文・松山 猛
時計愛好家たちを魅了する、稀少なコレクションの数々
創業以来芸術性の高い時計を作り続けてきたこのメゾンは、1822年にエドゥアール・ボヴェによってスイス・フルリエの地でその産声を上げた。
エドゥアールは時計師の息子としてフルリエに生まれたが、最新の技術を学ぶためにイギリスへ渡り、時計製造の修行を重ねていた。
その時代、イギリスでは清朝の中国向けに、チャイニーズ・デユープレックスと呼ばれる形式の時計を造り盛んに輸出していた。
それらの時計は極彩色のエナメル画や、淡水パールをもちいた装飾性の高い時計で、清朝の皇帝や貴族、富裕商人などの中国の人たちが好んだようだった。
自分や奥さんの肖像画を特注する者もいたが、多くは母子像や、たくさんの花を描いたものが知られていて、コレクターもまた多い。
ムーブメントにも凝ったエングレーブを施したものがあり、またピカピカに鏡面仕上げをしたものなどのアートピースが多く作られたのだった。
1818年、イギリスで学んだあと、彼はビジネスチャンスを求めて中国に渡り、中国の人が好む装飾を施した時計を、これまた中国の人が好む左右対称の一対にして販売し、好評を得たのだった。
美術工芸品と呼ばれたボヴェのアンティーク懐中時計。
その時代のボヴェの時計は、僕が親しくしていた、香港の時計師の僑大羽さんがコレクションされていた物を、手に取って見せてもらったことがあったが、実に美しい。また精巧に作られていて驚いたのだった。
香港の時計師、僑大羽さんのコレクション。見事な装飾は施された懐中時計。
やがてエドゥアール・ボヴェは自らの時計製造の拠点をスイスのフルリエに設立し、それ以来数多くの傑作を残したのだった。
時代が変わり、清朝の世は革命によって終わりを告げ、チャイニーズ・デユープレックスの製造も終わりを告げる。
伝説ブランド「ボヴェ」の技術と独自性を守るための努力
その後もボヴェ社は20世紀になり、クロノグラフやカレンダー腕時計など近代的な時計を製造していたが、世界恐慌や世界大戦の影響を受け、そんな時代の前に、ひとたび活動を休止する。
しかしこの輝かしい歴史を持つメゾンは、やがて20世紀の後半、時計を愛する人たちによって復活の時を迎え、さらに2001年以来、現在のオーナーであるパスカル・ラフィー氏によって、再び栄光の時を謳歌し始めたのだった。
ポケットウオッチ時代のスタイルを踏襲した、竜頭をガードするような、ペンダント・ボウがあしらわれた、独特のケースデザインは、このブランドの時計を特徴づけていて、ひとめでボヴェとわかるスタイルなのだ。
そして最近は複雑機構を持つモデル作りも盛んで、そのフアンも多い。
ボヴェは製造の独自性を持つために、ムーブメントや文字盤などを自社で製造するために、ディミエ1738社などを傘下に収めたことで、大きな製造ポテンシャルを持っているが、年産本数を1000ピース以内に抑えていて、徹底的な造り込みをするようにしていると聞く。
トウールビヨンをはじめ、複雑なカレンダー機構や、立体的に月の満ち欠けを表現した、ムーンフェイズ機構を持つモデルなど、緻密な表現の時計作りを得意としている。
『19Thirty (ナインティーンサーティ)10th アニバーサリーモデル』 カーキダイヤル 品番:NTS0117 4,290,000円(税込)
そして車のカロッツエリアとして知られる、ピニンファリーナとの、限定生産のコラボレーション・モデルも人気だ。
この時計などは、わずか30ピースという少量限定品であり、それはそれを求め、所有する人にとっては、まさに誇らしいことであろうと思われる。
今年の新作は巧妙なシステムのワールドタイマーなどで、時計という道具をいかに実用面でも進化させるかという意気込みを見たのだった。
美しく、しかも実用性が高く、持つものに喜びを与えてくれる、そんなブランドがボヴェなのだと思う。
「松山 猛 時と人を繋ぐもの」とは
日本の時計ジャーナリストの草分け的存在である、松山 猛さんが心惹かれた時計や人、ブランドに宿る物語を独自の視点で紹介していく連載。
筆者プロフィール
日本の作詞家、ライター、編集者。1946年京都市生まれ。1968年、ザ・フォーク・クルセダーズの友人、加藤和彦や北山修と共に作った『帰ってきたヨッパライ』がミリオンセラー・レコードとなる。1970年代、平凡出版(現マガジンハウス)の『ポパイ』『ブルータス』などの創刊に関わる。70年代から機械式時計の世界に魅せられ、時計の魅力を伝える。著書には『智の粥と思惟の茶』『大日本道楽紀行』、遊びシリーズ『ちゃあい』『おろろじ』など多数。
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