ミナ ペルホネン 皆川明 01

Style

Portraits

一生を越えてつづく。皆川明の道のり(前編)

2019.11.15

ミナ ペルホネン 皆川明のよろこびはいつも、ものづくりとともに

一生を越えて、つづく、つづける。
飛翔する皆川明と
ミナ ペルホネンの創作

ミナ ペルホネン──。軽やかで優しく、どこか牧歌的なこの名前が、高い好感度と大きなよろこびをもって語られるようになって久しい。デザイナー皆川明が、当初は「ミナ」という名でファッションブランドを立ち上げ、やがて「ミナ ペルホネン」として成長させ、2020年に25周年を迎える。

 

2019年11月16日~2020年2月16日の3ヵ月間、東京都現代美術館で、ミナ ペルホネンの軌道と創造を伝える展覧会が開催されている。展覧会のタイトルは、「つづく」。簡潔なこの言葉には、大きな意義が込められている。ひとりの創作者が人生を越えてはるか先を見渡しながら、日々、真摯に仕事をしている。秋の一日、その仕事のひとこまを訪ね、「つづく」に込めた思いを聞いた。静かに語られた言葉は示唆に富み、ものづくりへの愛情、作り手と受け手への誠意、優しさと思いやりに満ちていた。

プレスルームには皆川の手がけた書籍なども置かれ、世界観を余すところなく表現している。 プレスルームには皆川の手がけた書籍なども置かれ、世界観を余すところなく表現している。

プレスルームには皆川の手がけた書籍なども置かれ、世界観を余すところなく表現している。


陸上競技からファッションへ
迷いなく、転向する

ミナ ペルホネンの中核をなすのは、皆川が自ら図案を描くオリジナルのテキスタイルによる洋服のコレクションだ。コレクションラインを扱う店舗は東京、京都、金沢、松本にある。どこもその土地らしい魅力的な建物が選ばれ、すみずみまで美しくしつらえられ、独自の世界観に貫かれて心地よい。

ミナ ペルホネン代官山店。2つの異なる印象の部屋が融合した、心地よい空間。Photography by Minami Takahashi ミナ ペルホネン代官山店。2つの異なる印象の部屋が融合した、心地よい空間。Photography by Minami Takahashi

ミナ ペルホネン代官山店。2つの異なる印象の部屋が融合した、心地よい空間。Photography by Minami Takahashi

ファッションに携わるようになったのは偶然だった。中学・高校時代は長距離の陸上選手として活躍するが、ケガをして陸上を断念。目的を失って、ふと高校卒業後にパリを旅する。滞在中に偶然、パリ・コレクションの手伝いをすることになり、初めてファッションと出逢った。この時、服飾を一生の仕事にしようと決める。東京に戻って夜学で洋服を学び、縫製工場やオーダーメイドの仕事を経験した後、27歳で独立。ブランド設立後もしばらくは早朝から魚市場で働き、午後にアトリエで洋服づくりをしていたという、ファッションへの情熱と努力に満ちた逸話も良く知られている。


100年つづけなければ意味がない
だから継続していくという意志の力

「苦手だと感じていた“ものづくり”をあえて仕事にする。そうすれば飽きずに物事を探求していくだろう、と自分に期待しました。得意なことより出来ないことに挑戦し、少しずつ成長していけばいい。やってみて振り返ろうと、迷わず決断しました」。その時から100年続けなくてはやる意味がないと考え、一度もやめようと思ったことはない。ファッションの仕事をすることで共同作業の大切さ、物事を継続することの大切さも学んだ。

 

ファッション、それも女性の服を柱にしてきたのは、最初の出会いが婦人服だったから。「婦人服は一生をかけて追及するに値します。その服を女性たちが、人生の中でよろこびをもって、贈り物のように受け取ってくれたら嬉しいですね」。服ばかりでなく、ミナ ペルホネンのあらゆるプロダクトも、着る度、使う度、眺める度に、心が晴れやかに明るくなる、そんな魅力をたたえている。皆川の絵も詩も言葉もまた同様だ。穏やかでいて、時には深淵さもまとっている。

