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自分らしく美しく。資生堂の取組み(後編)

2021.12.20

ラベンダーリング×資生堂が目指す、がんサバイバーが笑顔で生きる明日へ

MAKEUP&PHOTOS WITH SMILES(メイクアップ&フォト ウィズ スマイルズ)に参加した206人の笑顔と共に語られる、がんと人生の道程が詰まった1冊。「自分らしく、を 生きていく。がんとともに生きる206人の笑顔と想い」1800円+税 ハースト婦人画報社刊 。


LAVENDER RING(ラベンダーリング)という、電通の有志社員、資生堂、キャンサーネットジャパンで構成されるグループがある。がんへの偏見やまちがった認識を持つ人はまだ多い。彼らの活動の趣旨は、がんになった人も、そうでない人も、共に思いやりでつながり、笑顔で生きる社会を目指すための活動をしている。

 

資生堂とコラボレーションしたMAKEUP&PHOTOS WITH SMILES(メイクアップ&フォトズ ウィズ スマイルズ)という活動を通じて、ご存じの方もいるだろう。後編は、ラベンダーリングの活動が大きな流れになっていく過程を紹介する。

 



仲間ががんになったとき。みんなでできることを模索して

 

それは、1本の電話から始まった。

 

2015年10月、電通の月村寛之氏のもとにかかってきたのは、部下である御園生泰明氏からだった。彼から、肺がんだということを伝える電話だった。

 

「肺がんだと聞いて驚きました。彼はそのときまだ30代。若くて元気な彼と肺がんというのが自分の中で結びつかなかった。どうやって向き合ったらいいんだろう?というのが、そのときの正直な気持ちでした」。

 



電通月村氏 電通月村氏

ラベンダーリングの創設者 月村寛之氏



月村氏は熟考の上、自分のチーム内では御園生氏ががんであることをオープンにしていこうと決める。これから、治療や体調に合わせて働き方をサポートしていくことが必要になるだろう。その時々に応じて、チームで助け合うためにも、オープンにすることが大切だと思ったからだ。

 

御園生氏を応援するためになにか象徴とするものを、と思い、御園生氏のポートレートを用いて「FIGHT TOGETHER(ファイト トゥギャザー)」というステッカーを作り、各自のPCに貼って気持ちを表現することにした。他チームの人からステッカーの意味を問われ説明すると、みな一様に、自分もステッカーを貼りたいと申し出てくれた。応援したいという気持ちが、チームの士気をも高めてくれる、不思議な相乗効果があった。

 



御園生氏の写真でデザインされた「FIGHT TOGETHER」というスローガン入りのステッカー。 御園生氏の写真でデザインされた「FIGHT TOGETHER」というスローガン入りのステッカー。

御園生氏の写真でデザインされた「ファイト トゥギャザー」というスローガン入りのステッカー。同じ部のメンバーがPCや目に付くところにこのステッカーを貼ってくれた。その輪は電通社内からクライアントにまで広がった。



がん=死、というイメージをくつがえしていく。ラベンダーリングへと輪を広げて

 

2017年4月のことだった。月村チーム全員の応援を受けて仕事を続けていた御園生氏から、自分を応援してくれている「ファイト トゥギャザー」を、社会のためにやってみたいという発案があった。その思いに背中を押され、チーム全体で動き始める。アートディレクター河瀬太樹氏にも参加してもらい、がんサバイバーの写真を撮り、展示するというアイデアはすぐに出てきた。抗がん剤治療を続けながらもフットサルの選手として活躍する久光重貴選手を中心に9名のテスト撮影を行い、準備は着々と進んだ。

 



湘南ベルマーレフットサルクラブに所属していた久光重貴選手 湘南ベルマーレフットサルクラブに所属していた久光重貴選手

湘南ベルマーレフットサルクラブに所属していた久光重貴選手。このプロジェクトの一番最初のポートレート。



2017年8月、日本最大級のがんフォーラム「ジャパンキャンサーフォーラム」で、がんサバイバーを撮影、インタビューすることが決まった。撮影するとなると、ヘアメイクが必要となる。ヘアメイクやフォトグラファーなどのクリエイティブを持つ会社といえば、それは資生堂だ。月村氏が企画を持ちかけると資生堂も快諾してくれた。資生堂ライフクオリティーメイクアップが協同するプロジェクト「メイクアップ&フォトズ ウィズ スマイルズ」がここから本格始動する。



がんサバイバーの笑顔であふれたMAKEUP & PHOTOS WITH SMILES

 

駆け足の準備期間ののち、2017年8月19日当日。日本橋で開催された「ジャパンキャンサーフォーラム」の初日には、メイクアップ&フォトズ ウィズ スマイルズに参加するがんサバイバーが集まった。資生堂 ライフクオリティー メイクアップのメンバーを中心に、資生堂内からボランティアも参加し、メイクやヘアを担当した。

 

資生堂のコンサルタント澤田保子氏もそこにいた。どんな色が好きか、今日はどんなイメージのメイクをしてみたいか、緊張しているがんサバイバーにやさしく語り掛けながら、メイクを作り上げていく。その過程そのものが、がんサバイバーの心を包む。澤田氏のメイクで少しずつ変容していく自分にときめき、自然と笑顔がこぼれる。



資生堂の澤田保子氏 資生堂の澤田保子氏

資生堂のコンサルタント澤田保子氏のやさしい声のトーン、手のひらのぬくもり。メイクの仕上がっていく様子に目を見張りながら、心まで癒されていくよう。メイクアップ、ヘアそれぞれのアーティストも資生堂からボランティアを募り、集まった。



