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松山 猛 時と人を繋ぐもの

2025.1.31

オーデマ ピゲ社のミュージアム「ミュゼ アトリエ オーデマ ピゲ」で、時計の原理と技術の妙を体験する





文・松山 猛

 

世界有数の時計と宝飾の国、スイスで体験できる特別感

 

スイス北西部、ジュネーブの北にあるル・ブラシュの街は、複雑時計の歴史を刻んできた土地である。

パテック・フィリップ社やヴァシュロン・コンスタンタン社と並び、かつてジュネーブ御三家と呼ばれた、高級時計メゾンの一つであるオーデマ ピゲ社は、ジュネーブではなくこの複雑時計の故郷に本社を構えてきた。

新旧のキリスト教の争いを逃れて、ユグノーと呼ばれる新教徒の集団が、ジュラ山系の山を越えて亡命してきた土地でもある。





彼らの多くは宝飾や時計製作の技術を持つ人々で、このル・ブラシュをはじめとするジュー渓谷の様々な土地や、やがてジュネーブに進出し、スイスを世界有数の時計と宝飾の国にと進化させたのであった。

そのユグノーの人々のうち、ピゲ家の人々の多くが、19世紀のポケットウォッチ時代になると、永久カレンダー、ミニッツリピーターなど、複雑な機構を持つ時計の製作に優れた才能を発揮し、スイス時計の発展に大いに寄与することとなった。




オーデマ ピゲ社の創立者、ジュール=ルイ・オーデマとエドワール=オーギュスト・ピゲ。そしてルイ=エリゼ・ピゲのほか、パテック・フィリップの複雑時計を多く手掛けたヴィクトラン・ピゲなどの名匠が、僕が『天職の谷』と呼ぶこの土地から、数々の傑作時計を送り出してきたのだ。

その素晴らしい歴史をフィリップ・デュフォーなどの時計師が、このジュー渓谷のアトリエで今日に伝えられいるのも素敵なことだ。









伝統を継承し、実直なものづくりに取り組む職人の魂が詰まった世界

 

オーデマ ピゲの時計は、ラグジユアリースポーツウォッチの嚆矢(こうし)として人気を博す”ロイヤル オーク“が有名だが、ポケットウォッチの時代に始まる、複雑時計を絶え間なく作り続けてきたその歴史が素晴らしい。

その歴史を一堂に会する素晴らしいミュージアムが作られたというので見学に出かけた。





時計のゼンマイを思わせる螺旋状のミュージアム 時計のゼンマイを思わせる螺旋状のミュージアム

時計のゼンマイを思わせる螺旋状のミュージアム





旧本社近くの、かつては牧場だったであろう土地に、エスカルゴの様な形状のミュージアムが作られていて、そこには時計の原理を示す展示や、同社が手掛けてきた歴史的なピースが展示されていて見事だった。

僕が特別に見たいと思っていた、昔フィリップ・デュフォー氏が製作した、グランド プチ ソヌリ機構を持つポケットウォッチだった。

昔ながらの工作機械を駆使して、デュフォー氏が作り上げた、超複雑な時計がそこにあり、その現物をようやく見ることができたのだ。




グラン・プチ・ソヌリ時計 グラン・プチ・ソヌリ時計

フィリップ・デュフォー氏が4ピース製作をしてオーデマ ピゲ社に収めたグランド プチ ソヌリ時計





ポケットウオッチ ポケットウオッチ

1900年頃に製作された永久カレンダー表示のポケットウォッチ




グランド プチ ソヌリとは、いわゆる自鳴鐘というもので、プチソヌリに設定すると30分ごとにチャイムを鳴らし、グランドソヌリに設定すると、毎正時と15分ごとにチャイムを鳴らす時計だ。そしてサイレントモードにもできるもので、通常のリピーター時計よりもはるかに複雑なメカニズムを必要とする。

永らく誰も作ることがなかったこの機構を持つ時計を、20世紀の時計師が再現したのは素晴らしいことだったが、その後デュフォー氏は、それを腕時計としても再現したのだから驚かされたものだった。






全面が曲面ガラスの壁面が広がる空間 全面が曲面ガラスの壁面が広がる空間

機械仕掛けの楽しい動きをするオブジェ





ミュージアムには昔の時計だけではなく、オーデマ ピゲ社が現在作り上げている、素晴らしい時計のコレクションも展示されていて、時計というメカニズムが、どのように発展し、進化してきたかがまさに、手に取るように理解できるのだった。

 







また今日同社で仕事をしている、時計師たちを讃える展示のコーナーもあり、そのメカニカルなオブジェも見応えがあった。

ミュージアムの建物の上に、『不思議の国のアリス』に登場する、人の言葉を話し、大きな時計を持った白ウサギのオブジェがあるのもなかなか楽しい風景であった。

 

 

Musée  Atelier Audemars Piguet
Route de France 16 1348 Le Brassus






「松山 猛 時と人を繋ぐもの」とは

日本の時計ジャーナリストの草分け的存在である、松山 猛さんが心惹かれた時計や人、ブランドに宿る物語を独自の視点で紹介していく連載。

 

 

 

 



筆者プロフィール

 

日本の作詞家、ライター、編集者。1946年京都市生まれ。1968年、ザ・フォーク・クルセダーズの友人、加藤和彦や北山修と共に作った『帰ってきたヨッパライ』がミリオンセラー・レコードとなる。1970年代、平凡出版(現マガジンハウス)の『ポパイ』『ブルータス』などの創刊に関わる。70年代から機械式時計の世界に魅せられ、時計の魅力を伝える。著書には『智の粥と思惟の茶』『大日本道楽紀行』、遊びシリーズ『ちゃあい』『おろろじ』など多数。

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