知床半島の先端、オホーツク海に面する知床岬

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海から見た日本の風景

2019.5.14

海からしか見ることができない岬の姿がある。
そこでは生命の光が宿る風景と遭遇できる
海から見た日本の風景(後編)

知床半島の先端に位置し、オホーツク海に面する知床岬。国立公園内の特別保護地区となっているため、一般の観光客は立入りができないエリアだ。つまり知床岬は海上からしか見ることができない。

波に削られた荒々しい岬の姿に
自然の神秘を感じずにはいられない

多くの日本人にとって「岬(cape)」は遠い存在だ。岬について考えたことがなければ行ったこともない。旅の目的地に辛うじてあがる岬と言えば鐘がかけられた恋人岬か、日本最南端の地と彫られた石碑が思い浮かぶが、どうしても本来的な岬のイメージとは離れているように感じる。岬とはもっと厳かで、もっと気高いものなのだ。

 

岬を目の前にすると圧倒され拝みたくなる。それはかつて世界地図にまだ空白が多かった頃に、世界の探検家は船を使って旅をしていたことにまでさかのぼる。

現在の保険をかける旅行と違って、当時は生死をかけた船旅だったはずだ。目印のない外洋で大きな指標となった岬の存在は小さくない。それはかのヴァスコ・ダ・ガマが喜望峰(Cape of Good Hope)に到達したことが地理・世界史に刻まれているのを思えば、いかに大切な指標だったかが想像できる。


荒波に削られた断崖が多い知床岬 荒波に削られた断崖が多い知床岬

知床岬は荒波に削られた断崖が多い。

関東の人にとっては陸からのアクセスが良い犬吠埼や石廊崎などが身近だが、船旅をしているとよく聞くのは道北端の宗谷岬、九州南端の佐多岬、四国南端の足摺岬といった地理的な指標ばかりだ。岬というのは沖合にうねりや高波を抱えるところも多く、しばしば航海の難所と言われる。この岬で今までどれほどの船乗りが荒波にもまれたか想像すると、今自分がその洋上にいることに感動をせずにはいられない。


羅臼岳の麓 羅臼岳の麓

羅臼岳の麓、この山の裏側で知床岬への陸路は途切れてしまう。

数多くの岬の中でも一際美しいと感じたのが、道東にそびえる知床岬だ。
この岬は羅臼岳と硫黄山、さらに深い森に阻まれ陸上からのアクセスが全くできない。そのため全貌は海からでなければ捉えられないのだ。
以東に大陸がないため常に風が強く、船のデッキにでると身体を支えているだけで身動きが取れないほどの時もある海域だ。

 

それでも知床岬を朝陽や夕陽の時間に航行すると、半島そのものが輝いているように神々しい光を放つ風景に出合うことがある。それは強風よりも力強く、それこそ身動きが取れないほどに心揺さぶられる。温かく愛おしい光・・・・・・岬を包む森に住まう多くの生命が、いま同じ光を浴びているのだ。稜線にかかる夕陽を見ながら感じるのは、今この瞬間を生きる喜びそのものだった。


千葉県の犬吠埼 千葉県の犬吠埼

東側の岬は朝陽、西側の岬には夕陽が似合う。

朝陽や夕陽に照らされる岬には
神々しい輝きが宿り、心に深く刻まれる

知床岬まで行かずとも見られる岬は少なくない。
例えば前述の千葉県の犬吠埼もそのひとつだ。岬が東側にせり出しているため朝陽に照らされると、条件によっては北海道とも甲乙付けがたいほどの表情を見せてくれる。


青森県下北半島の尻屋崎 青森県下北半島の尻屋崎

青森県下北半島の北東端をなす岬である尻屋崎。岬の北側は津軽海峡、東側は太平洋である潮の変わり目となっている。尻屋崎への道は夜間と冬期は閉鎖されている。

更に青森まで北上すれば、下北半島に位置する尻屋崎の手前で見た自然現象も神秘的だった。前日に比べて一気に気温があがり海面に水蒸気が立ちこめたところに逆行の夕陽が差し込む。まるで海面全体が光りだし、その上の空に虹の欠片を見つけた瞬間は今でも忘れがたい光景として目に焼き付いている。


夕陽に照らされる岬の光景 夕陽に照らされる岬の光景

岬が夕陽を浴びる姿は、他の体験には代えがたい忘れられない瞬間である。

こうして一般的には縁遠い岬の魅力について考えると、その感動の瞬間にはいつも太陽がそばにあったことに気づく。
絶壁の多い岬は斜光を受ければ荒々しさを際立たせ、逆行でもその稜線に光のカーテンを作る。陸地の最後の端を目の前にした時、それは大げさかもしれないが自分も生きている動物のひとつだということを感じさせてくれる瞬間なのかもしれない。

 

 

「海から見た日本の風景」の(前編)(後編)で紹介した地を記載。 「海から見た日本の風景」の(前編)(後編)で紹介した地を記載。

「海から見た日本の風景」の(前編)(後編)で紹介した地を記載。

中村風詩人 Kazashito Nakamura

旅写真家

クルーズには10年以上毎月乗船しながら国内外10隻に乗船取材。世界一周航路などを乗船し旅した国は80ヶ国にのぼる。世界3周分の海の奇跡をまとめた写真集『ONE OCEAN』や船旅の目的地『小笠原のすべて』(JTBパブリッシング刊)を出版。同展示はキヤノンの協力を受け銀座・名古屋・大阪キヤノンギャラリー、仙台メディアテーク、高崎高島屋、東武宇都宮百貨店、水戸京成百貨店の全国を巡回。日本橋三越や各新聞社ホール、各客船上にて講演、全国のフォトツアーやコンテストの審査も定期的に行っている。
http://kaza.jp

 

 

海から見た日本の風景(前編)はこちら

Potography & Text by Kazashito Nakamura

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