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アート探訪記~展覧会インプレッション&インフォメーション

2026.2.1

銀座・和光「第2回 いしかわの工芸 漆と陶」 若手作家の新たな息吹も加わり、見どころも増した2回目の展観

右・水尻清甫 沈金乾漆盤「海原」⌀40 ×h3.5㎝ 左・𠮷田幸央 金襴手彩色鉢 ⌀52 ×h13㎝

石川県を襲った震災から2年以上の歳月が流れました。月日が経つにしたがい、石川の現状を伝える報道は、次第に少なくなってきましたが、爪痕はまだまだ残っているのが現状です。そうした厳しい環境下で、制作活動を続ける県内の漆芸家と陶芸家の作品が、昨年に引き続き、再びセイコーハウス6階を彩っています。2回目となる「いしかわの工芸 漆と陶」。それぞれの作品には、逆境のなかで、真摯に作品と向かい続けてきた作家の方々の、不屈ともいえる「ものづくり」の魂が宿っています。



ようやく、少し落ち着いてきた。それが現状






「風土と人の温もりが息づく作品に、再生と希望の光を感じていただければ幸いです」とのメッセージを、展覧会リーフレットに寄せているのは、陶芸家の𠮷田幸央さん。昨年に引き続いての参加です。



「珠洲や輪島の惨状に及ぶべくもありませんが、私の地元の加賀地方でも、焼物は随分割れました。私の工房でも相当な被害が出ました。一時は物作りどころではありませんでしたが、ようやく少し落ち着いてきた、というのが現状です」



そう語る𠮷田さん。𠮷田さん によれば、今回の展覧会には、若手の作家も新たに加わっているとのこと。その一人が、漆芸家の中室惣一郎さんです。



静止画なのに動画に見える。そんな加飾を目指して  ──漆芸 中室惣一郎──



尾びれを揺らめかせながら、今にも泳ぎ出しそうな金魚たち。どこからともなくやって来て、いつのまにか張り付いている雨蛙。睦まじく寄り添い水面を漂う鴛。中室さんの作品には、精緻に描かれた生き物たちが、その生を謳歌しています。



「生きもののその次の動き。その動きが目に浮かび、おのずと見えてくる。静止画なのに動画のような動きを感じていただければ、と思います」


和光展覧会 中室惣一郎 和光展覧会 中室惣一郎

さざめく水面、金魚の尾ひれ、水底の煌めき。すべてが揺らめいているかのよう。蒔絵楕円盆「ゆらめき」(部分)



生き物のスケッチは、写真などの図版を参考に描くことが多いものの、金魚は実際に飼ってみたそうです。

「水槽を眺めていると、金魚たちの動き、とくに尾びれのゆらめきが面白く、それを映像の一場面のように表現してみたいと思いました」



中室さんの思いは見事に結実。3匹の金魚は、蒔絵で表現された水面からこちらに向かって、ぷっくりと顔を出してくるかのようです。

 


和光展覧会 中室惣一郎 和光展覧会 中室惣一郎

・蒔絵楕円盆「ゆらめき」税込¥825,000 45cm×24cm
・蒔絵盒子「蓮蛙」 税込¥396,000 直径6cm



遊び心をふんだんに生かした、物語りのような絵付け




「漆器は実用という点から考えれば、加飾のない方が使い易く、ある意味では一番です。そんな漆に加飾するのですから、エンターテインメントというか、遊び心をふんだんに用いて、物語性のある絵付けをした方が楽しいのでは、そんなことを思いながら、漆に向かっています」



幼いころから描くことが何よりも好きだった中室さん。

「たまたま漆の家に生まれたので漆に絵付けをしていますが、そうでなければ、やはり何かに描くことをしていたと思います」と中室さんが語るように、中室家は輪島で「輪島屋善仁」の屋号で、200年以上続く輪島塗の製造・販売を手掛ける老舗です。



漆を家具や調度品にも用いて、「輪島屋善仁」が手掛けた再生古民家「塗師の家」が全焼したのをはじめ、本社工房や店舗、倉庫も大きな被害を受けました。



「輪島の漆産業が受けた被害は甚大なものでしたが、少しづつ回復しています。若手の作家も頑張っていますので、ぜひこれからの輪島にも注目してください」

中室さんが描く、生命力に満ちた生き物たちも、輪島の町が復活するのを待っています。



色と金彩を追い求めて辿りついた「金襴手彩色」の技法 ──陶芸 𠮷田幸央──


紫、緑、黄、ピンク……。それぞれの色はどちらかといえば、薄くはんなりとした優しい色です。水彩画のような薄く優しい色は、色と色が重なることにより、次第に重みを増し、中世のフレスコ画を思わせる重厚な響きを醸し出してきます。


