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自分らしく美しく。資生堂の取組み(前編)

2021.10.8

メイクの力で生きる勇気を呼び起こす 資生堂 ライフクオリティー メイクアップ


東京・銀座7丁目。この資生堂創業の地に資生堂 ライフクオリティー ビューティーセンターはある。それは、メイクの力で、誰もが持つ、自分らしい美しさを発見する場所である。

 

資生堂は、化粧品を通して美しさを高め、その時々のトレンドの最先端を走ってきた。また優れたヴィジュアル表現などで文化をも創造してきた企業である。しかし、資生堂の考える美しさとは、それだけではないことが、ここに来ればわかる。

 

資生堂 ライフクオリティー ビューティーセンターとは、先天的もしくは後天的に顔や体に傷やあざ、また抗がん剤などの副作用による外見変化などの悩みを持つ人々へ、メイクの力でカバーすることを広めるという役割を持つ場所なのである。

 



GHQの要請で作られた、資生堂スポッツカバーの誕生

 

資生堂が外見上の悩みを持つ人々に向き合うこととなったきっかけは、戦後にさかのぼる。1956年資生堂スポッツカバーというメイクアップ製品の誕生が契機であったという。そのいきさつをダイバーシティ&インクルージョン室の横山加津子氏が説明してくれた。

 

「資生堂スポッツカバーは戦後、当時のGHQが厚生省に示唆したことがきっかけで開発された製品です。戦禍によってやけどを負い、ケロイド状態の肌に苦しんでいる方々のために、カバーする製品を作ってほしいという要請でした。やけど跡をカバーすること、心理的苦痛を少しでも和らげることはできないか、ということから開発が始まりました」。

 



資生堂スポッツカバー 資生堂スポッツカバー

1956年、ケロイド状のやけど跡に苦しまれている人たちのために作られた資生堂スポッツカバー。



ダイバーシティ&インクルージョン室の横山加津子氏 ダイバーシティ&インクルージョン室の横山加津子氏

資生堂 ダイバーシティ&インクルージョン室の横山加津子氏。ライフクオリティー ビューティーセンターの要。さまざま活動を通じ、もっとライフクオリティー メイクアップを知ってもらいたいと奔走している。

 



当時のアメリカでは、ハリウッドなど映画産業の隆盛から、メイクアップの技術も進んでおり、すでにカバー用のメイクアップ用品があったようだ。日本においては資生堂が先駆けとなり、資生堂スポッツカバーを開発。ケロイド状のやけど跡に悩み、苦しんでいる日本の人々のもとへと届けられた。

 

「1956年に登場した資生堂スポッツカバーは、1995年に後継製品パーフェクトカバーに代わるまで、39年間に渡り販売され続けました。企業として利益を追求することも大切ですが、スポッツカバーを必要としてくださる方がいる限りお届けし続ける。それが私たちの姿勢なのです」と、横山氏は語ってくれた。

 



資生堂 ライフクオリティー ビューティーセンターの誕生
やけどやあざ、白斑、抗がん剤治療の副作用など
メイクの力を必要とする人へ届けるという決意

 

資生堂スポッツカバーの開発後、やけどの治療に携わっていた各地の大学病院などへ、使い方の指導に招かれることが多くなっていく。やけど跡をカバーするメイク法をレクチャーしていると、今度はあざや白斑で悩む患者さんたち、その治療にあたっている医師たちと新たに出会う。やけど跡をカバーするように、あざや白斑にも、メイクでなにかできないだろうか、と相談を受けるようになるのだ。また、近年では抗がん剤治療の副作用により、眉毛やまつ毛の脱毛、色素沈着などについての悩みの相談も増加していく。

 

戦禍によって負ったやけど跡をカバーするファンデーションとして誕生した「資生堂スポッツカバー」だが、時代を経るごとに、今度はあざや白斑という悩みを持つ人々へのケア、そして、がんサバイバーの増加によって、抗がん剤の副作用による外見の変化をメイクの力でケアするというように、求められることが時代によって変化し、広がっていく。

 