資生堂宣伝部のフォトグラファー金澤正人氏。 資生堂宣伝部のフォトグラファー金澤正人氏。

資生堂 クリエイティブ本部のフォトグラファー金澤正人氏。がんサバイバーの思いを引き出し、彼らの話に耳を傾けながら、撮影は進んだ。



MAKEUP&PHOTOS WITH SMILES(メイクアップ&フォトズ ウィズ スマイルズ)に参加するがんサバイバー MAKEUP&PHOTOS WITH SMILES(メイクアップ&フォトズ ウィズ スマイルズ)に参加するがんサバイバー

自分のメッセージを書き込んだポスターは、すぐに会場に張り出される。自分だけでなく、サバイバーの仲間たちの笑顔を見ていると元気が湧いてくる。ポスターの印刷はアマナが担当している。



撮影後、自分の大切にしている言葉や思いを書き、レイアウトしてもらえばポスターの完成である。すぐさま印刷され、会場に張り出される。壁一面、参加者のポスターで埋め尽くされた様子は圧巻。誰もが生き生きとした、満面の笑顔だ。ステレオタイプのがん患者はそこにはいない。世間に広まっているがんサバイバーの印象など吹き飛ばしてくれる。そして気づく。がんサバイバーは特別な存在じゃない。会社にも学校にも家庭にもどこにでもいて、私たちと同じように生きているということを。

 



コロナ禍でもできることを
オンラインで実施されたMAKEUP & PHOTOS WITH SMILES

 

2017年にはじまった「メイクアップ&フォトズ ウィズ スマイルズ」はその後も回を重ねている。2021年にはこれまでのフォトセッションを収めた『自分らしく、を 生きていく。がんとともに生きる206人の笑顔と想い』を刊行し、注目を集めた。

 

コロナの影響もあり、2020年、2021年はオンラインで実施するというチャレンジもあった。資生堂のコンサルタント 澤田保子氏は「オンラインでがん患者さんにどこまで寄り添うことができるのか、もちろん心配もありましたが、試行錯誤を重ねていきました。実際に肌に触れ、メイクをして差し上げることはかないませんが、お客様自身ができる方法をお伝えしながら、メイクを楽しんでいただけることを、私たちはお客様から学びました」と語る。

この経験がオンラインカウンセリングを始めるきっかけとなり、今では遠方に住むがんサバイバーの方にも気軽に参加してもらえるようになったという。



オンラインで実施されたMAKEUP&PHOTOS WITH SMILES オンラインで実施されたMAKEUP&PHOTOS WITH SMILES

オンラインで実施された「メイクアップ&フォトズ ウィズ スマイルズ」。参加者には事前にアンケートを取り、メイクのレクチャーを行った。



今年は「高校生アイデアフェス #仲間と一緒に考える子宮頸がん」を開催した。3~4人の高校生のチームが子宮頸がんをテーマに、まずは医師やがんサバイバーなどの情報をインプットし、検診率の低さや知識の欠如を解決するためのコミュニケーションプランのアイデアを考え、発表するというもの。今回は全国から43名、計11チームが参加、すべてオンラインで行われ、アイデアも動画でプレゼンテーションした。御園生氏を応援することを目的に始まった活動が、社会へ変化を促していく動きに広がっていく。

 



オンラインで参加した高校生たち オンラインで参加した高校生たち

オンラインでディスカッションを重ねた高校生たち。今回優勝した「チーム3 Let’s think about Cervical cancer」のテーマは「性の話題でふざけてしまう中高生に向けたアイデア」。課題を洗い出し、アプローチを真剣に考えてくれた。



みんなを笑顔にする種を蒔き続けて
やさしく、美しい花を咲かせるために

 

もし、職場に、友人に、家庭に、がんサバイバーがいたとして。

 

覚えておいてほしい。がんになっても、人生は終わらない。がんサバイバーも普通に働き、普通に生きる、社会の一員であることに変わりはない。一見あたりまえのように思うけれど、まだ理解されづらい現実として横たわっていることは事実だ。この現状を変えていくためには、がんサバイバーの真実を伝えていく必要があった。ラベンダーリングの活動は、生き生きとしたがんサバイバーの姿を伝えることに寄与することに成功したといえるだろう。

 

もう一度言おう。がんになっても、人生は終わらない。ただ、人生のひとコマに、がんという章が加わっただけなのだ。あなたの身近な人ががんになったとき、特別視するのではなく、何ができて何が困難なのか、ただ静かに耳を傾けてもらえないだろうか。その経験は、病気があろうがなかろうが、誰もが心豊かに、支え合う社会を、今、ここから始めるチャンスでもあるのだから。そしてもし、あなたががんになったとしても、安心して生きられる社会であるためにも、必要なことなのだから。

 

ラベンダーリングという希望の種を蒔く人たちがいる。その活動を知り、これからにも注目してほしい。そしてもしよければ、一緒に種を蒔いていけたら、と彼ら彼女らは願っている。そこに咲く花はきっと、私たちの社会を、やさしく、美しく彩る。


御園生氏を囲んだ、電通、資生堂の有志で構成されたラベンダーリング 御園生氏を囲んだ、電通、資生堂の有志で構成されたラベンダーリング

ラベンダーリングの仲間たちで御園生氏を囲む、記念すべき1枚。




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