日本文化発信機構(Japan Culture Creation Organization/JCCO)が主催する「PREMIUM JAPAN AWARD 2026(プレミアムジャパン・アワード2026)」に、株式会社ひらまつがスポンサーとして参加することになった。代表取締役社長CEOの三須和泰氏に話を聞いた。
新たなパーパス「美しい味を、未来へ。」
Q 初めに、スポンサー参加を決められた理由を伺えますか。
A 昨年、中期経営計画2030を策定いたしましたが、その計画を立てるに当たって、まずは企業のパーパスを定めることにしました。
今までひらまつには企業のフィロソフィーはあったのですが、企業パーパスは策定されていませんでした。議論を重ね最終的にできあがったアウトプットが、「美しい味を、未来へ。」というものです。
「美しい味を、未来へ。」とは単に美味しい料理を作っていくことだけではありません。日本の食文化そのものを繋いでいくことです。その一端を担うのが料理人やサービス人であり、ひらまつの場合、そのどちらも約400人ずつおります。その料理人とサービス人が紡ぎ出す日本の食文化を将来に繋げていくことを、企業としてのパーパスとしました。
日本の人口が減っていく中で、必然的に飲食業に携わる人口も減っていきます。それに加えて飲食業には、労働時間や報酬など、解決するべき課題があります。それに対して、企業として人財育成や人事評価の基盤を整え、飲食業界へ携わる人財を増やしていくことが、ひらまつの役割であると考えています。
日本の食文化は日本の文化の中でも、非常に重要な位置づけにあります。プレミアムジャパンは日本文化を発信していくメディアです。世界へ積極的に発信しており、その影響は還流されてまた日本に戻って来ます。日本の美意識や技術、文化的価値を次世代や世界へつなぎ、日本文化の更なる発展に貢献するという本アワードの理念が、ひらまつの目指す方向性にも通じることが、協賛を決めた理由です。
食を通じて日本の文化や美意識を未来に
Q では、御社について伺います。ひらまつはレストランから始めて、ウエディングそしてホテルへと事業を拡大してきました。ひらまつをどのような会社だと認識されていますか。
A 当社は高級レストランや高級ホテルを運営している会社として知られていますが、私どもとしましては、文化や美しさや体験価値を提供していく会社だと思っています。
「美しい味を、未来へ。」というパーパスに込めた想いは、単に飲食業という枠に収まるのではなくて、食を通じて日本の文化や美意識を未来につなげていく会社であるということです。
ひらまつのホテルはオーベルジュスタイルで、レストランの延長線上にあるものと考えています。全国各地に素晴らしい食材があり、素晴らしい生産者がいるとしたら、その魅力や想いを反映させた料理を提供したいと思うのは自然なことです。
しかし、そうした生産地に近い場所でレストランを開こうとすると、滞在できる施設がなければなりません。そこで、「泊まって食事もできるオーベルジュ」という発想になるわけです。これまでもひらまつは地域との共生や生産者との連携を大切にしてきましたので 、チャンスがあればそういう場所にホテルを作るのは必然的な流れでもありました。
18年ぶりに出店した「HRMT STAGE」
Q 富裕層の消費行動に関して、この10年ぐらいで変わってきたなと感じる部分はありますか。
A 富裕層そのものの変化というよりは、富裕層の中の世代交代は感じています。かつて50代であった方は、60代になっているわけですから。そして同じ富裕層でも、年代によって違いが出てきています。
年配の富裕層はフランス料理ならばオーセンティックなものを好まれる傾向にありますし、若い富裕層はもっとライトでモダンなフランス料理を好まれる。それは本国のフランスですらそういう傾向にあります。日本料理やアジアンなテイストを取り入れたようなフランス料理に国際的な注目と評価が寄せられています。日本の若い富裕層も、そうした世界の料理の潮流に関心が高いのではないでしょうか。
もちろん、年配の方で新しい料理に興味のある方もいらっしゃるし、若い方でたまにはオーセンティックな料理を食べたい方もいらっしゃるので、完全に二分化しているわけではありません。
2026年2月に恵比寿にオープンした「HRMT STAGE」。
Q この度、恵比寿に出店された「HRMT STAGE」はどのようなレストランですか。
A 2026年2月に恵比寿に新しく開業した「HRMT STAGE」は、新しいひらまつの料理はどうあるべきか、新しいひらまつのレストランはどうあるべきか、それを考え作り上げた、一つの挑戦でした。
実は2028年に青山に新店舗を出店予定です。「HRMT STAGE」はその前哨戦。ひらまつの新しい料理とサービスを作り出していくための場として「HRMT STAGE」 を位置付けています。
Q 新店舗の特徴を教えてください。
A 新しい料理とサービスの在り方を考えていくことを狙い、まず価格を抑えました。
