「鋏菊」の手法による、華麗な菊の菓子の数々

Experience

Spotlight Vol.2

「菓道一菓流」宗家 三堀純一

2019.5.14

食され、消えゆくものに最善を尽くす。
その姿勢に日本の精神性や美意識がある
「菓道一菓流」宗家 三堀純一(後編)

「鋏菊」の手法による、華麗な菊の菓子の数々

国と世代を超えて共鳴する、菓子への愛情。
フランスのショコラティエを魅了する菓道。

世界を巡り、和菓子文化を独自の表現で伝えている三堀純一の活動と創作を讃えるひとりに、フランスのショコラティエの巨匠、ニコラ・ベルナルデがいる。MOF(フランス国家最優秀職人賞)を受賞し、パリ郊外の静かな町にショコラと菓子のシックな店を構える人だ。2019年1月のサロン・デュ・ショコラ東京でのイベントの一環で、三堀とベルナルデのトークショーが開催され、個人的にも親しいふたりが互いを語った。

 

「三堀とは3年前に知り合い、フランスの私の店で和菓子の講師を務めてくれました。小豆をゆっくり練り上げるなど、まろやかで繊細な和菓子づくりの裏には大変な苦労がいることを知りました。自分の感性と道具を武器に、優雅な菓子を作り上げる彼の技は驚嘆に値し、私も多くを学びました。三堀のガトー・ジャポネと出合えたことで日本の文化をより深く知ることができ、友人となれたことを嬉しく思っています」(ベルナルデ)

 

「巨匠に褒められると困惑してしまいます。彼には、パリのサロン・デュ・ショコラで日本酒・獺祭の甘酒を使った錬切を食べてもらったのが最初の出会いでした。ニコラは地元で愛され、人を大切にし、料理にも菓子にも深い愛情があり、それが彼の菓子に表現されています。和と洋で表現は異なりますが、道具や菓子に対する思いは同じ。最も尊敬する菓子の世界の先輩です」(三堀)


フランスをイメージして作られた菓子。「自由・平等・博愛」を表現している。 フランスをイメージして作られた菓子。「自由・平等・博愛」を表現している。

フランスをイメージして作られた菓子。「自由・平等・博愛」を表現している。

“菓道”は、和菓子を新しい形で世界に伝達するためのもので、その源泉には茶道があり、茶道には武家流もある。三堀は、武士のたしなみでもあった茶の湯を、現代の菓子の世界にも映し参考にしたいという。ベルナルデのあたたかで誠実な人柄、凛とした創作と仕事への姿勢に、三堀が思い描く武士の面影、騎士道の精神が感じられると語って、エールを送りあった。


斬新さだけでなく守破離の“守”も大切に
陰翳に美を見出す感性

和菓子を通して世界の人に伝えたい日本の感性とは、端的に、この国の美意識の根底にある「わび」「さび」だと語る。

「アジア各国にもわび、さびがあると感じますが、日本は江戸時代、世界からある程度閉ざされた島国の中で、この感性が磨き抜かれたのでしょう」。「わび」「さび」は曖昧な言葉だが、例えれば、洋菓子は太陽で、心を躍らせ高揚させる菓子。一方、和菓子は月で、静けさの中に心引き込まれる情緒をたたえ、心を安堵させる菓子だと三堀はいう。

 

立体的で複雑な造形を自在に生み出す三堀は、和菓子に宿る影、そこに漂う深い情緒を大切にしている。自ら菓子を作り、その作品をあらゆる角度から見つめる者ならではの感覚だ。「谷崎潤一郎の『陰翳礼賛』にも通じますが、和菓子には影がある。柔らかかったり鋭かったり、その小さな陰影にも、日本人は、静けさや落ち着きを見出してきたと感じます」。

三堀のアイコン的な作品「八咫烏(やたがらす)」(Tripedal Crow) 三堀のアイコン的な作品「八咫烏(やたがらす)」(Tripedal Crow)

三堀のアイコン的な作品「八咫烏(やたがらす)」(Tripedal Crow)


野に咲くバラのような可憐な印象。菓銘「薔薇」 野に咲くバラのような可憐な印象。菓銘「薔薇」

野に咲くバラのような可憐な印象。菓銘「薔薇」

「わび」「さび」が内包するもうひとつは、はかなさだ。「石の文化とは異なり、日本の木や紙の文化は朽ちていき、やがて終焉を迎えます。そこに共感や共鳴を覚え、今すぐなくなるものに最善を尽くす、という精神性もまた日本らしいと感じます。菓子もなくなるもの。命があるものは終わりを迎える、そのことわりを表現するのが、わび、さびだと感じます」。

