石本藤雄を囲むアーティストたち。

Lounge

Premium Salon

石本藤雄を囲むアーティストたち

2019.6.13

2. テキスタルデザイナー 鈴木マサルが自分らしいデザインを見つけた瞬間(とき)

鈴木マサルは、自身のブランドOTTAIPNU(オッタイピイヌ)をはじめ、マリメッコやユニクロなどの国内外ブランドのテキスタイルデザインのほか、ファッションアイテムやプロダクト、家具へのデザイン提供、空間インスタレーションを手掛けるなど活躍の幅は広い。現在の活躍の裏には、自分らしいデザインについての迷いや葛藤があった。鈴木マサルのデザインが生まれるまでの心の揺れ動き、石本藤雄という存在を綴る。

 

文・鈴木マサル

私が石本さんのテキスタイルと出会ったのは、今から30年も遡ります。19歳の時にグラフィックデザイナーを志して美大を受験しましたが、希望したグラフィック科は全て落ち、唯一合格した染織科というところに入学。ところがその科はデザインというよりは工芸色が強くてどうにも馴染めず、モチベーションが低い状態で漫然と課題をこなす日々でした。

 

ある日、課題の資料を探しに行った大学の図書館で海外の古いインテリア雑誌に載っていたモノクロの写真に目が釘付けになりました。それは巨大なグラフィックパターンがプリントされた生地が、まるで洗濯物のように吊るされて風にたなびいている写真でした。調べていくとそれは北欧の、マリメッコというブランドの生地ということまでは分かったのですが、色々と探してみるもののまだインターネットもない時代でしたから、そのときはそれ以外の資料を見つける事はできませんでした。

鈴木のテキスタイルデザインの転機になったともいえる写真。写真集「Marimekkoilmiö」(Weilin+Göös)1986年より。 鈴木のテキスタイルデザインの転機になったともいえる写真。写真集「Marimekkoilmiö」(Weilin+Göös)1986年より。

鈴木のテキスタイルデザインの転機になったともいえる写真。写真集「Marimekkoilmiö」(Weilin+Göös)1986年より。

それから半年後、マリメッコで活躍している日本人デザイナーの展示が銀座であるということを聞き、初日に見に出かけました。それが石本藤雄さんの展覧会だったのです。残念ながら石本さんは来日していませんでしたが、会場に展示された数々のマリメッコの生地達はどれもこれも見たこともない雰囲気に包まれていて、ただただ圧倒されたのです。

 

それらは図書館で見たグラフィカルなものとは違い、墨流しの様な表現を使った、どこか日本的な世界観を感じる生地でした。日本的と言ってもそれは私が大学で学んでいた古典的な「花鳥風月」の様なものとは全く異なり、その時の時代を反映する空気感に包まれ、キラキラと輝いていたのを今でも鮮明に覚えています。生まれて初めて見た実物のマリメッコが石本藤雄さんのデザイン。これがこの後、私がのめり込んで行くプリントテキスタイルとのファーストコンタクトで、私はまだ20歳になったばかりでした。


石本さんは多くは語らないが、
その存在から勇気づけられる

実際に石本さんとお会いしたのはそれからずいぶん年月が過ぎ、私がヘルシンキに行った時に知人の紹介で石本さんの家での食事会に参加したときでした。

 

この当時、私はテキスタイルデザイナーとして仕事をしていましたが、ベージュや茶色で染められた無地の、シンプルな売れ筋商品を主に作っていたのです。ただ、元々は北欧のカラフルなプリント生地に魅かれて始めた仕事。このままではいかんという思いから、仕事以外に自分でオリジナルの生地を作り始めたころでした。

OTTAIPNU オリジナルファブリック『noki』スクリーンプリント2018 早朝のヌークシオ国立公園付近で撮影。 OTTAIPNU オリジナルファブリック『noki』スクリーンプリント2018 早朝のヌークシオ国立公園付近で撮影。

OTTAIPNU オリジナルファブリック『noki』スクリーンプリント2018
早朝のヌークシオ国立公園付近で撮影。

私は憧れの人を前にして緊張してしまい、ろくに喋る事が出来なかったのですが、最後に思い切って持参したオリジナルの生地を見てほしい、と切り出したのです。その後お付き合いしていく中で知るのですが、石本さんは人に作品を見てほしいと言われてもあまり見ることをしません。その時も一瞬「ええ〜」って感じでとまどった様子でしたが半ば無理やり見てもらった様に記憶しています。

 

私のデザインした生地を見て石本さんは一言、「日本っぽいね」と。ニュアンス的にはあまりよくないなーって感じで。私自身としては「北欧のプリントテキスタイル的なものを!」という思いで作った渾身の生地。結構ショックでした。そしてこれもその後の付き合いから分かる事なのですが、石本さんは思った事をはっきりと言います。お世辞やお愛想無しの直球です。それ故に私は石本さんにいわれたことの意味が知りたくて、それからヘルシンキに行くたびに石本さんの所に押しかけているのです。

