建築家石上純也のデザインによるボタニカルガーデン アートビオトープ「水庭」

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2019年グッドデザイン・ベスト100(前編)

2019.10.23

令和のグッドデザインとは?
注目の「体験」可能な空間と場所7選

建築家石上純也のデザインによるボタニカルガーデン アートビオトープ「水庭」

2019年度のグッドデザイン大賞が間もなく選ばれる。グッドデザイン賞は我々の暮しや社会をより良くすることを目的とする日本のデザインアワードだ。対象範囲は製品、建築、ソフトウェア、システム、サービスなど実に幅広い。

 

グッドデザイン賞では、形の有無にかかわらず、人がなんらかの理想や目的を果たすために築いたものごとをデザインと解釈し、審査対象としている。前編では2019年度のグッドデザイン・ベスト100の空間・場所の分野からPremium Japanが注目する7つをピックアップした。

新しいリゾートをデザインした
アートビオトープ「水庭」と箱根本箱

1. ボタニカルガーデン アートビオトープ「水庭」
栃木県那須のリゾート「ボタニカルガーデン アートビオトープ」に、4年の歳月をかけて誕生した水庭。デザインは建築家の石上純也によるものだ。空間は緻密な計算によって318本の木々と大小160のビオトープ(池)によって構成されている。デザインポイントの一つとして掲げられているのが、「自然を人工的に作り出すことで、生活空間の延長として自然を体験し、五感を磨く空間と時間の提供」。

 

もともとそこにあった自然のように見えるが、実は伐採予定だった318本の木々が移植され、田んぼの水門に使われていた取水方法や水量を調整する技術を活かして作られている。また、周囲の地面に貼られた苔も、近隣の森から移植したものだ。きちんと管理されることによって美しい風景を保っている。これこそ「日本の庭園に受け継がれてきた魂であり、きわめて日本的」とグッドデザイン賞の審査員に評された。

置かれている1万2000冊すべての本が購入可能。書店機能付きライフスタイルホテル「箱根本箱」 置かれている1万2000冊すべての本が購入可能。書店機能付きライフスタイルホテル「箱根本箱」

置かれている1万2000冊すべての本が購入可能。書店機能付きライフスタイルホテル「箱根本箱」

2. 書店機能付きライフスタイルホテル「箱根本箱」
偶発的な本との出会い。そんな現代にこそ必要な「多様な知との出合いの場」を新創出し、再構築を目的にしたプロジェクトから誕生した箱根本箱。施設は日本出版販売が所有していた保養所をプラニング・リノベーションしたもので、置かれている1万2000冊すべての本が購入可能な書店機能を持つブックホテルである。

 

ホテルという非日常な空間に暮らすように滞在する20時間で、様々な知と多面的・有機的に出会えるように工夫。各界の第一線で活躍する人たちの頭の中・構成を知る「あの人の本箱」など多彩な企画も展開されている。企画立案・総合監修から施設の運営までを自遊人が担当。本のディレクションは日本出版販売のBOOKディレクションブランド「YOURS BOOK STORE」が担当。ブックディレクターは染谷拓郎が務める。


新時代の特急車両は、移動手段ではなく目的地となる。
海の移動を楽しむ「移動公園」のようなカーフェリーにも注目

すべての席から風景を楽しめるような窓位置がリビングルームのような西武鉄道特急車両 「Laview」 すべての席から風景を楽しめるような窓位置がリビングルームのような西武鉄道特急車両 「Laview」

すべての席から風景を楽しめるような窓位置がリビングルームのような西武鉄道特急車両 「Laview」

3. 西武鉄道特急車両 「Laview」
いままでに見たことがない新しい車両を目指し、西武鉄道の次世代のフラッグシップトレインとして製作されたのが新型特急車両「Laview」である。都市や自然の中でやわらかく風景に溶け込む特急、みんながくつろげるリビングのような特急、新しい価値を創造し移動手段ではなく目的地となる特急がデザインコンセプト。

 

前例のない球面形状の車両先頭部のデザイン、新しい塗装方法、車両強度が許す限界まで大きくした窓など試行錯誤を重ねて完成した。統一感のとれたリビングのような空間を目指し、シート、カーテン、絨毯、照明などもすべて新規開発され、すべての席が風景を楽しめるような窓配置が採用された。デザイン監修は妹島和世。協力デザインアドバイザーには安東陽子(テキスタイル)、豊久将三(ライティング)、棚瀬純孝(デザイン&グラフィック)が名を連ねる。

船尾席や屋外テラス席も備えた海の移動を楽しむコンセプトを形にしたカーフェリー 「クルーズフェリー シーパセオ」 船尾席や屋外テラス席も備えた海の移動を楽しむコンセプトを形にしたカーフェリー 「クルーズフェリー シーパセオ」

船尾席や屋外テラス席も備えた海の移動を楽しむコンセプトを形にしたカーフェリー 「クルーズフェリー シーパセオ」

4. カーフェリー 「クルーズフェリー シーパセオ」
広島・呉・松山の三港を結ぶ航路用に約30年ぶりに新造された旅客フェリー「シーパセオ」。地元の人々の暮らしを支えつつ、旅行者の心に残る瀬戸内海の時間を提供すべく「瀬戸内海の移動を楽しむみんなの移動公園」をデザインコンセプトとして開発が行なわれた。船内客席に3つのゾーニング設定と11種の特徴的なシート設計を行い、多様で柔軟な空間構成を実現した。