内装は上質で洗練されたつくりですが、料金的にはあくまでもカジュアルラインのお店です。世の中のレストランはコース料理が主流ですが、もう少し自由に「あれも食べたい、これも食べたい」というお客様も多いと思うのです。よって、当店ではコース料理に加えアラカルトを用意しました。これは、当店舗の大きな特徴です。
加えて、提供スタイルも、店内奥のメインキッチンで料理を始めて、そこからつながるカウンターに料理人が出てきてお客様の目の前で最終仕上げをする。あるいは、お客様と会話をしながらサーブするようなスタイルにしました。これはひらまつとしては新しい試みとなります。
HRMTに込めた4つの意味
Q HRMTはブランド展開の一つですか。
A HRMTの文字は「ひらまつ」と結びつくと思いますが、そこにはこのお店ならではのコンセプトも込めています。
「HRMT STAGE」のメニューは、全国のひらまつのレストランやホテルで活躍する、フランス料理、イタリア料理、日本料理、イノベーティブの各ジャンルを代表する4名のシェフによる料理監修のもと創り上げられています。
HRMTのHは料理やスタッフを調和させるハーモニー。Rは今までのひらまつを脱皮して再構築していくリストラクチャー。Mはひらまつの元々のフィロソフィーでもある最高の時間をお客様に提供するという意味でのモーメント。最後のTはひらまつが築いてきた伝統も大切にしていくという意味でのトラディション。そういうHRMTでもあるのです。
HRMT にSTAGEを付けたのは、HRMTの今後の展開を考えた時に、この店舗を若い料理人やサービス人の登竜門的なステージにしたかったからです。3年ぐらいを目処にここで働いて羽ばたいていくわけです。
ひらまつとしては初のカウンター席中心のレストラン「HRMT STAGE」。
レストラン業界でひらまつにしかない価値
Q ひらまつにしかない価値があるとしたら何でしょうか。
A 現在のひらまつの中で高い価値のひとつであると思うのは、4名のフランス人シェフとの繋がりです。
「レストラン ポール・ボキューズ」のジル・レナルト氏、「オーベルジュ・ド・リル」のマルク・エーベルラン氏、「ジャルダン・デ・サンス」のジャック&ローラン・プルセル兄弟、「アルバンヌ」のフィリップ・ミル氏。いずれもフランスのレジェンドシェフたちです。
例えば日本で活躍している日本人シェフの多くが、渡仏して苦労して門戸をたたきフランスの有名レストランに飛び込んで修業してきた歴史があります。皿洗いから始めて苦労の末に名を上げた方もいる陰で、日の目を見なかった人たちもたくさんいるはずです。
左上から時計回り「レストラン ポール・ボキューズ」のジル・レナルト氏、「オーベルジュ・ド・リル」のマルク・エーベルラン氏、「アルバンヌ」のフィリップ・ミル氏、「ジャルダン・デ・サンス」のジャック&ローラン・プルセル兄弟。
ひらまつの料理人あるいはサービス人がフランスに修業に行きたい場合には、彼らのレストランへ研修という形で学びに行くことが出来る環境が整っているわけです。ひらまつにいながら、フランス本店の料理哲学や技術を、現地で直接学ぶことが出来る。それは大変なアドバンテージではないでしょうか。
もちろんこれらフランスにあるレストランだけではなくて、日本国内でも、ひらまつのフランス料理のシェフ、イタリア料理のシェフとの交流も可能です。
このように多岐にわたり学び、経験できる環境だと思います。また、「料理人を目指したんだけど、やっぱり僕はサービス人をやりたい」といった転向も認められているため、 幅の広いキャリア形成が可能です
また、レストランの料理人はホテルのレストランと相互に行き来ができますし、サービス人もレストランからホテルの相互の行き来があります。従って、人事・組織に関しては、レストランとホテルを一気通貫で見ています。
「HRMT STAGE」の料理長、志水厚太氏(右から2番目)とスタッフたち。
扉を開けると目の前に現れるウォータードリッパー。ここでは、はじまりの一品として提供される、鮪節やハーブなどを昆布出汁に通して抽出する「オリエンタル出汁」が作られている。
人事の柔軟性を追い求めて
Q 御社の人財育成に関しても教えてください。
A 人財育成は、中期経営計画2030の中でも柱の一つです。
一般的な人事制度は、係長、課長、部長、そして役員、そして最終的には社長へと昇進していくことを前提に設計されていることが多いと思います。ところが我が社の場合、まったく異なる人事制度を取り入れています。
例えば、料理人が役員を目指すかと言えばそうではない。ホテルの総料理長みたいになりたいかと言えば必ずしもそうでもない。ずっと料理をしていたいという人が多くを占めると思います。その中で、人に教えるのが好きだったり、新しい創造やメニューの開発が好きだったり、伝統的な料理や優れたレシピを継承していくことが好きだったりと、人それぞれです。何が好きで何をやりたいのかは、人事が細かく見ています。
サービス人に関しても、サービスそのものが好きだとか、ソムリエになりたいとか、店のマネジメントや経営を担いたいとか、色々な人がいます。あるいは先ほど触れたように、料理人からサービス人とかソムリエに転向したいとか、言わば人の志向は千差万別です。
