2024パリ五輪のゴルフ競技が8月1日からスタートした。
2020東京五輪ではメダルを逃した松山英樹は、見事屈辱を果たして、パリ五輪で銅メダルを獲得した。
いよいよスタートする女子ゴルフではどのような物語が生まれるだろうか。
そして、スポーツジャーナリストでありゴルフ書籍を多数執筆している本條 強の予測は当たるだろうか。
メジャー大会優勝より、可能性が高まる五輪で金メダル
いよいよパリオリンピックが始まった。ゴルフファンならば、日本選手がパリ五輪で勝てるか?ということに興味が湧いているはずだ。2016年のリオデジャネイロ五輪で112年ぶりにゴルフ競技が復活、今回で復活3回目の五輪ゴルフとなる。前回の東京五輪では男子は松山英樹が銅メダルを賭けたプレーオフに進出、惜しくも敗れてメダルを逃した。一方、女子は稲見萌寧が銀メダルを獲得。オリンピック至上主義の日本スポーツ界を湧かせ、一躍時の人となった。さて、今回のパリ五輪では果たして日本選手のメダル奪取は果たせるのか、予想してみたいと思う。
まずパリ五輪に出場する選手だが、これは世界ランキングを基にしたオリンピックランキングの上位から選出される。しかし、上位の選手といえども各国4名までの制限があるため、出場できないケースもある。また、男子の中にはメジャー大会を重んじていて五輪の出場を辞退することもある。よって、出場した選手にはメジャー大会よりも優勝、つまり金メダルの可能性は高くなるとも言えるのだ。
日本が誇るマスターズ覇者の松山英樹もメジャー大会重視派、夏前には五輪出場を視野に入れていない旨の発言をしていた。しかし、7月4日、日本ゴルフ協会が代表選手を正式発表すると、松山の名前が出ている。ゴルフファンならば嬉しいニュースである。他に男子は中島啓太が五輪代表となった。女子は、6月の全米女子オープンに優勝しこの大会2勝目を挙げた笹生優花と、全米女子プロ2位となり五輪代表の座をつかんだ山下美夢有。男女各2人でメダル獲得に挑むわけだが、ゴルフは舞台となるゴルフコースが勝敗の行方に大きな影響を及ぼす競技。
五輪の舞台となるのは、戦略性に富んだ欧州屈指の名コース「ル・ゴルフ・ナショナル」
パリ五輪ゴルフの舞台はベルサイユ宮殿近郊にあるル・ゴルフ・ナショナル。広大で平坦な地形ながらフェアウェイはうねる。スコットランドの名門リンクスコースをフランス絵画のような美しさにしたコースの趣だ。距離もたっぷりとあり、戦略性に富んだ欧州屈指の名コースと呼ばれている。小高い丘が幾つも作られ、ギャラリーが観戦しやすいスタジアムコースの様相を呈している。最高級のトーナメントを開催することを目的としたコースであり、毎年欧州最古のオープン大会のフランスオープンが開催されている。2018年の米国対欧州のライダーカップの舞台ともなっている。気になる勝敗の行方は池が巧みに絡んだ最終4ホールをいかに上手にプレーするかにかかっていると言えよう。


パリ五輪の舞台となる「ル・ゴルフ・ナショナル」(フランス)。
写真:AP/アフロ
男子金メダル争いは世界ランキング1位のスコッティ・シェフラーか、2位のロリー・マキロイか
こうした舞台で一体誰がメダルを獲るかであるが、男子での私の大本命はずばりアイルランドのロリー・マキロイである。世界ランキングとオリンピックランキングで2位の実力者。前東京大会では銅メダル決定戦で敗れ「3位になるのにこれほどまでの精力を使ったことはない」と悔しがった。母国愛に富んだ男は今回金メダル奪取で雪辱を果たすはずだと見た。
もちろん、多くのゴルフ評論家は世界と五輪ランキング1位であり、今年のマスターズを制したアメリカのスコッティ・シェフラーを推すであろう。また同じくアメリカのザンダー・シャウフェレは五輪直前の全英オープンを制しただけに彼を優勝筆頭にあげる人も多いだろう。しかし五輪の舞台がフランスという欧州である以上、アメリカ勢よりも欧州人気NO1のマキロイに大声援が贈られるのは日を見るより明らかだ。
開催地がフランスであることで好転する、欧州勢の想定外の奮闘
次に銀メダル。これはマチュー・パボンを私は推したい。五輪ランキングは12位だが、何と言ってもフランスの選手なのだ。欧州ツアーから今年、世界一のPGAツアーに転向、すぐに初優勝を成し遂げた。しかも6月の全米オープンでは優勝も視野に入る5位と大健闘。熱い血がたぎる南仏のトゥルーズ生まれ。南仏からも大応援団が来ることだろう。オリンピックは他の大会とは異なり、国の名誉を背負っての闘い。金メダル争いを行う髭面の二枚目のバボンが三色旗を背中に纏う姿が見られるに違いないと思っている。