独特なテキスタイルが楽しいミナ ペルホネンの服。 独特なテキスタイルが楽しいミナ ペルホネンの服。

独特なテキスタイルが楽しいミナ ペルホネンの服。


万華鏡のように
ひとつの世界の中で
多彩な輝きを放つ

ミナ ペルホネン創立から25年が経とうとしており、その世界と活動はインテリア、日常のアイテム、カフェや野菜の販売、さらに京都のホテルや瀬戸内海に浮かぶ島の宿のディレクションにも広がっている。「人の日常では、服も暮らしも切り離せません。世界観は繋がっているから服も建築も別々である必要はなく、同一線上や同じ輪の中にあると考えています」。

 

無理なくゆるやかに、その輪は広がってきた。ショップの形態も幅広く、服、器や生活アイテム、アートピース、アンティークが仲良く並ぶ店も多い。東京・代官山にはテキスタイルを中心に扱うmateriaali(マテリアリ)、青山には世界中から独自の視点でセレクトしたcall、神宮前にはリメイクした服なども扱うpiece,、馬喰町には食品と北欧ヴィンテージ家具、作家を紹介するギャラリー的な空間elävä(エラヴァ)がある。

写真左から ウッディなインテリアが印象的な「call」、いま注目を集める馬喰町エリアにある「elävä」。Photography by Masahiro Sanbe/Norio Kidera 写真左から ウッディなインテリアが印象的な「call」、いま注目を集める馬喰町エリアにある「elävä」。Photography by Masahiro Sanbe/Norio Kidera

写真左から ウッディなインテリアが印象的な「call」、いま注目を集める馬喰町エリアにある「elävä」。Photography by Masahiro Sanbe/Norio Kidera


ものづくりはすべて
思考の具現化

日本のみならず、欧州の上質なものづくりをするメーカーとのコラボレーションも多い。家具から陶磁器まで、ミナ ペルホネンの空気をまとった多様なアイテムは人気を博している。「単に二つの名前がついていればいいというのでなく、相手の理念をよく理解し、自分たちのも求めるものと重なれば、新しいものが生まれる」という。

 

一例では、吉村順三の設計による、独創的で美しい建築の八ヶ岳高原音楽堂で使われている「たためる椅子」がある。この音楽堂が30年前に誕生した際に登場した椅子がスペシャルエディションとして、ミナ ペルホネンの生地をまとって新しい表情を見せている。生地には“dop”と“dop -choucho-”が使われ、八ヶ岳の自然になじむ9色がある。その生地はしっかりしたダブルフェイス仕様で、経年変化で少しずつ擦れ、裏面の色が見えてくるというユニークなもの。祖父母が輸入家具店を営んでいたこともあり、椅子本体は長持ちするのに張り地は劣化する、だったらこういう生地がいいのでは、という創意工夫からだ。ここにも価値あるものを長く使って欲しいという皆川の思いがある。

1988年に完成した八ヶ岳高原音楽堂(長野県)の客席椅子として製作された「たためる椅子」。吉村順三、中村好文、丸谷芳正によるデザインのイスにミナ ペルホネンの生地が寄り添って、名作の椅子に新たな魅力が加わった。八ヶ岳高原ロッジでの販売は2019年12月31日に終了。 八ヶ岳高原ロッジ・八ヶ岳高原音楽堂 https://www.yatsugatake.co.jp/ Photography by ooki jingu 1988年に完成した八ヶ岳高原音楽堂(長野県)の客席椅子として製作された「たためる椅子」。吉村順三、中村好文、丸谷芳正によるデザインのイスにミナ ペルホネンの生地が寄り添って、名作の椅子に新たな魅力が加わった。八ヶ岳高原ロッジでの販売は2019年12月31日に終了。 八ヶ岳高原ロッジ・八ヶ岳高原音楽堂 https://www.yatsugatake.co.jp/ Photography by ooki jingu

