文・松山 猛
高級時計の代名詞とされるジラール・ペルゴ
スイスの時計の帝都と呼ばれる街、ラ・ショー・ドフォンに本社を構える、ジラール・ペルゴ社はその歴史をさかのぼれば、1791年創業の、ジャン・フランソワ・ボットの初めたマニュファクチュールに遡ることができるという。
1791年と言えば、その2年前にフランス革命が起き、アメリカではワシントンが初代大統領になった時代の事である。
ボットの作る美術品の様な、仕掛けのある豪華な時計装置は、例えばエナメル画や彫金細工を施したボックスから、ボタンを押すと小さな小鳥が飛び出して、鳴き声を奏でる物の様なもので、王侯貴族や富裕な商人から絶大な人気を得たものだった。
時代は下り、時計製造の街として発展しつつあった街で、コンスタント・ジラールとマリー・ペルゴ夫妻によって、1856年に設立されたこの会社は、早くから高性能な時計を作り、アメリカや南米に販路を広げており、中でも有名なのは三本のブリッジによってムーブメントのメカニズムを構成する、トウールビヨン・ポケットウオッチ”エスメラルダ“で、そのスタイルの時計は現在も腕時計としても製造されていて、同社を代表するアイコンとなっている。
やがてジラール・ペルゴ社は、事業を発展させ歴史あるボットの工房をも傘下に収めることとなったのだった。
日本ともとても関わりの深いブランドであり、まだ日本が開港する以前の幕末の時代に、創業者の弟のフランソワ・ペルゴが苦労の末に来日を果たし、スイス時計を日本に広める初めてのスイス人時計師となったことだ。


創業者の弟のフランソワ・ペルゴ氏。
彼の来日からほどなくしてやってきた、通商交渉団のエメ・アンベールや、ファーブル・ブラントなどの来日をサポートし、横浜を輸入時計のゆりかごの様な土地にした大功労者であったが、残念なことに来日から10年を待たず、48歳の若さで没してしまった。その功績をたたえて友人たちが、横浜の外人墓地に埋葬し、そのお墓は今もそこにある。
余談になるが、外人墓地に近い元町通りに高級輸入時計を扱う「コモンタイム」社長の田中幸太朗さんと僕などの有志が、毎年その命日に墓参をするようになって、もう20年近くの時が流れた。
ラグジュアリーでありスポーティーでもある「ロレアート」
さてそのジラール・ペルゴ社の送り出した「ロレアート」という時計が今、熱烈な支持を受けていると聞いた。
この時計はいわゆるラグジュアリー・スポーツ時計というカテゴリーのもので、ラグジュアリー感を持ちながら、スポーティーに装える時計として人気を博しているのだ。
最近はこのタイプの時計を「ラグスポ」と略すようだが、パテック フィリップ社の「ノーチラス」や、オーディマ ピゲ社の「ロイヤルオーク」、ヴァシュロン・コンスタンタンの「オーバーシーズ」などと並ぶ、モダーンな時計としてのステータスを築き上げたのだ。
八角形のベゼルを持つケースと、スムースに一体化するメタル製のブレスレットのモデルが基本だが、モデルによっては別売の革のベルトなどに付け替える事も可能だが、やはりスポーティーさというなら、メタル・ブレスレットがふさわしいだろう。
湿度の高い夏場の日本では、レザー・ベルトは汗でダメージを受けてしまうから。


ロレアート セージグリーン2,090,000円


ロレアートミッドナイトブルー 2,090,000円


ロレアート クロノグラフ 藍色 ジャパン リミテッド エディション 2,805,000円
「ロレアート」という名前の由来は、この時計が作り始められた頃、ダスティン・ホフマンが主演した『卒業』という映画が人気を得ていて、そこからインスパイアされたのだと聞いたことがある。
「ロレアート」には卒業という意味や、合格といった意味があり、1975年に作られた時に、クロノメーター検定に合格したという、隠された意味を持って命名されたと言われている。
初めて生産されたころは、クオーツ全盛の時代だったので、ムーブメントはクオーツを採用していたが、近年のモデルは機械式となっていて、シンプルな三針モデルの他に、クロノグラフ機能を持つ物、スケルトン・モデルなどそのバリエーションが豊富だ。
スーツ・スタイルにも、スポーティーな装いにも似合う愛機となってくれるに違いない。
「松山 猛 時と人を繋ぐもの」とは
日本の時計ジャーナリストの草分け的存在である、松山 猛さんが心惹かれた時計や人、ブランドに宿る物語を独自の視点で紹介していく連載。
筆者プロフィール
日本の作詞家、ライター、編集者。1946年京都市生まれ。1968年、ザ・フォーク・クルセダーズの友人、加藤和彦や北山修と共に作った『帰ってきたヨッパライ』がミリオンセラー・レコードとなる。1970年代、平凡出版(現マガジンハウス)の『ポパイ』『ブルータス』などの創刊に関わる。70年代から機械式時計の世界に魅せられ、時計の魅力を伝える。著書には『智の粥と思惟の茶』『大日本道楽紀行』、遊びシリーズ『ちゃあい』『おろろじ』など多数。
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