高木由利子が切り撮る軽井沢の自邸の<春夏>

Style

Living in Japanese Senses

自然との融合を求めた住処の四季(前編)

2019.10.4

写真家・高木由利子が切り撮る軽井沢の自邸の<春夏>。黒い枯山水と墨黒の世界

写真家・高木由利子は軽井沢に家を建て、2年前に移り住んだ。東京で生まれ育ち、その後ヨーロッパへ渡り17年。帰国後は東京に拠点を置きながら、世界の辺境を旅して撮影活動を続けた高木が選んだのは、意外にも軽井沢。一目見ただけで気に入ったというその土地に、スタジオ、オフィス、住居の3つの機能を備えた家を建築。緩やかに光が差し込む、モノトーンの自邸は森の中に静かに佇む。写真家・高木由利子が自身の記録のために撮影した、自邸周りの景色と共に、自邸への思いを紹介する。

自然を模倣する、黒い枯山水

軽井沢に土地を購入した友人を訪ねたときに、この土地に出合った。ここには樹齢150年といわれる山桜をはじめ、見事な山もみじなどの樹木が自生しており、この風景と地力に一瞬で心惹かれた。

大きく張り巡らされた枝木が、部屋に差し込む光に影を落とす。ゲストルームの窓から庭を眺めるのは、愛猫の天子(てんこ)さん。 大きく張り巡らされた枝木が、部屋に差し込む光に影を落とす。ゲストルームの窓から庭を眺めるのは、愛猫の天子(てんこ)さん。

大きく張り巡らされた枝木が、部屋に差し込む光に影を落とす。ゲストルームの窓から庭を眺めるのは、愛猫の天子(てんこ)さん。

庭にはこの土地の岩を置き、黒い枯山水をつくった。日本の庭への思いは自然の模倣からはじまった。 庭にはこの土地の岩を置き、黒い枯山水をつくった。日本の庭への思いは自然の模倣からはじまった。

庭にはこの土地の岩を置き、黒い枯山水をつくった。日本の庭への思いは自然の模倣からはじまった。


軽井沢への移住を決めてから、日常は一気に慌ただしくなった。まず、教習所へ通って車の免許を取得、そして建築家への依頼。建築家の選択も土地に出会った時と同じように、ちょうど一年前、とある出会いがあった仲建築設計スタジオの仲さんに直感で依頼した。別荘地内にあるが故に、ただ自然を満喫するような家ではなく、足を踏み入れたとたんに、ある種の緊張感が感じられる空間が欲しい事、墨黒のスタジオが夢である事、自然のとの調和を大切にする事、その3点の要望を彼にお伝えした。その結果、非日常的で、コンパクトながらも多機能で、樹々をなるべく切らずに三方向に静かに伸びる不思議な家を設計してくださった。さらに、光の陰影や風の音を感じられる、日本的な情緒が漂う心地よい空間となった。

 

私が考える日本的な家とは、数寄屋造りなどの日本建築を指すものではなく、外との一体感やつながりを意識させながら、緩やかな光と風が通る家。この家は特に日本家屋を意識したわけではないが、日本家屋の美学が息づいている。きっと居心地が良い空間を追い求めた結果、日本人の奥深くに宿る精神に導かれたのかもしれないと思う。

ゲストルームでは寝転んだとき、まるで自然の中に身を委ねているように錯覚する。 ゲストルームでは寝転んだとき、まるで自然の中に身を委ねているように錯覚する。

ゲストルームには低い位置に庭の景色を眺めることができる窓がある。寝転べば、まるで自然の中に身を委ねているように錯覚する。

庭には大きな岩を3つ入れた。そのとき、庭を動き回るトラクターが土に車輪の跡を残して走るのを見た。黒い土に描かれたタイヤ跡の残存がなぜか格好よくて、そこから閃いて庭に黒い枯山水をつくることにした。しかし、ここは浅間山噴火の影響を受けた土壌ということもあり、黒土で小石が多い。そのため焼砂を大量に運び入れて、黒い枯山水につくり上げた。枯山水は土を耕して、そして足跡を残さないように慎重に線を引いていく……まるで修行のような作業。春になると、黒い枯山水の上に山桜の花びらが降ってきて、枯山水の溝を花びらが埋め尽くす。桜色の線描、これがとにかく見事だ。

枯山水の溝に桜の花びらが落ち、春の庭は桜色になる。 枯山水の溝に桜の花びらが落ち、春の庭は桜色になる。

枯山水の溝に桜の花びらが落ち、春の庭は桜色になる。


墨黒の濃淡が抽象的な色をつくる

撮影スタジオの壁は、普通はほぼ白と決まっている。なぜ黒はないのか?とずっと思っていた。背景となる色によって人やものの表情は変わって見える。白ではとらえられない表情や感情が、黒からは浮かび上がることがある。その黒の力が好きだ。だから自宅のスタジオの壁を黒色に塗った。黒と言っても真っ黒ではなく、墨黒(すみくろ)。壁も床も結果的に少し斑(まだら)になってしまったことで、墨黒に濃淡が生まれ、光の当たり方によって質感もよく見えるようになった。この抽象的な墨黒が、静寂で心地よい空間を創り出している。

壁に光が差し込み、墨黒の壁に陰影が生まれる。 壁に光が差し込み、墨黒の壁に陰影が生まれる。

壁に光が差し込み、墨黒の壁に陰影が生まれる。

墨黒の壁の前に佇む天子さん。 墨黒の壁の前に佇む天子さん。

墨黒の壁の前に佇む天子さん。

(敬称略)

 

 

高木由利子 Yuriko Takagi
写真家
1951年東京生まれ。武蔵野美術大学にてグラフィックデサインを学んだ後、渡英。Trent Polytechnicでファッションデザインを学び、フリーランスデザイナーとしてヨーロッパで活動後、写真家に転身。現在は日本を拠点に、アジア、アフリカ、南米、中近東に撮影旅行を続けながら、積極的に活動している。独自の視点からファッションや人体を通して「人の存在」を追い求める作品は、繊細でありながらも、その場の独特な空気感とともに深く潜む生命をも曝す圧倒的な強度がある。近年は自然現象の不可思議を捉える「chaoscosmos」というプロジェクトも続行中。日本やヨーロッパで展覧会を開催。主な著作に『Nus Intime』(用美社)、『Confused Gravitation』(美術出版社)、『IN AND OUT OF MODE』(Gap Japan)、『Skin YURIKO TAKAGI × KOZUE HIBINO』(扶桑社)、『sei』(Xavier Barral)がある。
https://www.yurikotakagi.com

 

→自然との融合を求めた住処の四季(後編)へつづく。

Photography by Yuriko Takagi

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