 

従来、好まれなかった船尾席や屋外テラス席を、船ならではの魅力を体験できる空間としたほか、ユニバーサル対応など先進的な取り組みも行っている。また、非常時の輸送人員増加に対応した作りにも注目したい。聞き取り調査やワークショップから見えてきた利用客やサービス従事者の意見が設計に反映されている。

サービス「キャンピングオフィス」の狙いは、キャンプがもつ要素を職場に取り入れて働き方改革を実現すること サービス「キャンピングオフィス」の狙いは、キャンプがもつ要素を職場に取り入れて働き方改革を実現すること

サービス「キャンピングオフィス」の狙いは、キャンプがもつ要素を職場に取り入れて働き方改革を実現すること


オフィスやクリニックの新しい形をデザイン。
役目を終えた自然資産を活用する試みも

5. サービス「キャンピングオフィス」
スノーピークビジネスソリューションズが提案するワークスタイル、ワークプレイスのデザイン。オフィスの中、都心部の緑地、大自然など様々な空間にテントやタープを活用したワークプレイスを提供するサービスだ。キャンプがもつ要素を職場に取り入れることで、企業のイノベーションや組織活性化、働き方改革を実現するのが狙い。

 

スノーピークの社会的使命は「自然と人、そして人と人をつなげることで人間性を回復する」であり、彼らはキャンプをしない人々にこそ、「人間性の回復」が求められていると考えている。無関係、もしくは相反するイメージを持つオフィスとキャンプを融合するというアイデアが人を笑顔にすると審査員は評する。すでに200社が、このサービスを体験していて、今後もさらに広がりを見せそうだ。

公営の薬草園を改修して生まれた蒸留所 「MITOSAYA薬草園蒸留所」 公営の薬草園を改修して生まれた蒸留所 「MITOSAYA薬草園蒸留所」

公営の薬草園を改修して生まれた蒸留所 「MITOSAYA薬草園蒸留所」

6. 蒸留所 「MITOSAYA薬草園蒸留所」
2015年に閉園した千葉県大多喜町の公営の薬草園を改修して生まれた「MITOSAYA薬草園蒸留所」。こちらでは、さまざまな果樹や植物を原料にした蒸留酒やプロダクツが作られている。敷地面積は1万5000㎡超。500種類を超える薬用植物を植生しながら自然からの小さな発見を形にする取り組みを日々行っている。

 

もともとあった施設に、蒸留所に必要な機能を合わせるとすべてがぴたりと収まることが分かり、事業提案が行われた。既存の建物には工程ごとに最低限の間仕切りが付加され、前室の各方向に巡らした扉の窓から、各工程を見学することのできる構造になっている。役目を終えた薬草園の自然資産が発展的に生かされ、新たな文化とプロダクトを生み出し発信する場所となった点に審査員は着目した。

クリニック 「かがやきロッジ」は「あたらしい健康」を支える場となっている クリニック 「かがやきロッジ」は「あたらしい健康」を支える場となっている

クリニック 「かがやきロッジ」は「あたらしい健康」を支える場となっている


7. クリニック 「かがやきロッジ」
岐阜県羽島郡岐南町の在宅医療専門クリニック「かがやきロッジ」。その社屋にはリビング、オープンキッチン、宿泊室、研修室、座敷など、クリニックの機能ではない部分を備えているのが特徴。この、ロッジと呼ばれる建物での様々な活動を通して、不健康からの回復、新しい健康の獲得支援を行っている。

 

建物で業務上、必要とされるスペースは全体の4分の1のみ。施設の目的は0歳から100歳を超える人までの出会いと創発・教育そして未来の人達へのギフトとなる「場」の創造であり、地域とのつながりを持ちつつ、各種イベントも開催されている。地域住民との接点として、施設を通じて在宅医療について周囲に考える機会を与えた点が審査では評価された。施設では180人が参加する「こども地域食堂」や「ウォーキング倶楽部」、「勉強会・懇親会」などイベントを定期的に主催。身体の健康だけでなく、つながりやいきがいも含めた「あたらしい健康」を支える場となっている。

 

グッドデザイン賞誕生時と異なり、いまでは高齢化社会、インターネットの登場、災害対策など、デザインに、より複雑な視点が求められるようになった。そうしたなか、デザインが社会に果たす役割もより重要度を増しているように思える。後編では、より生活に密着したプロダクトから2019年度の注目作品をピックアップする。

 

(敬称略)

【グッドデザイン大賞スケジュール】
10月31日(木)
大賞選出会(受賞祝賀会併催)、特別賞発表
13:30~16:30 受賞祝賀会&大賞選出会ライブ中継(グランドハイアット東京より)
13:30~14:30 グッドデザイン大賞投票受付(受賞店来場者投票)
投票会場:東京ミッドタウン(エリアAミッドタウン・ホールB 特設ステージ)
15:00頃    グッドデザイン大賞発表
18:30~19:00 特別賞記者発表会

 

【グッドデザイン賞受賞展「GOOD DESIGN EXHIBITION 2019」】
会期 10月31日(木)〜11月4日(月)
11:00~20:00 最終日 18:00まで/入場は閉館 30分前まで
会場 東京ミッドタウン各所(東京都港区赤坂9-7-1)
入場無料
http://archive.g-mark.org/gde/2019/index.html

 

→2019年グッドデザイン・ベスト100(後編)につづく

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