散させていきたいのです。
ちなみに、三大都市圏以外の地方部での外国人が泊まっている割合は、地方部では2024年で30%ぐらいになっています。
島村 東京、大阪、京都が7割ですね。
村田 都市部でのお客様の集中については、いろんな弊害が出てきています。やはり観光を持続可能にするためにも、いかに地方にお客様を誘客するかが大きな課題の一つです。
もう一つの課題は、さきほど消費額15兆円を目指すと話しましたが、1人当たりの消費単価を上げていかねばなりません。
2025年のデータですと、1人当たりの消費額は23万円ぐらいです。これをさらに上げていくためには、日本でたくさんのお金を消費して下さる特に「欧米豪」と呼んでいますが、ヨーロッパ、アメリカ、オーストラリア、こうした国々の旅行者に訴求するような取り組みをさらに進めていきたいのです。
島村 富裕層向けみたいなことですか。
村田 富裕層じゃなくてもこうした国の方々は、お金を平均よりも使って下さっています。一つは滞在期間が長いことがあります。人数はアジアの方が多いのですが、欧米豪の方はやはり遠方から来られるため、一人当たりの単価はかなり大きくなっています。
「観光」とは国の光を観ること
島村 地方への誘客を進めていくには地域の魅力を引き出していくことが重要です。日本の地域が持つ魅力についてはどのようにお考えですか。
村田 中国の四書五経の一つ『易経』で、私どもがよく使っているくだりなのですが、「観國ノ光。利用賓于王」という一文があります。「国の光を観るのは、王に賓(ひん)たるに利(よ)ろし」 が、「観光」の語源とされています。
光というのは文物や、国が生み出した文化や人の営みで、国のそうしたものをよく観ることが、王様の賓客としてふさわしい、という意味です。観光とは、この国の光を観るという文脈から来ています。観光は、その国のもの、あるいは地域の光輝くものを観て感動する、そういう人間的な行為と考えています。
わが国の観光政策においても、来訪者の方を感動させる光り輝くものや魅力を生み出していくことが、まさに観光の充実につながっていくのではないでしょうか。
わが国の魅力として特筆すべきは、その多様性をです。四季があり、季節によって、全く違う風景や自然の姿を見せます。自然環境とともに、長年育まれてきた食文化、あるいは地域の名産を生かした伝統工芸、あるいは地域コミュニティのシンボルとなるような祭事や、歴史的な建造物、こういうものは他の全ての国に揃っているとは限らないものです。それらはわが国の地域に豊富にあって、多様な魅力となっています。
島村 最近、海外の例えば『ニューヨークタイムズ』が「20〇年に行くべき52ケ所」と題して、日本の地方都市が発表されています。直近では長崎、
村田 私たちの方向性から言うと大変ありがたい報道です。やはり欧米のメディアが、直接読者に日本の地方都市の魅力を伝えてくれるのは大変効果的です。
和食の細部への感動
島村 観光資源としての日本文化の強みとはどのような点にあるとお考えですか。
村田 わが国の文化は、極めて特徴的で固有のものだと思っています。
例えば食で言いますと、インバウンドの方が訪日に際して最も期待していることの一つに、和食が挙げられています。和食については、単に食べる行為だけではなくて、この生産者がどれだけ丁寧に素材を育てているかから始まって、料理人がどう素材を吟味し、手を凝らして調理していくかまで考えれています。
さらには食器と食材の組み合わせ、盛り付けの仕方、その一つ一つにメッセージが込められていて、そうした意味で和食は芸術の域に達している。それを堪能される外国の方たちは、それぞれの細部に感動しているのではないでしょうか。
ユネスコに無形文化遺産の登録制度というものがありまして、わが国においては、和食に加えて、伝統的な酒造り、能や歌舞伎、あるいは雅楽、和紙、こうした23件もの文化財が登録されています。
最近の話題で言いますと、神楽と温泉文化の2つについて、新しくユネスコに無形文化遺産の登録申請をする方針が決定しました。
温泉は全都道府県にありますし、私どもの日本の国民の皆さんにも非常に親しみ深いものです。こうしたものの歴史あるいは文化性もまた、新たな魅力として外国人の方に伝えていきたいですね。
日本政府観光局が世界26ケ所に
島村 日本の文化や魅力を諸外国にしっかり伝えていくには、観光庁としてどのような取り組みを進める予定ですか。
村田 文化や地域の魅力ですが、どんなにいいものを持っていても、伝わらないことには日本に来てもらえません。