光の加減で煌めく金が、抽象的な色彩の集積に荘厳をもたらしています。でも、西欧風ではなく、むしろどことなく和を感じさせる、そんな不思議な色彩を纏った焼物。それが𠮷田幸央さんの作品です。



𠮷田さんは、120年の歴史を持つ九谷焼の上絵付け工房「錦山窯」の4代目。「金襴手」と呼ばれる色絵金彩の上絵付け工房として発展してきた「錦山窯」に生まれた𠮷田さんは、「色と金彩」を絶えず追い求めてきました。そのひとつの結実が「彩色金襴手」です。


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水彩画のような淡い色彩の集積に金彩が加わる。「彩色金襴手鉢」(部分)


「焼物にどのように色を纏わせるか。そんなことをずっと考えてきました。この作品でいえば、使った色は全部で6色。そして8回焼きます。ですので、とても時間がかかります。色の上に色を重ねて焼き、それを窯から出したときにどんな色になっているか、最初は試行錯誤の連続でした。そして『錦山窯』の特徴である金彩をどう表現していくか、それも試行錯誤でした」




𠮷田さんの父、三代目𠮷田美統(みのり)さんは金箔の上に透明な釉をかける「釉裏金彩(ゆうりきんさい)」を探求し、無形文化財保持者(人間国宝)に認定されています。ただ、それをそのまま継承しても、窯としての発展性はなくなってしまう。そう考えた𠮷田さんが辿り着いた技法が、「錦山窯」ならではの金襴手の技法を用いつつ、それを現代的に解釈した「彩色金襴手」でした。


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彩色金襴手鉢 税込¥2,200,000 32.5cm×32.5cm×15.5cm



絵付けのイメージをデジタルが手助け。制作のプロセスはあくまでも人間



𠮷田さんの作品には、幾何学的な直線も随処に走り、モダンさを醸しだしています。この直線を生み、絵付けのイメージの手助けとなっているのが、「Tomonami(ともなみ)」。ソニーCSLの研究者と共同開発中のシステムです。



「デジタルとはいってもあくまでも絵付けのイメージを作ってくれるだけ。イメージを作ることにかけては自分でやるより何倍も速く、数も大量に提案してくれますが、デジタルが提案してきたイメージをもとに実際に手を動かすのはあくまでも自分。焼成を重ねる間に、デジタルイメージとは異なる色を重ねていくことも多々あります。人が判断し人が作っていく、という制作プロセスは昔とは変わりません。工芸の意味を失わないテクノロジーの応用が大切なのだと思います」


窯が大切にしてきた伝統の手法に、デジタルを利用した独自の表現を加えながらも、工芸の意味を失わないテクノロジーの応用を考え続ける吉田さん。AIがアートの分野にも浸蝕し始めている昨今、生成AIを用いない𠮷田さんとテクロノロジーの関係は、工芸家たちに多くの示唆を投げかけています。

























































話を伺った2人の作家のほかに、今回の展覧会に出品しているのは以下の7名の方々です。

 

【陶芸】柴田有希佳さん 田島正仁さん 多田幸史さん

【漆芸】 浦出勝彦さん 田中義光さん 水口咲さん 水尻清甫さん

 

また、以下の方々の作品が特別出品として展示されています。

 

【陶芸】𠮷田美統さん、中田一於さん

【漆芸】前 史雄さん  小森邦衛さん  西 勝廣さん

 

 




いしかわの工芸 会場 いしかわの工芸 会場


いしかわの工芸 いしかわの工芸













◆アート探訪記~展覧会インフォメーション

第2回 いしかわの工芸 漆と陶

会期:2026年1月29日(木) 〜 2026年2月8日(日)

時間:11:00 – 19:00 最終日は17:00まで

場所:セイコーハウス 6階 セイコーハウスホール

 

櫻井正朗 櫻井正朗

櫻井正朗 Masao Sakurai

 

明治38(1905)年に創刊された老舗婦人誌『婦人画報』編集部に30年以上在籍し、陶芸や漆芸など、日本の伝統工芸をはじめ、さまざまな日本文化の取材・原稿執筆を経た後、現在ではフリーランスの編集者として、「プレミアムジャパン」では未生流笹岡家元の笹岡隆甫さんや尾上流四代家元・三代目尾上菊之丞さんの記事などを担当する。京都には長年にわたり幾度となく足を運んできたが、日本文化方面よりも、むしろ居酒屋方面が詳しいとの噂も。

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