2020年9月から新国立劇場舞踊部門芸術監督に就任する、吉田都。

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Portraits

吉田都が見つめる新たなる地平線(後編)

2019.11.1

新国立劇場舞踊部門の芸術監督として、
吉田都の新たな人生の幕が上がる

今までの経験と人脈を生かし、
日本のバレエ界へ新たな風を

2020年秋、吉田都のバレエ人生に新たな幕が上がる。新国立劇場舞踊部門の芸術監督に就任し、この劇場を本拠地とする新国立劇場バレエ団を率いる重責を担うのだ。1997年、劇場オープンと同時に誕生した新国立劇場バレエ団は、日本で唯一の国立バレエ団として、これまで着実な進化を遂げてきた。吉田が今年、ダンサー引退を決意したのも、この新たな使命に集中するためだった。

 

バレエ団の芸術監督の仕事は、多岐にわたる。ダンサーを育て、魅力的なレパートリーやプログラムを選択してバレエ団を高い水準に保つこと。それに加えて、バレエ団の顔として社会と繋がり、バレエを取り巻く環境を整え、バレエの素晴らしさをより多くの人々とシェアすること。ダンサーから芸術監督へ。同じバレエに携わる仕事でも、これまでとは全く異なる立場で向き合うことになるだろう。だが、ヴィジョンを語る吉田の瞳は、生き生きと輝いている。

英国ロイヤル・バレエ団時代の名パートナーであった、イレク・ムハメドフとの練習風景。アシュトン・スタジオにて。『吉田都 永遠のプリンシパル』(河出書房新社)より。 Photography by 🄫Yuko Miyazawa 英国ロイヤル・バレエ団時代の名パートナーであった、イレク・ムハメドフとの練習風景。アシュトン・スタジオにて。『吉田都 永遠のプリンシパル』(河出書房新社)より。 Photography by 🄫Yuko Miyazawa

英国ロイヤル・バレエ団時代の名パートナーであった、イレク・ムハメドフとの練習風景。アシュトン・スタジオにて。『吉田都 永遠のプリンシパル』(河出書房新社)より。
Photography by ©Yuko Miyazawa

「レパートリーに関しては、新国立劇場バレエ団の素晴らしいレパートリーを守りつつ、少しずつ新しいものも取り入れていきたいですね」。具体的には、同団の宝である古典の全幕(《白鳥の湖》《眠れる森の美女》《シンデレラ》等の1つの物語を複数幕で踊る作品)に加えて、新作の全幕バレエ、そしてコンテンポラリー作品。日本では古典の全幕上演が定番だが、実は現在、ロイヤル・バレエ団を含む欧米のバレエ団では、コンテンポラリーの新作と、20世紀に生まれた短編を組み合わせた形式の公演も非常に多い。「現在のイギリスでは、ウェイン・マクレガー、リアム・スカーレット、クリストファー・ウィールドンも大活躍ですね。新作を作ってもらえたらいいですね」。


『リーズの結婚』リハーサル後の様子。『吉田都 永遠のプリンシパル』(河出書房新社)より。 Photography by 🄫Yuko Miyazawa 『リーズの結婚』リハーサル後の様子。『吉田都 永遠のプリンシパル』(河出書房新社)より。 Photography by 🄫Yuko Miyazawa

『リーズの結婚』リハーサル後の様子。『吉田都 永遠のプリンシパル』(河出書房新社)より。
Photography by ©Yuko Miyazawa

コンテンポラリー作品では、振付家は、バレエ以外のダンスや現代アート、情報科学、社会問題等の多様な観点も取り入れてバレエを再考し、伝統的なバレエの技術を用いつつ独自の方法論で振り付ける。ムーヴメントと音の関係をめぐる作品、身体と映像や美術の視覚性を追求する作品、社会的・思想的な広がりを持つ作品など、作品や振付家によってスタイルは多彩なため、慣れていないと難解かもしれない。だが先入観なしに向き合えば、驚きや発見があり、クリエイティヴィティが刺激される。欧米のバレエ団は、コンテンポラリー作品の導入によって、既存の観客にバレエの新たな魅力を伝えると同時に、これまでバレエに関心のなかった観客層の開拓にも成功している。