OTTAIPNU オリジナルファブリック『arare』スクリーンプリント2018大きな柄が好きなのもやはり、北欧のプリント生地の影響と語る。 OTTAIPNU オリジナルファブリック『arare』スクリーンプリント2018大きな柄が好きなのもやはり、北欧のプリント生地の影響と語る。

OTTAIPNU オリジナルファブリック『arare』スクリーンプリント2018
大きな柄が好きなのもやはり、北欧のプリント生地の影響と語る。

話は変わりますが、私は北欧のビンテージ生地が大好きで、北欧に行くたびにショップやマーケットを巡って買い漁っています。そんな事をしていると、ビンテージ市場に石本さんがデザインした生地が本当にたくさん出回っているという事に気づきます。それだけ石本さんが多くの生地のデザインを手がけ、フィンランドの人たちに愛されてきたということなのだと、しみじみと思います。


人生を変えるほどのデザインがある。
心に深く刻まれるデザインもある

それまでのマリメッコ的なるスタイルにとどまらず、琳派を思わせる世界観や、まるで自然の風景を眺めているような構図やタッチなど、石本さんはどこか「和」を感じさせる、それでいて新しい独自のスタイルをマリメッコで展開し、新たな時代を築いたのです。私が20歳の時に見たあの墨流しのデザインも、まさにそんな佇まいでした。「日本人なんだから当然、和的な感覚は生まれつき持っているし、日本の風景や感性は原体験、原風景として作るものには当然出て来るものだ」。

 

うろ覚えですが、何かのインタビューで石本さんがそんな事をおっしゃっていました。そう考えると石本さんが私に言っていた言葉の意味は、無理に北欧的なスタイルを意識するより、もっと自分の感性を大事に、自由にやった方がいい。ということだったのかもしれません。深読みし過ぎかもしれませんが。

OTTAIPNU オリジナルファブリック『sarusuberi』スクリーンプリント2017 OTTAIPNU オリジナルファブリック『sarusuberi』スクリーンプリント2017

OTTAIPNU オリジナルファブリック『sarusuberi』スクリーンプリント2017
-18度、早朝のフィスカルスで撮影。草木はもちろん、空気まで凍って朝日にキラキラと輝く幻想的な風景が印象的。

一度だけ、本当に一度だけですが石本さんに褒めてもらった事があります。私の展覧会期間中にいきなり携帯に電話がかかって来て「えっ?ヘルシンキから?」と思って電話に出ると「あー、石本です。今、君の展覧会の会場にいるんだけどね、いいじゃない、これ!」と、いきなり。そうか、少しは自分らしいものになって来たのかな、とか。お世辞やお愛想無しの人ですから、素直にうれしかった。

 

先日ヘルシンキで一緒に食事していた時、初対面の時の話になって「初めてお会いした時にこう言ってましたよね?」と、ちょっと恨み節も交えて言ってみると石本さんは「え?そんなこと言ったっけ?全然覚えてないわ」と……。えーっと、あの一言で私は随分あれこれと悩んだんだけどなあ、とか思いつつも、それもまた石本さんらしいなと。

 

ヘルシンキでも日本でも、いつでも石本さんの周りには人が集まってき来ています。当のご本人はどちらかと言えばそっけない方なのに。やっぱり人柄なのだな、と思う。私はデザインをリリースする時いつも、「石本さんは何と思うだろうか?」と、期待と不安がごちゃ混ぜになった気持ちになります。今でも、多分これからも。

 

→次回は、小林恭(建築家)です。
(敬称略)

鈴木マサル 鈴木マサル

Profile

鈴木マサル Masaru Suzuki
テキスタイルデザイナー
多摩美術大学染織デザイン科卒業後、粟辻博デザイン室に勤務。1995年に独立。2002年に有限会社ウンピアットを設立。2005年からファブリックブランド OTTAIPNU(オッタイピイヌ)を主宰。自身のブランドの他に、2010年よりフィンランドの老舗ブランド marimekko のデザインを手がけるなど、現在、国内外の様々なメーカー、ブランドのプロジェクトに参画。東京造形大学教授、有限会社ウンピアット取締役。
http://masarusuzuki.com

 

 

『森と、湖と、アンブレラと』
鈴木マサルさんがデザインを担当した「日本最大級のアンブレラスカイ・デザインプロジェクト」がメッツァビレッジで開催される。ポルトガルの小さな街アゲダで芸術祭の一環として2012年から始まった「アンブレラスカイ」は、約1000本のアンブレラの色と連合する100mの道が虹のように変化する幻想的な世界が楽しめる。

期間:2019年6月8日(土)~7月15日(月)
時間:POPUP SHOP 10:00〜19:00
ワークショップ:10:00〜17:30(最終受付 17:00)
会場:埼玉県飯能市宮沢327-6 メッツァ「メッツァビレッジ」内
参加費:無料
https://metsa-hanno.com/event/2330/

Photography by Chikako Harada(テキスタイル・書籍)
Texy by Masaru Suzuki

Premium Salon

ページの先頭へ