静謐なサロンで堪能する
オートクチュールストールの美しさ
なかなか手に入らないアンティークレースや、最高品質のシルクやベルベッドなどを使ったオートクチュールのストール「ヴィニティーク」が今、ファッション通や、目の肥えた人たちの間で話題となっている。この逸品をプロデュースしているのは、本物を見極める目と優れたセンスを持つ瀬口美香である。
オートクチュールストールを扱う「ヴィニティーク」のサロンは東京・原宿に佇む、ヴィンテージマンションの一室にある。外の喧騒とは隔絶された静けさの中に、ル・コルビュジエの白いソファが置かれ、友人の家を訪れた時のような寛げる雰囲気がある。
トルソーの肩にディスプレイされたストールにあしらわれたレースに目を奪われていると、もっとご覧くださいと、瀬口がにこやかにクローゼットを開く。白、黒、アンティークなピンク色など、たくさんのストールが色別に掛けられて、一瞬でロマンティックな別世界に来てしまったような気持ちになる。ストールのひとつひとつを手に取りながら、使われているレースやシルクの来歴、エピソードを聞くのが楽しい。常時50点以上のストールやドレス、小物も揃っているので、その場で購入することもできるが、オーダーでストールなどを制作してもらうことも可能。サロンのオーナーでもある瀬口美香が、デザインを手がけている。
もう入手する事ができない美しいシルクレースと、デリケートな極細の糸で織られた繊細なリネンを組み合わせたストール。
レースの両端にオーストリッチをあしらった華やかなストール。
希少なレースやシルクを余すところなく利用して作るクラッチは、VINITIQUE の人気商品。一点一点、レースの配置から生地の組み合わせ、芯地の厚さまで調整しつつ仕上げるのは熟練の職人でも手間のかかる仕事だという。
ヨーロッパのレースに
日本のシルク
失われつつある美しい素材を守りたい
「イタリアやフランスのレース、山梨の麻、福井のベルベット、金沢のシルクなど、素晴らしい素材に出合えたことが、私のよろこびです」。しかし、これらの素材のほとんどが、今ではなかなか手に入らない貴重なものなのだという。「たとえば、シルクのレースは肌触りが素晴らしいのですが、とてもデリケートなもの。最近では、扱いやすく手入れもしやすいナイロンやコットンが入ったものが使われることが多いのです。なので、気に入った素材があったらなるべくすべて買うようにしています。なくなったらそれで終わり、ということもよくあるからです」。
加工に手間をかけて光沢を追求した最高級のベルベット地は福井県産。その煌めきはジュエリーにも例えられるほどだという。
きんちゃく型のバッグは、パーティーバッグにも、また、きものにも合うと人気。
日本で作られるシルクや麻、ベルベットなどの素材も、希少性の高い、最高のものだけを選んでいるという自信がある。たとえばベルベットなどは、ヨーロッパのほうが良いものというイメージだが、決してそうではないという。「ドイツやイタリアのベルベットも見てきましたが、しなやかなストールやドレスの素材には、絶対に日本ものの方がいいと思えます。フランス人に見せても、みんながいいと言いますよ。でも、低コストを要求されたり、化学繊維を使用して耐久性のあるものを求められる厳しい現状があり、後継者も育たない。本当に良いものを作っている職人さんほど、廃業せざるを得ない状況にあるのは、残念なことだと思います」。
山梨の機屋さんの工房で、たて糸を作る様子を見る瀬口。「私の要求に快く応じてくださり、さらにイメージをふくらませてくれる職人さんとの交流が私のモチベーションの源です」。
ストール作りの始まりは
ボルドーで見つけた
本物の豊かさから
フランス・ボルドーにアトリエを開設し、ストールの制作を始めたのは2006年のこと。「ボルドーに行く前は東京で夫の仕事を手伝っていました。いつか海外で暮らしたいと思い、色々な場所に行ってみて、気に入ったのがボルドーだったのです。ボルドーは古くからワイン貿易で栄えた街なので、エレガントな建物が多く、自然も豊か。南の方なので気候もいいですし、人もいい。大好きになって、10年ほど時間を作ってはボルドーで過ごしていました」。
ボルドー時代の一枚。自然と文化が調和した独自の美しい環境から、多くの影響を受け、VINITIQUE が生まれた。
リネンとオーストリッチの組み合わせ。カジュアルなコーディネイトにもよく似合う。このリネンはイタリア製。質感と発色は一目で上質な素材とわかる。
ボルドーでは、パーティに出席する機会も多く、ドレスを着ることは楽しみのひとつだった。そのうち、数は多くないけれど、生地や細工に惹かれて購入し、長年愛用したパーティ用のドレスを処分することもあった。使われているレースやビーズはまだ十分に美しいのに、捨ててしまうのが忍びない。なんとかして手元に残したいと考えて、ストールにしてみたのがきっかけだった。
瀬口は、ファッションの専門的な勉強をしたわけではない。ただ、若い頃からファッションが大好きで、穴の開くほどファッション誌を読み、背伸びをしてハイブランドの服を着ていた。トレンドを追い、旬のファッションをまとうことが楽しかった。しかしボルドーで暮らし始めてから考えが変わる。「ボルドーには伝統がしっかり残っていて、揺るぎないものがあります。そこに暮らす人を見ていたら、個性は人それぞれ、みな解釈も違う。自分の生き方や考え方がにじみでるスタイルが一番かっこいいと思うようになりました。パリではなく、ボルドーだったことも私にとってはよかったみたいです」。そんな体験の積み重ねが、瀬口の審美眼とセンスを養っていったに違いない。2014年には、現在の神宮前のサロンをオープンし、東京で本格的に始動。年々、日本での知名度と人気も上がり、今では世界中のセレブを含むファッション通の人たちが日々サロンを訪れている。
作品の撮影時のひとこま。朗らかな瀬口の大きな笑顔が、サロンを訪れる人を魅了する。
プライドのある仕事が
モノづくりの未来を
切り開くと信じて
近々、長野在住の世界的なアンティークレースのコレクターであり鑑定家の、ダイアン・クライスとのコラボレーション作品も発表される予定だ。「昨年、松涛美術館でダイアンさんの展覧会を見て感動したのですが、良いご縁をいただきました。日本人の私の感覚で、アンティークレースを現代に蘇らせるというプロジェクトが始まります」。神々しいほど細やかなアンティークレースをあしらったストールは、一目見て特別なものとわかる迫力を持つ。
ダイアン・クライスから託された数千におよぶ希少なレースを、現代モードの中で蘇らせるプロジェクト活動を開始したばかり。
これからの夢は、少しでも周りの人達の力になること。「今、ストールを作れるのは職人さん達のおかげです。私はたまたま表に立っているだけ。だから、職人さん達がその仕事を継続できること、もっといえば利益に追われて疲弊してしまうような仕事ではなく、職人として彼らが手がけてみたいと思うようなプライドのあるお仕事ができるようになったら、こんなに幸せなことはありません。買って下さる方も職人さんを応援しているという気持ちになると、うれしいみたいです。みんながうれしい気持ちになったら、私もうれしい。そういう意味でこの仕事を大きくしていきたいと思っています」。
(敬称略)
ヴィニティーク VINITIQUE
東京都渋谷区神宮前6-35-3 コープオリンピア7F
03-6427-4074
e-mail: mica@vinitique.net
サロンは完全予約制
予約不要のオープンデイの日程については、要問い合わせ。
http://www.vinitique.net/
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