私が思う銅メダル候補はスペインのジョン・ラーム。筋骨隆々の暴れん坊、ニック・ネームは「ランボー」である。マタドールになっても牛の一頭や二頭は難なくやっつけるであろう怪力男。これまで全米オープンとマスターズを制したメジャー男でもある。大舞台になればなるほど強さを発揮する。欧州の地の利を生かして金メダルだってあり得るかもしれない。
欧州の地の利で言えば、五輪ランキング4位のスウェーデン人、ルードウィッヒ・アベルグや6位のノルウェー人、ビクトル・オブラン、さらに英国のトミー・フリードウッドやマシュー・フィッツパトリックも五輪ランクベスト10。愛国心が高いほど、五輪でのメダルはあり得ると予測する。
松山英樹のメダル奪還のカギはパットにある
さて、日本選手である。松山英樹の五輪ランキングは9位。十分にメダルが狙える実力はあるが、五輪直前の全英オープンは66位。とは言え、ショットは悪くない。相変わらず、アイアンの切れ味は抜群だ。僅かに外れるパットが入ればメダル奪取も大いにあると期待を抱かせる。本人も「いいものもあったので次につなげたい」と語っている。前回の東京五輪では惜しくも銅メダルを逃しただけに、得意の粘り腰で雪辱を果たして欲しい。中島啓太は五輪ランキング31位だが、伸び盛りの24歳。今年は欧州ツアーで初優勝を果たしているし、五輪ゴルフは予選落がない。積極果敢な攻めに徹して一泡吹かせてもらいたい。
失速気味の世界&五輪ランキング1位ネリー・コルダはどこまで調子を取り戻せるか
女子のメダル予想をしてみよう。金メダルは世界&五輪ランキング1位のアメリカ、ネリー・コルダが固そうではある。今年は出場5大会連続5連勝という快挙も成し遂げている。178cmの長身から繰り出すロングショットが魅力。美人でスタイル抜群、ヴァカンスでのビキニ姿も話題を掠う25歳のスター選手だ。ただし、6月からの全米女子オープン、全米女子プロで予選落ち。調子は落ち気味のよう。アメリカ勢では世界&五輪ランク2位リリア・ヴも優勝候補。今年は腰痛で全米女子プロを棄権したが、復帰しての全米女子プロは2位。昨年の全英女子オープン覇者でもあり、実力は十分だ。
銀メダル候補として私はフランスのセリーヌ・ビュティエを推したい。日焼けした褐色の美人で、世界ランク6位の実力者。昨年はメジャー大会の一つ、アムンディー・エヴィアンで優勝を果たしている。日本の笹生優花とも仲が良く、ペアを組んで大会タイ記録を記録。
彼女のファンになったゴルフ好きも多くいるだろう。男子のバボン同様、地元フランス人の大声援を受けて頑張るに違いない。


日本の賞金女王2年連続制覇の山下美夢有。
写真:AP/アフロ
難コースをどう制するか? メダルを狙える位置にある、笹生優花と山下美夢有
銅メダル候補だが、これは日本人2人の選手を挙げたい。今や日本女子は世界のトップクラスの実力を備えている。五輪ランク10位の笹生優花は銅メダルどころでなく、金メダルも大いに狙える逸材。6月の全米女子オープンでの堂々たる優勝は記憶に新しい。23歳と若く、波に乗ったら止まらない爆発力も備える。長いショットも短いショットも精度抜群、アプローチとパットにも天才的な勘がある。池の絡む屈指の難コース、ル・ゴルフ・ナショナルでも好スコアを叩き出すだろう。ぜひとも日の丸をセンターポールに掲げて欲しい。
6月の全米女子プロで2位となり、大逆転でパリ五輪切符を手に入れた山下美夢有、22歳もまた世界を畏れぬガッツを見せればメダル争いをするのは必須だ。山下は日本の賞金女王2年連続制覇。これまで国内で11勝を挙げ、今年こそ国内での優勝はないが、2位が5回でほとんどトップ10、予選落ちは一度もないのだ。7月の2試合ではなんと99ホール連続ボギーなしのまさにギネスブック記録。そのままの好調さで持ってオリンピックに臨むのだから、大金星となる金メダルも決して夢ではない。名前だって「美夢有」、「美しい夢がある」のだから。
ちなみにパリ五輪ゴルフは、男子が8月1日から4日、女子は8月7日から10日に行われる。ゴルフファンでなくとも、メダル奪取を願って日本の選手を応援しよう。
本條 強
Tsuyoshi Honjo
1956年生まれ。スポーツライター。武蔵丘短大客員教授。関東ゴルフ連盟広報委員。『書斎のゴルフ』元編集長。著書多数。近著に『ゴルフの真髄』(日経BP)、『マスターズ』『ゴルフ白熱教室』(ちくま新書)など。
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