花人・坂村岳志のいける生け花

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細川亜衣の五感に響く作り手たち

2019.5.14

4. 花・器・空間で「本当の空間」をつくり出す。花人 坂村岳志の世界観

花人・坂村岳志は、自ら野山に入って自生する草花や枝花を摘み、自分で探してきた花器にいけていく。風に揺らぐように緑の葉が添えられ、楚々と咲く花は可憐で勇ましく、そして静かに語りかけるように佇む。「本物の空間」を求めて、熊本へ移住した坂村の心に響くものとはいったい何であったのか。

 

文・坂村岳志

 

ぼくは花をいけることを生業(なりわい)としていて、でも熊本市内で骨董と喫茶の店「さかむら」を商っていて、東京で同様な店を構えて熊本に移転してから都合18年も経つようだから、それはそれで大切な生業のひとつと呼んでよいものなのだけれど、今回は大事な花の仕事について、ちょっとだけ書きます。

 

花を習い始めたのは本当に偶発的な事故みたいなもので、当時の状況については割愛しますが、ともあれ突然この道に飛び込みました。
25歳のときのこと。

 

その後、三年間師事した先生の教場では、いわゆる華道についての教科書(料理教室でいうレシピ)みたいなものはなかったので、独立後はしぜんと花材も花器も自分自身で山を歩き路地裏をさまよい、骨董屋通いして見立てたものだけを使うようになりました。
花も器も自分で調達するという現在のスタイルは、そうして確立されていきました。


花人・坂村岳志のいける生け花。左:その季々に美しいと感じたものをその姿のままにいける。 右:季節を感じ、その空間に必要とされている花や緑をいけていく。 花人・坂村岳志のいける生け花。左:その季々に美しいと感じたものをその姿のままにいける。 右:季節を感じ、その空間に必要とされている花や緑をいけていく。

左:その季々に美しいと感じたものをその姿のままにいける。

右:季節を感じ、その空間に必要とされている花や緑をいけていく。

しかし、いけた花を見てもらうには、東京での店や花の展示会では大切なことがひとつ抜け落ちていました。それは「本当の空間」でした。

 

「いけばな」が、室町期以降の長い時間をかけて育ってきた「茶室や書院」という空間を、東京で日常的に使用することは不可能に近い。しかし、そうした本当の空間のなかでしか自分の力量は試すことは出来ない。
つまりは、それ以上の上達を見込むことはできないじゃん、です。

 

いけられた花が文章表現であるとしたら、器は文体であって、空間はそれらを成り立たせるための最重要要素です。つまり、インスピレーションの発端は「本当の空間」を自身の手の内にする、です。

 

という長い前置きでしたが、そんなわけで現在のぼくは熊本市内とはいえ、なかなか豊かな自然環境の中で生活して(歩いて15分で山に入ることができる)いて、なおかつ細川家ゆかりの「茶室や書院」を使って、自身でその日の朝に採集した花を、自分で仕入れた古い器を用いて日常的に発表できているという、首都圏にいては望むことはできない、とても幸せな環境にいるようです。


花人・坂村岳志の活ける生け花。静かでありながらも息づかいを感じる。自然の神秘がそこにある。 花人・坂村岳志の活ける生け花。静かでありながらも息づかいを感じる。自然の神秘がそこにある。

静かでありながらも息づかいを感じる。自然の神秘がそこにある。

今回の写真は、そうした日々の暮らしの中で目にした季々(ときどき)の花たちを、日記のように撮りためた中からのいくつかを選んでみました。


花人・骨董と喫茶の店「さかむら」主人、坂村岳志。 花人・骨董と喫茶の店「さかむら」主人、坂村岳志。

Profile

坂村岳志 Takeshi Sakamura
花人・骨董と喫茶の店「さかむら」主人

1972年東京都生まれ。1998年に花をはじめる。2001年東京都港区西麻布にて見立ての花器を中心に扱う骨董と喫茶の店「さかむら」を開店。2011年「さかむら」を熊本に移す。現在、熊本在住。市内にて「花の講座」と「花の会」を主催

http://sakamuratakeshi.com/

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