石本藤雄を囲むアーティストたち。

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石本藤雄を囲むアーティストたち

2019.5.31

1. 北欧の人気ブランド「マリメッコ」「アラビア」の石本藤雄がデザイン界に与えた影響

北欧と日本、二つの文化に触れながらアーティスト活動を続けている石本藤雄。2018年に愛媛、2019年には京都、そして東京でテーマの異なる3つの展覧会を開催。マリメッコで400以上のテキスタイルを生み、その多くはマリメッコを代表するデザインとして今も世界中で愛され続けている石本の偉大なるセンスとアート性は、内外のクリエーターにとっての憧れ。彼の元には多くのデザイン、アート関係者が集う。語り合うと楽しくて、温かくて、そしてエネルギーをもらえる。その才能だけではなく人間性にも惹かれ、会いたくなるということらしい。今回は彼のモノづくりや、そこから見えてきたことについて語っていただくと同時に、石本チルドレンとも呼ぶべき人々の目を通して、アーティスト石本藤雄を紹介する。

 

談:石本藤雄

 

ヘルシンキにも春が来ました。道ばたには、小さな花が咲き始めます。それぞれに雪の下で春に向けて芽吹いてきた生命力の現われです。

「アラビア」の工房は以前工場として使われていた建物であり、自然豊かな地にある。 「アラビア」の工房は以前工場として使われていた建物であり、自然豊かな地にある。

「アラビア」の工房は以前工場として使われていた建物であり、自然豊かな地にある。


ヘルシンキに暮らし始めたのは1970年ですので、今年で40年目ということになります。世界一周の旅をしようと思い立ち、アメリカ西海岸に向かったのは8月でした。その後ニューヨークへ、さらにモントリオール、ロンドンと移動し、続いて滞在したコペンハーゲンにあるデザインショップのフォーム・オ・ファーブでマリメッコのテキスタイルに再会したのが、今に続くヘルシンキの生活の始まりです。

昨年10月~12月に開催された、愛媛県美術館「石本藤雄展-マリメッコの花から陶の実へ-」での展示の様子。石本藤雄デザインのテキスタイルが並ぶ。 昨年10月~12月に開催された、愛媛県美術館「石本藤雄展-マリメッコの花から陶の実へ-」での展示の様子。石本藤雄デザインのテキスタイルが並ぶ。

昨年10月~12月に開催された、愛媛県美術館「石本藤雄展-マリメッコの花から陶の実へ-」での展示の様子。石本藤雄デザインのテキスタイルが並ぶ。

やはりマリメッコのデザイナーになりたい、と強く思い、次に予定していたパリには行かずにヘルシンキに向かいました。飛行機の窓から最初に目にした11月初旬のヘルシンキの風景は一面の雪景色、初めて目にする風景に嬉しい気持ちでいっぱいでした。


布と陶。色を楽しむ、形をつくる…。
自分の可能性に挑み続ける。

マリメッコでテキスタイル・デザインを行っていた時から陶芸を学び、その後は「アラビア」のアートデパートメントにある工房が私の制作の場です。ここで土を練り、釉薬の色を試み、建物内の窯で焼きます。釉薬の性質を活かして色や表情を試みるなかで割れてしまうこともありますが、思い通りの表情がでるまで幾度か色を変えて焼き直したりしながら制作を重ねることもあります。大きく重いものは運ぶだけでも大変です。テキスタイル・デザインとは対象的です。しかし、自分のこのからだで、ひとりで何が可能かやってみたいと考え、作陶を続けてきました。

 

表情や色をつくる楽しさは布も陶も同じです。そしてどちらも、制作のなかでは、遊びをしたくなります。布の遊び、土の遊びです。

冬瓜の陶でつくられたオブジェ。 冬瓜の陶でつくられたオブジェ。

冬瓜の陶でつくられたオブジェ。

最近つくったひとつは、『冬瓜』です。フィンランドにはない冬瓜を知ったのは数年前の正月、友人たちと一緒に日本の宿に滞在していたときでした。白い紙を敷いた上にまるで神様のようにうやうやしく冬瓜が置かれているのを目にして、ああこれが日本の精神なのだと強い印象を持ちました。こうした風景が心に留まるのも、私が日本に生まれ育ったからなのでしょう。

「石本藤雄展 — マリメッコの花から陶の実へ — 」愛媛展では、愛媛県美術館コレクションとの取り合わせの妙を楽しめる構成に。写真は松山市生まれの書家、三輪田米山による『福禄寿』(1897年)と『冬瓜』の作品。 「石本藤雄展 — マリメッコの花から陶の実へ — 」愛媛展では、愛媛県美術館コレクションとの取り合わせの妙を楽しめる構成に。写真は松山市生まれの書家、三輪田米山による『福禄寿』(1897年)と『冬瓜』の作品。

「石本藤雄展 — マリメッコの花から陶の実へ — 」愛媛展では、愛媛県美術館コレクションとの取り合わせの妙を楽しめる構成に。写真は松山市生まれの書家、三輪田米山による『福禄寿』(1897年)と『冬瓜』の作品。

今回、新作の冬瓜をはじめ、梅の実、ヤマモモの実などを描いた絵皿は、愛媛、京都、東京で行われる個展で展示しています。今年春、細見美術館での展覧会では、細見さんが収蔵されている琳派作品とあわせた展示をしてみました。江戸時代に鈴木其一が描いたあひるの屏風があったので、その前にいくつもの『冬瓜』をごろんと置いてみるとおもしろいのではないかと考えたのです。