 

さらに、新作に取り組み、新たな視点からバレエに向き合う経験は、ダンサーの成長にも大きな意味を持つと吉田は考えている。自らもトップダンサーとして、さまざまなプレッシャーを背負い踊ってきた吉田は、ダンサーが日々抱えている不安も喜びも熟知している。だからこそ、ダンサーたちへの愛情は深い。「バレエは、人間が作り上げる究極の美だと思うのです。ダンサーはトゥシューズを履いて踊ります。難しい動きだからこそ、小さい頃から体を変えていき、稽古を重ねる。本当に長い時間がかかっているのです。でも、それが舞台で花開いたときの美しさといったら…。」

今までの自身の経験を後輩たちに伝えていきたいという思いを抱いていると言う、吉田都。そしてバレエは健康管理のためにも踊り続けたいと語った。 今までの自身の経験を後輩たちに伝えていきたいという思いを抱いていると言う、吉田都。そしてバレエは健康管理のためにも踊り続けたいと語った。

今までの自身の経験を後輩たちに伝えていきたいという思いを抱いていると言う、吉田都。そしてバレエは健康管理のためにも踊り続けたいと語った。


そのうえバレエは、音楽、衣装、美術なども加わる総合芸術だ。最高の舞台を作り上げるために、多くの人々が長い時間を費やし形にした身体と思考の結晶でありながら、ほんの数時間しか世界に存在しない奇跡の美。どうして感動せずにいられるだろう?

 

だがどんなに素晴らしい舞台も、観客なくては存在できない。だからぜひ、劇場でバレエを観て欲しいと吉田は言う。「はじめてなら、古典の全幕ものを見ていただきたいですね。そこでダンサーを知っていただくと、「このダンサーが別の役や別の作品、それこそコンテンポラリーも、どう踊るのだろう?」と、さらに興味を持っていただけると思います。」

 

「バレエを観るなら新国立劇場」を定着させていきたい。バレエ界を越える人気のダンサーも育ててみたい。未来の観客を育てるエデュケーション・プログラムも実施していきたい…。吉田の仕事は、新国立劇場バレエ団を、そして日本のバレエ界を、新たな地平へ導いていくことだろう。

(敬称略)

 

 

カーディガン¥80,000 スカート¥129,000/マックスマーラ(マックスマーラ ジャパン) 靴¥89,000/ロジェ ヴィヴィエ(ロジェ・ヴィヴィエ・ジャパン)リング¥278,000/M/G TASAKI(TASAKI)

 

 

→吉田都が見つめる新たなる地平線(前編)はこちら

 


『吉田都 永遠のプリンシパル』(河出書房新社) 『吉田都 永遠のプリンシパル』(河出書房新社)

『吉田都 永遠のプリンシパル』(河出書房新社)
バレエ・ダンサーの引退を決意した吉田 都さんのメッセージや愛するレパートリーに込めた思い、そして35年間の秘蔵フォトが掲載されたメモリアルブック。
www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309290423

吉田 都 Miyako Yoshida
東京都生まれ。9歳からバレエをはじめ、1983年ローザンヌ国際バレエコンクールでローザンヌ賞を受賞し、英国ロイヤル・バレエスクールに留学。1984年サドラーズウェルズ・ロイヤル・バレエ団(現バーミンガム・ロイヤル・バレエ団)に入団し、4年後にプリンシパルに昇格。1995年、英国ロイヤル・バレエ団にプリンシパルとして移籍。2010年に退団するまで、数多くの舞台で主役を務める。紫綬褒章、大英帝国勲章(OBE)など受賞歴多数。2017年には文化功労者に選出された。2019年8月現役を引退。10月にはバレエ文化の世界的功績と引退までに多くのファンを魅了した事に対して菊池寛賞を受賞。2020年の新国立劇場・舞踊部門芸術監督に就任する。

Text by Sae Okami
Photography by Chisato Kurotaki
Styling Mana Takizawa
Hair &Make Maiko Suzuki 
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