1988年に完成した八ヶ岳高原音楽堂(長野県)の客席椅子として製作された「たためる椅子」。吉村順三、中村好文、丸谷芳正によるデザインのイスにミナ ペルホネンの生地が寄り添って、名作の椅子に新たな魅力が加わった。八ヶ岳高原ロッジでの販売は2019年12月31日に終了。
八ヶ岳高原ロッジ・八ヶ岳高原音楽堂 https://www.yatsugatake.co.jp/
Photography by ooki jingu

イタリアの陶磁器メーカー、リチャード ジノリとのコラボの折には、皆川のスケッチデザインを、ジノリらしいタッチを活かすために手描き職人チームに描いてもらおうと提案した。デザインチームに職人の仕事を敬って欲しいという皆川の、さりげなく深い意義のある配慮からだった。

2017年から始まった、皆川とリチャード ジノリのコラボレーション。「フロレンティア」(写真右)は、2019年春に発表された。12月8日(日)まで、パスザバトン表参道店内にて、エキシビション「スペランツァ(SPERANZA) 〜希望〜 皆川明」を開催中。皆川とリチャード ジノリが手がけたテーブルウェアが揃う。https://www.pass-the-baton.com/ リチャード ジノリ http://richardginori.co.jp/ 2017年から始まった、皆川とリチャード ジノリのコラボレーション。「フロレンティア」(写真右)は、2019年春に発表された。12月8日(日)まで、パスザバトン表参道店内にて、エキシビション「スペランツァ(SPERANZA) 〜希望〜 皆川明」を開催中。皆川とリチャード ジノリが手がけたテーブルウェアが揃う。https://www.pass-the-baton.com/ リチャード ジノリ http://richardginori.co.jp/

2017年から始まった、皆川とリチャード ジノリのコラボレーション。「フロレンティア」(写真右)は、2019年春に発表された。12月8日(日)まで、パスザバトン表参道店内にて、エキシビション「スペランツァ(SPERANZA) 〜希望〜 皆川明」を開催中。皆川とリチャード ジノリが手がけたテーブルウェアが揃う。https://www.pass-the-baton.com/
リチャード ジノリ http://richardginori.co.jp/

「デザインもアートも言葉も洋服も、外に出る形は異なっても根は同じ。すべて思考の表現です。水蒸気も氷も水もH2O(分子式)であるように、建築、布、服も、元は思考。その思考がどのように具現化されるのか、そのプロセスを考えることは、布も服も建築も変わりません」。それを誰のよろこびのために成すのか。そのことを優しく深く思考して、ミナ ペルホネンはつづいてゆく。

ブランド名のperhonen(ペルホネン)とは、フィンランド語で蝶を意味するという。 ブランド名のperhonen(ペルホネン)とは、フィンランド語で蝶を意味するという。

ブランド名のperhonen(ペルホネン)とは、フィンランド語で蝶を意味するという。

 

 

一生を越えてつづく。皆川明の道のり(後編)へつづく

 

 

(敬称略)

 

皆川明 Akira Minagawa
1967年東京生まれ。1995年に自身のファッションブランド「minä(2003年よりminä perhonen)」を設立。時の経過により色あせることのないデザインを目指し、想像を込めたオリジナルデザインの生地による服作りを進めながら、インテリアファブリックや家具、陶磁器など暮らしに寄り添うデザインへと活動を広げている。また、デンマークKvadrat、スウェーデンKLIPPANなどのテキスタイルブランドへのデザイン提供や、新聞や雑誌の挿画なども手掛ける。
ミナ ペルホネン
https://www.mina-perhonen.jp/

◆「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」展
東京都現代美術館
東京都江東区三好4-1-1
2019年11月16日(土)~2020年2月16日(日)
10:00-18:00(展示室入場は閉館30分前まで)
月曜日休館(2020年1月13日は開館、12月28日-2020年1月1日、1月14日は休館)
一般 1,500 円/ 大学生・専門学校生・65 歳以上 1,000 円/中高生 600 円/小学生以下無料
公式サイト
https://mina-tsuzuku.jp/

Photography by Mutsumi Tabuchi
Text by Misuzu Yamagishi

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