愛媛・京都・東京と展覧会は続く
日本の季節を感じて、また創作意欲が湧く

6月にはまた新たな構成としての東京展が控えています。こうして展覧会のために日本に帰ることが続くなかで、改めて思ったことがありました。それは、デザインや陶芸を始めるずっと前から自分がどこか影響をうけてきた琳派の存在です。特に興味があるのは俵屋宗達で、『蔦の細道図屏風』など、宗達の世界には本当にほれぼれしてしまいます。細見美術館での個展の準備をしながら、ああ自分が吸収してきたのは琳派の世界なのだと、改めて感じていました。

石本の工房には多くの作品が並んでいる。 石本の工房には多くの作品が並んでいる。

石本の工房には多くの作品が並んでいる。

高校生時代から日本の古典に触れていたことも思い出しました。その頃手にとっていたのは清少納言の『枕草子』で、当時の生活や周囲に対する着眼点に興味を持って読んでいました。俳句では与謝蕪村にひかれていました。大らかであると同時に実に視覚的、絵画的な描写でもある。蕪村の俳句を読んでいると、頭のなかに風景が広がります。

ヤマモモの大皿。 ヤマモモの大皿。

ヤマモモの大皿。

青い南天の実を描いた大皿。 青い南天の実を描いた大皿。

青い南天の実を描いた大皿。

京都展の開幕と東京展の準備のために前回日本に帰国したのは3月から4月、東京に移動した時にちょうど桜の花が満開でした。大学時代からの友人たちとも桜の花を目にしながらの楽しい時間を過ごすことができ、ヘルシンキにも来てくれている若いデザイナーの皆さんにもお会いしました。日本の四季の思い出でもある子どもの頃に目にしていた山や川、みかん畑の風景にこうして満開の桜の風景が加わりました。

オオイヌノフグリの葉や花をモチーフにした作品。 オオイヌノフグリの葉や花をモチーフにした作品。

オオイヌノフグリの葉や花をモチーフにした作品。


次の東京展の開催中に季節は夏になり、夏至を迎えます。フィンランドでは夏至祭は大切な日で、私もマリメッコで夏至祭を題材にしたテキスタイル・デザインをしていました。マリメッコの創設者であるアルミ・ラティアのサマーハウスで、皆でにぎやかに夏至の日を祝ったことも良い思い出です。この時期の私の好きなフィンランドの花はコイランプツキ。雑草の一種ですが、その姿や白い花には原初的な美しさが宿っています。夏至祭が近づくと青空市場はこうした素朴な花束を売るおばさんたちがいて、私も毎年花を買いに行っています。

石本の作品には実を描いたものは多い。 石本の作品には実を描いたものは多い。

石本の作品には実を描いたものは多い。

石本が育った愛媛での風景をイメージさせる果実。 石本が育った愛媛での風景をイメージさせる果実。

石本が育った愛媛での風景をイメージさせる果実。

丸みのあるデザインが愛らしい、手のひらサイズの蜜柑。 丸みのあるデザインが愛らしい、手のひらサイズの蜜柑。

丸みのあるデザインが愛らしい、手のひらサイズの蜜柑。

日本の初夏というと、まずはやはり水田の風景でしょうか。アラビアのアート部門に工房を設けて一年目の個展の際に陶の筏をつくり、水の上に草を敷いて筏を撮影した写真を案内状にしたことがありました。水田の溝を流れる澄んだ水に笹舟を浮かべて仲間たちと順位を競った、水遊びの記憶をもとにした作品です。

いま、さまざまな実を陶でつくるなかで、実家にあった山桃の樹に登ったことも思い出しました。私にとっての日本の初夏の風景は、樹のうえで手にしたころんとした実の重さ、口いっぱいに広がったみずみずしい山桃の味とともにあります。

 

→次回は、鈴木マサル(テキスタイルデザイナー)です。
(敬称略)

Profile

石本藤雄 Fujiwo Ishimoto
テキスタルデザイナー・陶芸家 
1941年愛媛県生まれ。砥部焼の窯元があった場所に育ち、家業のみかん栽培を手伝いながら、家の中でいつも何かをつくっている子どもだった。東京藝術大学美術学部工芸科を卒業後、市田株式会社で広告デザイナーとして活躍。1970年に退社後、世界一周旅行の途中で降り立ったのがヘルシンキで、今でもフィンランドに暮らす。1974年にマリメッコに入社し、2006年の定年退職まで勤務。手がけたテキスタイルデザインは400点以上。作陶は同社勤務中の1980年代から始め、1989年よりフィンランドの老舗陶器メーカー「アラビア」のアート部門の一員として作品制作を続けている。1994年にフィンランドの「カイ・フランク賞」、2010年にはフィンランドの芸術家に贈られる最高位の勲章「フィランド獅子勲章プロ・フィンランディア・メダル」受勲。2011年に旭日小綬章を受章。愛媛の道後温泉にあるホテル「茶玻瑠」の最上階フロアをプロデュースしている。

 

 

「石本藤雄展 — マリメッコの花から陶の実へ — 」
愛媛県立美術館、京都・細見美術館に続いて、第3弾が東京で開催される。開催中は石本藤雄によるトークやデモンストレーションなどのイベントも開催予定。
日時:2019年6月19日~6月30日 11:00~20:00
場所:東京都港区南青山5-6-23 スパイラルガーデン(スパイラル1階)
https://www.fujiwo-ishimoto.com/

text by Noriko Kawakami
Photography by Chikako Harada

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