ひらまつでは、そこに人事の柔軟性を持たせようと考えています。それを、自らキャリアを選択できる「複線化されたキャリアパス」と呼んでいます。キャリアを単線ではなく複線化させた上で、評価基準もきちんと設定して個人の報酬を高めていくわけです。
すると、社内外の研修自体も変わって来ます。それぞれのキャリアを目指すためにどのような教育制度が必要か、研修制度を見直している最中です。
いま活発に議論が行われているところでして、現場のスタッフからも意見を出してもらっています。それによってモチベーションも高まります。
私はレストランもホテルも従業員のモチベーションがとても大切だと考えています。平たく言えば、いつも笑顔で前向きであるということ。従業員のモチベーションの高さが、レストランやホテルの評価の高さに直結しているのですね。だから、人財育成戦略は、ひらまつとしては極めて重要なのです。
ひらまつにとって、コロナ禍によるパンデミックの影響は甚大でした。それが過ぎ去って、2025年ぐらいからようやく新しい事業や人財に投資できるようになりました。
会社としては今がいちばん新しい方向に向かっていく時期で、議論のエネルギーも集中していて、やり甲斐がありますね。
M&Aの第1弾は渋谷の「タロス」
Q 今現在、会社としての課題は何ですか。
A ブランディングです。さきほどお話ししたHRMT、既存の国内オリジナルブランド、そして4人のフランス人シェフによる海外ブランド、それぞれの役割や価値を明確化し、ブランド全体としてこの先どう展開していくのかが重要であり、当社の課題だと考えています。
そんな中、東京で18年ぶりの新店舗、その店舗を新たなるブランド「HRMT」としたことは一つの大きな決断でした。それによって当社独自のブランドの在り方を明確に示すことができ、ブランド戦略が大きく前進したように思います。
それとは別に、HRMIという子会社を設立しました。それは「ホテル・レストラン・マネジメント・インベストメント」という意味ですが、M&Aを展開していく上で受け皿となる会社です。
HRMI は2026年3月に設立した会社ですが、その第1号案件となるM&Aが渋谷にある「タロス」というサルデーニャ料理の店です。渋谷駅にも近くて、日常使いのカジュアルな店なので、従来のひらまつのレストランやホテルとはまったく別のものです。
これは何を意図して傘下に収めたかと言いますと、ひらまつの事業を拡大していく上では、高価格帯の展開だけではなくて、カジュアルな業態を通じて、若い世代を顧客に迎えていく必要性を感じていたからです。
シチリア料理の店は東京にいくつかあるけれども、サルデーニャ料理の店はあまり聞きません。イタリアが統一される前、サルデーニャ島はとても力のある王国で、独自の文化を形成した地域です。そして何よりも料理もワインも美味しい島です。
「タロス」の日本人オーナーはサルデーニャ料理をもっと広めていきたいという思いで、18年にわたり店舗経営を行ってきました。その想いの達成に、ひらまつがお役に立てればという合併なんですね。とは言え、「タロス」はすでに素晴らしい料理を提供しておりますので、ひらまつが料理に関して意見を出すということはしておりません。
この新設したHRMIによって、事業領域をどんどん広げて行こうと考えています。
10年後の未来予想図
Q では最後に、10年後にひらまつはどういう会社になっていたいですか。
A ひらまつはあくまでも、レストランを主軸に据えた会社でいたい、そこは不変です。冒頭でサラッと「日本の食文化」と言いましたが、和食だけがそれに該当するとは思っていません。むしろ今の日本の食文化には、和食だけにとどまらず、フランス料理もイタリア料理をも内包されているのですね。ひらまつのフランス料理もイタリア料理も、和の要素を取り入れることもあります。
食文化を継承するのは料理人だけではなくサービス人も含まれます。そうした食文化の担い手として、優秀な人財をより多く育成する基盤を整えていきたいと思っています。
さらに未来予想図としては、ファームや研修施設の設立も思い描いています。新しい料理を開発するラボがそこにあってもいい。
もちろん、研修施設もラボもそれだけでは利益を生みませんから、優先順位としては真っ先にくるものではありませんが、いつかは実現させていきたいことですね。
三須和泰 Kazuyasu Misu
1957年生まれ。静岡県伊豆市出身。一橋大学では体育会ホッケー部主将を務めた。三菱商事(株)に入社後、生活産業・食品分野で要職を歴任。日本ハム(株)、コカ・コーラセントラルジャパン(株)、三菱食品(株)等の社外取締役などを経て、2016年にカンロ(株) 代表取締役社長に就任。 2023年6月から、ひらまつ取締役、2024年6月には代表取締役社長CEOに就任。また公益社団法人 日本ホッケー協会の代表理事でもある。
Photos by Natsuko Okada
Premium Japan Members へのご招待
最新情報をニュースレターでお知らせするほか、エクスクルーシブなイベントのご案内や、特別なプレゼント企画も予定しています。
JCCO
PREMIUM JAPAN AWARD
日本文化発信機構 JCCOが目指すもの
PREMIUM JAPAN AWARD