このような社会からの要請に応え、外見の悩みをメイクでカバーできるということを広めるには拠点が必要であることを会社へ働きかけた資生堂社員がいた。資生堂は皮膚科学に取り組む企業。そこから得た知見をあらゆるかたちで未来へ繋げたいと訴えた。そして2006年。資生堂誕生の地・銀座に資生堂 ライフクオリティー ビューティーセンターが誕生する。

 

 



カバー力とナチュラルさ
相反する機能を追い求めて高めるメイク力
 

ダイバーシティ&インクルージョン室エンパワーメントサポートグループの澤田保子氏は、資生堂 ライフクオリティー メイクアップの美容技術を担当するメンバーである。その卓越したメイクアップ技術とともに、様々な悩みに対応するために、日々研究を重ねている。

 

やけど跡の皮膚の盛り上がりをいかに自然になじませるか。あざといっても赤、青、茶など、色調が異なる。それをどうカバーしていくか。実際にやけどを負った方の皮膚から型をとったレプリカや、あざを再現した肌シートを使い、繰り返し練習を重ねる。



ダイバーシティ&インクルージョン室の澤田康子氏 ダイバーシティ&インクルージョン室の澤田康子氏

ダイバーシティ&インクルージョン室の澤田保子氏。卓越したメイクアップ技術、患者さんの心に寄り添うことのできる包容力を兼ね備えている。「入社以来、ずっとお客さまのそばで仕事してきたことが誇り。この仕事にやりがいを感じています」と、この仕事の申し子のような人。


戦後、やけど跡をカバーする=隠れればいい、とまだ考えられていた。厚く塗れば確かにその時はカバーできる。しかしカバーしていない肌との差は明らかになり、それではカバーしていることをかえって強調してしまう。時代の経過とともに、カバーすることの意識も変わってきていると澤田氏は指摘する。「隠れればいいというだけでなく、ナチュラルに見せたい、そしてそれを一日中安心して過ごせるように長時間キープしたい、というように、求められるメイクの質が変わってきました」。

 

2017年、資生堂スポッツカバーのDNAを受け継ぐ、パーフェクトカバー ファンデーションMVが登場する。カバー力とロングラスティング、そしてナチュラルさを兼ね備えたファンデーションだ。この開発には澤田氏は深く携わったが、理想の製品を作り上げるため、研究所の研究員と喧々諤々の議論が続いたという。澤田氏は、一日中持続するカバー力とナチュラルさ、普通なら相いれない機能の両立を求めた。それはなによりも、お困りの患者さんの求めるものだった。



資生堂パーフェクトカバー ファンデーションMVは全7色。 資生堂パーフェクトカバー ファンデーションMVは全7色。

資生堂パーフェクトカバー ファンデーションMVは全7色。通常のファンデーションではカバーしにくい肌の青み・赤み・茶色みや、濃いシミ、強いくすみ・くま、凹凸(ニキビ跡・傷跡・やけど跡など)まで、自然にカバーする。各3,850円、パーフェクトカバーパウダーMV(フィッティング)は、フィット感を高めるパウダー。本当にメイクがくずれない。驚きのキープ力を発揮する。1色 パフ付き  3,850円(すべて税込)



「研究所の研究員とともに病院へ出向き、カバーを必要とする患者さんたちの声を聞いてもらうことにしました。実際に患者さんの外見上のお悩みや、それがメイクでカバーできたときのよろこびを知ってもらいたかったのです」。研究所の研究員の協力を得て、完成したパーフェクトカバー ファンデーションMVは、やけど跡、あざ、そして抗がん剤の副作用で色素沈着した肌まで、しっかりと、そしてナチュラルにカバーする理想のファンデーションに仕上がった。

 

澤田氏は言う。「この仕事に必要なのは技術力だけではなく、対応力です。どのようなカバーを望まれているか、どんなことにお困りなのかに耳を傾け、メイクで外見上のお悩みを解消するお手伝いをしたいのです。この活動を通じて、技術力を磨き、もっと多くのカバーを必要としている方々と出会いたい。メイクの力で自分らしく笑顔で過ごせるお手伝いが出来たらと思っています」。

 

 

 