魅力の発信活動を行う組織として、JNTO(日本政府観光局)があります。JNTOは各国あるいは地域の日本大使館などとも連携しながら、海外へのプロモーション活動に力を入れてきました。
そうした活動を通じて、わが国の文化や魅力の理解は相当に進んできており、外国人で2度3度と来日するリピーターが増えていることも、理解が進んでいることの一つの表れではないでしょうか。
それから連携という意味では、JNTOの海外事務所が26ケ所にありますので、駐在している各国の国民性とか、関心というものも十分にリサーチしながらその国に合ったマーケティングを行っています。日本の各地域の魅力を十分に情報収集しながら、効果的に行っています。
島村 私はコミュニケーションが一番問題だと思うのです。本当にいいものを作っていても、知られなければ何も始まりません。知らせるだけじゃなくて、なぜ価値があるかというところまで伝えなければと常々考えています。
村田 外国人の方に分かるように伝えることが大切なのですが、それがなかなか難しい。その背後にあるものやストーリーも一緒に伝えていくことがやはり重要ですね。
観光の高付加価値化を支援
島村 国として特に力を入れていきたい取り組みなどはありますか。
村田 旅行客の皆さんの期待に応じた多様な観光資源を用意しておくことが重要だと思っています。お客さんが世界の各国から来ているわけですが、その国民性の違いによっても、興味の対象が変わります。
様々な方に満足してもらうためには、体験できるメニューが非常に重要なポイントとなります。それを「コト消費」と呼んでいます。
例えば、伝統的な酒蔵で醸造体験をしてみる、あるいは伝統工芸品の製作を自分の手でするなどですが、職人の方の指南が付帯していればさらに充実します。
そこに行かなければできない体験を数多く提供していくのが、わが国の観光資源に厚みをもたらす上でもポイントになってきますし、それが観光の高付加価値化につながります。その結果、地方部への誘客も自ずと実現し得るのではと考えています。
私ども観光庁としては、そうした観光資源が全国の隅々で生み出されるような取り組みを支援していきたい。また、観光資源を魅力あるものに磨き上げていく取り組みも積極的に支援して、実績を上げていきたいのです。
観光を地域経済の活性化の揮爆剤にしたいと思っておられる地域の方は多いですから、しっかりと期待に応えていきたいです。
島村 インバウンドはこれから右肩上がりしていくイメージしかないですから、今後が楽しみですね。
村田 いわゆるオーバーツーリズム的な問題を未然に防止していく取り組みも並行してやっていかなければ、6000万人という数字は円滑には達成できないと考えています。
島村 それが観光立国ということですね。
村田 その通りです。
島村 最後に、長官がお感じになっている、「日本の美意識」とはどのようなものでしょうか。
村田 「日本の美意識」という抽象的なものを言葉で表すのはなかなか難しいです。
一つは、日本には「粋(すい)」という言葉があります。これは混じり気がなく、最高の純度を持ったものであるというような意味だと理解していまして、粋を尽くすとか、粋を凝らすというふうに用いますね。
最高の材料や食材であるとか、あるいは最高の技術を集めて心を込めて作り込む、そういった意味でしょうか。わが国の多くの文化資源は、この「粋」に裏打ちされているとも言えるのではないでしょうか。
一つ一つの食や工芸品の完成度に加え、混じり気のない純度の高いものを作り上げるために要した長い時間や努力、その背景に思いを致しますと、それ自身の尊さあるいは美しさがより一層感じられるように思います。そういったことが日本の美意識と言えるのではないでしょうか。
島村 ものすごく知的なお答えですね。
村田 そもそも美意識というのは、人によって感じるポイントが少しずつ違うので、そこからある程度日本人が共通に感じる部分を抽出して昇華させていくと、今言ったような話につながるのではないかなと私なりに考えた次第です。
島村 ありがとうございました。
村田茂樹 Shigeki Murata
東京都出身。1990年、東京大学法学部を卒業、同年4月、運輸省へ入省。2019年7月、観光庁観光地域振興部長。2021年7月、観光庁次長。2022年6月、内閣府総合海洋政策推進事務局長。2023年7月、国土交通省鉄道局長。2024年7月、国土交通省大臣官房長。2025年7月、観光庁長官に就任。
Photos by Toshiyuki Furuya
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