 

最後に、今後の展開や、今の和菓子に対し思うことを聞いた。「海外に頻繁に出るようになって感じるのは、自国の文化に誇りを持ちたいということです。和菓子もどんどん変化しますが、守破離の“守”の部分を忘れず、謙虚に伝統や文化を受け止めて前進したい。今の日本人に和菓子のすばらしさを伝えるのは外国人に伝えるのと同じです。だからこそ和菓子を食の文化としてだけでなく、体験できる文化として伝えたいのです」。マスカルポーネを使った和菓子があってもいい、しかし和菓子として守るべき部分は守る、という姿勢を貫く。

 

今後は、城や教会、寺院、美術館などを舞台に、空間そのものと共鳴するライブイベントを目指している。「和菓子は小さいけれど、それぞれの時空、人の心、日本の古今の美意識を凝縮し、無限に映しだすことができるものだと確信しています」。

 

和菓子ひとつ――。その形、色、風味、輝きと影、作り手が込めた想いによって、小さな菓子は、静かに豊かに、日本の感性を語りかけている。


和菓子の昨今

日本の人々は古くから、小さな菓子の中に四季の風景を映しだし、風雅に楽しみ、季節の移ろいを五感で味わい、茶のひとときに安らぎや楽しみを見出してきた。

 

「菓子」とは古代、果物や木の実を意味した。やがて仏教伝来やポルトガル船の来航などによって諸外国から多様な菓子がもたらされ、日本各地の特産物による菓子も登場。室町から江戸初期にかけて、まんじゅう、落雁、羊羹が完成した形で世に出る。

 

茶の湯の発展とともに元禄文化の中でとりわけ華やかさを増し、見て美しく、食べて美味しく、豪華に、時につつましく、多様な姿で茶に寄り添ってきた。昔から変わらない定番が愛される一方、外国の文化や食材を形や風味に取り入れて、今も和菓子は進化と変化を遂げている。

みずみずしさが伝わる錦玉羹(きんぎょくかん) 菓銘「波(Wave)」 みずみずしさが伝わる錦玉羹(きんぎょくかん) 菓銘「波(Wave)」

みずみずしさが伝わる錦玉羹(きんぎょくかん)
菓銘「波(Wave)」

和菓子ジャーナリストの高 由貴子さんによれば、「日本では伝統的に奥ゆかしさを美徳とし、匿名性を大切に、和菓子に個人を表現することはありませんでした。しかしここ10年ほどは個人で和菓子を製作する職人や作家が登場しています。今の若い人は外国人と同じ視線や感性で和菓子を見ているため、新鮮な魅力も感じるのでしょう。」

 

「和菓子にハーブや香辛料を使う、和菓子と日本酒を合わせて楽しむなど、自然発生的な新潮流も見られます。まずは、日本の風土で生まれた自然の素材で作られた、心と体がほっとするような和菓子を楽しんで欲しいですね。味覚を磨いてこそ、ごまかしのない美味しい和菓子を楽しめると思います」。

 

―――変化しながらも長い間、陰で作られ、ひっそりと茶室の席で、また親しく家庭の茶の間で楽しまれてきた和菓子。人前で菓子作りを披露し、その空間とも呼応する創作、という大胆な試みを実現する三堀氏のような作家の登場で、和菓子は新しい舞台を迎えている。(敬称略)

 

 

三堀 純一 Junichi Mitsubori
菓道家 一菓流家元

1974年神奈川県横須賀市生まれ。東京製菓学校卒業後、実家が営む横須賀市の和菓子店「いづみや」で家業に従事し2003年に三代目を継ぐ。生菓子「煉切」が持つ表現力に引かれ、自らの煉切作法を「菓道 一菓流」として開派。和菓子作りを茶道のお点前のような美しい所作で行い、国内外の煉切ワークショップ等で菓道の世界普及に努める。2018年、初書籍『KADO-New Art Of Wagashi-』の日英版、日仏版、日中版を出版。2019年はカナダ、北米、日本各地でのイベントを開催予定している。
http://ichi-ka.jp

 

 

「菓道一菓流」宗家 三堀純一(前編)はこちら

 

Text by Misuzu Yamagishi
Photography ©︎ Junichi Mitsubori , Wagashi-Izumiya
Special Thanks to Kanami Okimura , Mitsukoshi-Isetan

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Spotlight Vol.2

2019.5.14

和菓子の魅力と美しさを世界に広める伝道者が語る独自の活動と、その作品に込められた美…

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