横須賀の和菓子店の三代目。
シルクロードを西に進み、アジアからパリを目指す
和菓子の世界に彗星のように現れ、独自のライブパフォーマンスで和菓子づくりを披露し、観客を魅了する三堀純一。現在は日本とアジアを拠点に、世界各地でのイベント活動を精力的に展開している。
観客を前に披露される、三堀の“点前”とは―――。和の生菓子の素材のひとつである錬切(ねりきり)を手に、もみ上げながら形にし、平板や木べら、鋏や針などの道具を使い、時に可憐な、時に華麗でエレガントな花々や、季節を想起させる抽象的な菓子を作り上げるというものだ。卓上には、技を極めるため鍛冶職人に特注した、両刃菓子鋏などの道具類が整然と並べられている。
活動を本格的に開始したのは2014年からだが、2018年秋には、それまでの和菓子作品、道具や手法を掲載した美麗な書籍『Kado New Art of Wagashi』(nikko Graphic Arts) を出版。現在もさらに活動の枠を広げるべく世界を巡っている。
鍛冶職人に特注した、両刃菓子鋏などの道具類
菓銘「怪人(Phantom)」。三堀がパフォーマンス時に着けるマスクをイメージした菓子。
「生家は創業1954年の“和菓子司 いづみや”という横須賀の和菓子店で、幼い頃から自然におはぎを包んでいました。長男として家業を継ぎ、三代目となるのは当然、という家風の中で育ちました。小学校に入学する時、『目には見えないが、お前のランドセルには“いづみや”の紋章“桜の花に錨”がついていて、何をしても世間からは“いづみやの倅(せがれ)”という目で見られる。それを忘れるな』と父から言われたことを今もよく覚えています」。
将来を決められていることへの反発心から自由な生き方に憧れ、ミュージシャンを目指す。家業を手伝いながらもバンドを組んでフォークやロックを奏で、ライブ活動を盛んに行っていた。転機は27歳の時、米国オレゴンでの和菓子イベントに参加したことだった。
「米国の人々が、和菓子を芸術作品として受け止めてくれたことに衝撃を受けました。日本の伝統文化を誇りに思うと同時に、新しい形でのエンターテインメントとして自己を表現する可能性を感じ、日本に戻って技術を磨き、和菓子の花形である煉切を追及しました。父は、お客様は神様、という律儀な商売人。一方で、父の師匠は凄腕の和菓子職人。双方から商売と職人としてのスキルを学べたことも強みになりました」。
店や屋号でなく、個としての表現の可能性を見出して本気で和菓子に向き合いだしたころ、同世代の和菓子仲間はすでにステータスを挙げていた。焦りもあったが、音楽活動でスポットライトを浴びていたことも経験値となり、現在のショーアップされたイベントに活かされているという。27歳で店を任され、メディアにも登場し、自身の力も個性も深まり、世界へと気持ちが向く。
「世界に出るなら真っ先にパリへ、フランスで評価されたい。しかし知人に、パリには呼ばれるまで行くな、と言われ、まずはアジアで暴れようと。中国、香港、ベトナム、タイなどを巡り、シルクロードを西に行き、パリに到着しました」。2017年10月、国際的なチョコレートの祭典サロン・デュ・ショコラに和菓子職人として初出展して注目され、2018年秋には5日間にわたり毎日パフォーマンスを繰り広げるに至った。
針も鋏も特注の道具を駆使し、菓子をつくる
一期一会のパフォーマンスで、
心と感性を共鳴させる
三堀純一が今までにない形で和菓子の表現を極める背景には、こんな思いがある。「和菓子業界は衰退する一方です。洋菓子の世界ではパティシエは夢や憧れの存在であり、ヒーローやヒロインになれる。しかし和の世界では美徳として、自己より“のれん”を大切に、個を表現することをしません。町中の和菓子店では、おはぎから赤飯まで幅広く扱って売っている。それもいいのですが、個の名前で勝負するなら、より専門的になればよいと考え、手形煉切に絞って作家になろうと思ったのです」。
ここ3年間は意図的に海外での活動を優先し、日本には年に100日ほどの滞在だ。そんな中、2018年12月、東京代官山で「菓舞伎 Xmas Live in Tokyo」と題するライブイベントを開催。日本では希少な機会のため多くの客が来場し、関心の高さをうかがわせた。
三堀は黒の和装に武道の防具をアレンジした般若風のマスクを着け、無言で登場。「和敬清寂」の文字を背景に、華麗な技でひとつの菓子を数分で仕上げ、小1時間の間に7個の美しい煉切菓子を披露した。菓銘は、天使の羽、雪輪、聖夜、クリスマスツリー、ポインセチア、十字架など、クリスマスをモチーフにしたものだ。こうしたライブイベントの折は、どれほど準備して臨むのだろうか。
鋏で花びらを一枚一枚、精巧に切り出し、咲き誇る菊を表現した練切菓子
「事前に決めず、直前に頭の中でデザインし、感じたことを土壇場で表現します。パフォーマンスは心の舞台であり、見る人との共鳴です。緊張しますがピンと張り詰めたままでなく、時に揺らぎます。その場で起こることを大切に、感性を共有したい。たとえ失敗しても慌てず流麗に、観る人の興をそがないよう努めます。ゲストに楽しんでいただくためのライブですが、自分自身が一番楽しんでいます」。
披露される点前は日々変化し、茶道の師匠からも教えを請い昇華させている。和の黒装束は日本のポップカルチャーのアイコンのようで、能面のようなマスクにも賛否両論あるというが、見た目から入ることも大切だと考えている。(敬称略)
三堀 純一 Junichi Mitsubori
菓道家 一菓流家元
1974年神奈川県横須賀市生まれ。東京製菓学校卒業後、実家が営む横須賀市の和菓子店「いづみや」で家業に従事し2003年に三代目を継ぐ。生菓子「煉切」が持つ表現力に引かれ、自らの煉切作法を「菓道 一菓流」として開派。和菓子作りを茶道のお点前のような美しい所作で行い、国内外の煉切ワークショップ等で菓道の世界普及に努める。2018年、初書籍『KADO-New Art Of Wagashi-』の日英版、日仏版、日中版を出版。2019年はカナダ、北米、日本各地でのイベントを開催予定している。
http://ichi-ka.jp
Photography ©︎ Junichi Mitsubori , Wagashi-Izumiya
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