工芸が華開く町、金沢へ
日本で唯一、工芸を専門とする国立美術館として東京・北の丸公園で親しまれてきた東京国立近代美術館工芸館。2020年、石川県金沢市に移転、同年10月に開館した。21年4月から正式名称が「国立工芸館」となった。多くの伝統工芸が息づく古都にして、世界の美術ファンを魅了する現代芸術の町でもある金沢。この地にふさわしい新名所として工芸館はあらたな幕開けを迎えた。現在、開館記念展の第三弾として7月4日まで、「近代工芸と茶の湯のうつわ―四季のしつらい-」展が開催されている。
金沢市の中心部、兼六園に隣接し、多くの美術館・博物館が建ち並ぶエリアにある国立工芸館。明治後期に建てられた旧陸軍施設「旧陸軍第九師団司令部庁舎」(向かって左)と「旧陸軍金沢偕行社」(右)を移築・活用し、2020年に開館した。外観は建築当時の色を復元、内部は優美な装飾を残して改装されている。 photo Takumi Ota
写真左:金子潤による大型の陶芸作品がエントランス正面の中庭に置かれ来館者を迎えている。写真右:明治の面影を残す展示棟の2F階段ホール。 photo Takumi Ota
各時代の感性を映しだす、茶の湯のうつわ
日本の工芸の発展の背景には、茶のうつわや道具を作る人が多く存在し、それぞれの素材による技法や造形美が磨かれ、輝き、発展してきたという。奥の深い自己表現として、日本の総合芸術として、なにより人と人が心を通わせる場として、今また注目される茶の湯。
今展は、そこに置かれる茶の道具を通し、近代~現代までの美意識の変遷と、作り手の想いを探る展覧会だ。「作家個人の想いを形にした作品」を中心に、使い手からの「見立てのうつわ」も並べ、器種ごとと、四季の取り合わせを展示。多彩な作品群を鑑賞する純粋な歓びに加え、好みの道具に心奪われ、自分のものにし使ってみたい、という思いにも駆られる展覧会だ。
(左)荒川豊蔵《志野茶垸 銘 不動》1953 年頃 東京国立近代美術館蔵 撮影:エス・アンド・ティ フォト
(右)茶道具の花形ともいえる茶碗。桃山時代に日本で誕生した「志野」は、今に至るまで多くの陶芸家と茶人の双方を魅了してきた焼き物。今展は、異なる作家の志野茶碗をずらりと並べ、それぞれの志野に込められた想いを探る展示からはじまる。加藤唐九郎《鼠志野茶盌 銘 鬼ガ島》1969 年 東京国立近代美術館蔵 ともに撮影:エス・アンド・ティ フォト
巨匠から、今が旬の作家まで
展示されているのは茶碗、水指、茶入・茶器、花器、釜・風炉、香合、茶杓、その他、茶を楽しむための道具の数々。近代の巨匠から今が旬の作家まで、茶箱から茶室空間でのトータルなしつらえまで幅広い。同じ役割を果たす道具でも、大きく異なる造形美を楽しめる。
ともに抹茶を入れる茶器。写真左:漆聖と讃えられた金沢出身の人間国宝・松田権六による雅な棗。松田権六《蒔絵松桜文棗》1969 年 東京国立近代美術館蔵 撮影:大屋孝雄 写真右:大胆な造形のモダンな茶器。黒田辰秋《金鎌倉五稜茶器》1980 年頃 東京国立近代美術館蔵 撮影:エス・アンド・ティ フォト
ともに水を入れる器、水指。それぞれに明快な個性が宿る。写真左:田口善国《水鏡蒔絵水指》1970 年 東京国立近代美術館蔵 撮影:大屋孝雄 写真右:三輪休和《萩編笠水指》1975 年 東京国立近代美術館蔵 撮影:エス・アンド・ティ フォト
茶の湯を自由に楽しむ
長い道すじの中で磨かれてきた茶の湯には、理にかなった喫茶の作法、道具の取り合わせの形式がある。だが今の時代、もっと自由に楽しんで欲しい――。今展にはそんな思いが込められている。
「昭和初期、特にうつわでは桃山時代の焼き物が手本にされました。古典から出発し、やがて平成には作家の美意識や個性が表現されるようになります。400年前の桃山時代のうつわも、当時はコンテンポラリーでした。今は、今作られたものに注目したい。そうでないと残っていきません。茶の湯をもっと自由に各人の感性で楽しもう、と発信したいのです」と国立工芸館長の唐澤昌宏氏は語る。後編では、その言葉に応える“茶のある場”の新しいかたちを探る。
写真左:古典的な茶箱の取り合わせの展示。写真右:左側のルーシー・リーの小さな花瓶は金平糖などを入れる「振出し」に見たて、茶箱に取り合わせて。
「近代工芸と茶の湯のうつわ―四季のしつらい-」
国立工芸館 石川県金沢出羽町3-2
2021年4月29日~7月4日 9:30~17:30
*6月13日まで臨時休館中(6月14日以降の開館状況は公式サイトなどで要確認)
オンラインによる事前予約制(日時指定・定員制)
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