澤田康子 澤田康子

資生堂 パーフェクトカバー ファンデーションMVは、光の特性を応用したファンデーション。たとえば赤いあざの場合、赤い光が特に強く反射することで、赤く見えるという光の理論を応用。光の波長をコントロールし、補色にあたる緑色だけを通過させることにより赤みを見えにくくするのだ。朝メイクすれば、帰宅するまでメイクが薄れる心配も少ない。一日中、気にせず過ごすことができる頼もしいカバー力を発揮する。



資生堂 ライフクオリティー メイクアップについてもっと知りたい、また実際にカウンセリングを受けたい場合はどうしたらいいのだろう。まだコロナの影響が続く現在、ライフクオリティー  メイクアップを必要としている人と、どのようなコミュニケーションを展開しているのか、横山氏に聞いた。

 

「今はコロナ感染症防止の観点から対面でのカウンセリングやレクチャーに制限があります。その分、オンラインからの発信に力を入れています。資生堂 ライフクオリティー メイクアップの公式サイトでは、製品情報から、実際のメイク法まで情報を網羅。また、カウンセリング店舗の検索も可能です。北海道から沖縄まで、カウンセリングができる店舗が全国に455か所あるほか、全国に配置しているビューティーセラピストによる、がん患者さん向けのオンラインセミナーを実施しています」。

 

「がん患者さまのための美容情報」も発信中。「がん患者さんのためのBeauty Book」、男性がんサバイバーのための「男の整容本」のPDF、e-マガジンや、一部動画も掲載し、わかりやすく説明している。

 

 

また、日本のみならず中国、香港、シンガポール、台湾といった国と地域で資生堂 ライフクオリティー メイクアップは展開中だ。中国ではあざや白斑の悩みを持つ人が多く、皮膚科医とともに連携し取り組んでおり、資生堂の活動は注目を集めているという。台湾では台北と高雄にセンターが、その他台湾全土52カ所の専門店でカウンセリングを受けることができる。

 

「定期的に交流をして、お互いの技術力の向上に努め、私たちがつちかってきた技術と精神を伝えています。アジア圏にも、メイクの力でよろこんでくださる方々がたくさんいらっしゃることが励みになっています」と澤田氏は語る。


ビューティーブック英語版 ビューティーブック英語版

自分でもできるように、ハウトゥをまとめた小冊子を作成。こちらは英語版のビューティーブック。


男性用の冊子もある。 男性用の冊子もある。

男性がんサバイバーからの要望に応え「男の整容本」も用意。


美しさとは自分らしさ
メイクは自分を見つける心の旅の良きガイド

 

外見の悩みとは、残酷なものである。やけどやあざ、脱毛など、人とは異なる外見を持った人に出会ったとき。病気や疾患への知識がないことから、凝視しないまでも、そこに目をやってしまう。外見上に悩みを持つ人たちは、不意に向けられるこの強い視線に日々さらされていることを想像してみてほしい。

 

つらいのは、不意に向けられる他者からの遠慮のない視線だけではない。後天性のものであれば、変化した自分の容姿を受け入れるまでの葛藤がある。抗がん剤の副作用による脱毛や強い色素沈着など、治療が終われば元に戻るといくら言われても、闘病によって容貌が変化するつらさが、患者の心を打ちのめしている。

 

そんなとき、メイクが力になる。人間は社会的ないきものだ。たとえどんな傷や疾患を抱えていても、社会に飛び込んで、自分の居場所を見つけたい。無遠慮な視線など跳ね返し、生きていきたいと願っている。外見上の悩みを持つということは、見た目の問題だけではなく、自分を深く理解し、どう生きるかを見つけ出す心の旅なのだ。メイクは、その旅の良きガイドとなる。自分らしさへと導く、ガイドに。

 

メイクで美しくなることは、決してルッキズムに与することではない。自分が心地よいと感じる表情を引き出して、自分で自分が好きになり、自信を持てること…… 暗闇にいる人の心にそっと希望の明かりをともし、生きる勇気と強さを引き出すメイクの力。それは、資生堂 ライフ クオリティー  メイクアップから、広がっていく。

 

資生堂  ライフクオリティー メイクアップの活動は、コロナ禍にあっても活発である。後編は、この夏がんサバイバーへのエンパワメントとして開催されたイベントについて、その軌跡を紹介していく。



Photography by Hyemi Cho(amana)





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