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現代に蘇る「和歌占い」の世界(後編)

2022.1.3

「和歌占い」が教えてくれる、今を生きる力



令和4年の年明けである。初詣で息災を願ってのち、おみくじの内容に一喜一憂された方も多いのではないだろうか?

室町時代から伝わる「歌占」を現代の「和歌占い」として蘇らせる平野多恵氏の試み。後編では、成蹊大学の学生たちと行っているさまざまなプロジェクトについて紹介する。



和歌を入り口に。現代を強く生きる力を鍛えていく

江戸後期に流通した『晴明歌占』は安倍晴明ゆかりの和歌占い本で、64首の和歌に番号が振られて収録されている。何かを占いたいときは、頭の中に質問を思い浮かべてから賽を投げ、該当する番号の一首を選ぶ。その歌が、質問に対する〝お告げ〟。成蹊大学の平野ゼミでは、占い師役と占われる客役との二人一組となって、和歌占いを実際に行うロールプレイも行っている。

 

「古典文学を能動的に学ぶアクティブラーニングの一環として行っています。学園祭では和歌占いブースを出店して、お客さんを実際に占ったりもします」



『晴明歌占』をひも解きながら占っていく。 『晴明歌占』をひも解きながら占っていく。

『晴明歌占』をひも解きながら占っていく。



学園祭で和歌占いを披露するために練習中。 学園祭で和歌占いを披露するために練習中。

「彼とケンカしてしまったんですけど、どうしたらいい?」という質問に、和歌から読み取っていく。学園祭で和歌占いを披露するために練習中。



そこで問われるのは、コミュニケーション力。占いを求める人が何に悩んでいて、どういった方向に解決していけたら嬉しいと考えているのか。それに即して和歌を読み解き、相手の心に寄り添うように解釈を伝えていく。

 

「和歌そのものの読み解きより、むしろその先の伝え方の方が大事かもしれません。どのように伝えたら相手の心に触れることができるのか。気持ちを動かすことができるのか。そのヒントは、和歌の中の言葉にあります。和歌を丁寧に解釈することは、人の心を理解することにつながっていきます」



古今和歌集の序文には「やまとうた(和歌)は人の心を種として、よろずの言の葉となりにける」という一文があるが、まさにその言わんとすることを和歌占いは教えてくれるという。

 

「文学部の勉強は役に立たない、と言われると悔しいんです。言葉は、人生の武器となります。壁にぶつかったり、現実を変えたいと思ったときに、言葉によって鍛えられた思考やコミュニケーションの力が、あなたを守ってくれます。そのことを、和歌占いを通じて学んでほしいですね」

 



「開運☆せいめい歌占」のトップページ。 「開運☆せいめい歌占」のトップページ。

成蹊大学文学部日本文学科ひらのゼミとジャパンナレッジのコラボで生まれた和歌占い「開運☆せいめい歌占」のトップページ。和歌占いが気になる方にお勧め。

 



学生たちと作った「和歌」が神社のおみくじに

 

東京・板橋区ときわ台の天祖神社では、和歌占いによって神様のお告げを受けられるおみくじを2014年より行っている。呪歌を唱えながら弓に結び付けられた短冊を1枚ひくと、そこには神様の名前が示されている。



天祖神社 おみくじ 天祖神社 おみくじ

天祖神社の小林美香宮司と平野氏がおみくじの共同研究のメンバーとして出会ったことがきっかけ。天祖神社と成蹊大学のユニークな連携プロジェクトとして注目されている。



「守護神が見つかる和歌占いです。引いたおみくじは、そのままお守りとして持ち帰ることができます。おみくじの共同研究で、天祖神社の宮司さんと出会ったことからこのプロジェクトが始まりました。少しずつ神様が増えていて、現在は20首から1枚を選びます」。

 

授与されるおみくじは神社で一つひとつ丁寧に奉製されており、手作りの温かみが感じられるものだ。このおみくじの和歌と解説を成蹊大学の大学院生が作成している。

 

「神様のご神徳を和歌にするにはどうしたら良いのか。国歌大観という古典和歌のデータベースを基に、膨大な和歌を検索しました。ご神徳や神話の内容をあらわすのにふさわしい表現を検討し、新たに和歌をつくっています。『室町時代から伝わるおみくじのルーツを体験できる』と、メディアなどでも取り上げられました」



ときわ台天祖神社 ときわ台天祖神社

弓の短冊を引いて神さまとご縁を結び、お告げをいただく。ときわ台天祖神社 板橋区南常盤台2-4-3 受付時間:9:00~17:00



その評判が話題となり、現在は武蔵野坐令和神社との共同プロジェクト「千年和歌みくじ」が進行中だ。神話の和歌から現代歌人まで千年以上にわたる古今の和歌から名歌を厳選したオリジナルな和歌のおみくじである。2021年12月24日に、全64首のうち35首のおみくじがリリース。同神社にておみくじを引くことができる。

 

おみくじは全64首の和歌からなり、A5サイズ。イラスト面と解説面で構成されている。和歌からメッセージをいただくおみくじで、吉凶はない。それぞれに現代語訳、歌の背景、歌のメッセージ、出会い運、クリエイティブ運、健康運、開運の鍵が記されている。

 

「和歌の選定や解説の執筆は、私とゼミ生が担当しています。神話や万葉集の歌から現代短歌まで、1300年を超えて続く三十一文字の歌の歴史の中からお告げにふさわしい名歌を選りすぐりました」。

 



イラストはイラストレーターの睦月ムンク氏 イラストはイラストレーターの睦月ムンク氏

イラストレーターの睦月ムンク氏によるファンタジックなイラストが美しい。



これまで何気なく引いていたおみくじ。明治時代以降、和歌からのメッセージに吉凶がプラスされ、私たちは一喜一憂してきた。本来は吉凶を知ることよりも、そこに書かれた意図を読み取り、自分の心に問い、向き合うもの。次におみくじを引くときは、和歌に込められた意味に想いを馳せてみよう。吉凶よりも深く、私たちの心にサインを送ってくれているはずなのだから。

 

 



平野多恵 平野多恵

平野氏とゼミ生の皆さん。(撮影のため、一時的にマスクを取っています)



平野多恵 Tae Hirano

お茶の水女子大学卒業、東京大学大学院博士課程終了。博士(文学)。成蹊大学文学部教授。専門は日本中世文学、和歌文学、仏教文学。和歌占いを通じた古典文学のアクティブラーニングを実践。神社と大学の共同プロジェクトとして「天祖神社歌占」を作成。

 

Text by Junko Morita
Photography by Natsuko Okada(Studio Mug)

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