京都にはまだ知られていない魅力溢れる地、京都府北部の『海の京都』の美しい風景を紹介する。今回は日本のヴェネチアと呼ばれている「伊根の舟屋」である。海に建物が浮かぶように見える町は息を飲むほどに美しく、そして穏やかな時間に包まれて心も体もリフレッシュできるようだ。海の京都へは京都市内から丹後エリアを結ぶ京都丹後鉄道の特急列車「丹後の海」や観光列車を利用するのもおすすめである。
見たことのない風景と出合える町。
日本のヴェネチアと呼ばれる「伊根の舟屋」
穏やかな海に整然と並ぶ「伊根の舟屋」。ここには世界から観光客が訪れる。
天橋立から丹海バスもしくは車で約30分行くと、日本にはこんなにも美しい景色があるのかと驚く風景に出合う。ここは伊根湾を望む約5kmの中に、約230軒の建物が海に浮かぶように建ち並ぶ「伊根の舟屋」である。大きくせり出した半島と湾に浮かぶ青島が防波堤の役目をしていることから、湾はとても穏やかで漁に最適な環境であった。まさにここは海と共に生活するために進化していった街なのである。
毎年7月に開催される「伊根祭」で使用される舟。海上安全や大漁祈願するこのお祭りは、「海の祇園祭」とも呼ばれている。
左に見えるのが伊根湾に浮かぶ「青島」。伊根祭の際には若い衆が青島へ舟を出す。
風情ある町並みを散策するのも楽しい。
舟屋は1階が舟のガレージ、2階は居室になっている。海に浮かぶ住居は海水に強い木材が使われた伝統的な建物構造であり、現在は国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されている。
その昔、ブリの大漁が続き、伊根は大変裕福であった。大漁がもたらす富により、多くの住居や寺院などが一斉に建設され、それによって統一された美しい伊根の町並みが生まれたのだと言う。現在でも伊根ブリは有名であり、他にもアジ、マダイやスズキなどが水揚げされる。しかし、漁だけで生活をする家は減りつつある。
ところが近年、SNSなどを通じて伊根町の美しい風景が世界中に知られることとなり、コロナ前にはさまざまな国の観光客が押し寄せた。そこで舟屋を一棟貸しの宿に模様替えしたり、レストランやカフェが作られたり、観光客が楽しめる空間へと生まれ変わり、町へ活気を戻すきっかけとなった。
舟屋の1階の窓辺に立てば、目の前は静かなさざ波を奏でる小さな入り江。自分が入り江と一体となったと錯覚するほど海と近い。視線の先にある、海をただ眺めているだけで心が豊かになる、そんな体験ができる、ここは本当に美しい町である。
温泉露天風呂のある宿「風雅」。1棟1組限定。
1日1組限定の宿「鍵屋」。伊根湾で採れた旬の魚が味わえる。
伊根町観光交流施設「舟屋日和」。
「舟屋日和」には、「INE CAFÉ」や鮨割烹「海宮 WADATSUMI」がある。写真は「海宮」のランチセット「わだつみ寿司御膳」3,300円。
伊根町観光協会
京都府与謝郡伊根町字平田491
海の京都は京都市内から少し足を運ぶことにはなるが、そこには自然が作り出した神秘的な絶景が広がっている。潮の香りや波のせせらぎ、木々の揺らぎなどをただ見つめているだけで、心が安らぎ、明日へのエネルギーへとつながっていく。新しい京都の魅力を探す旅へ出かけてみてはどうだろうか。
photography by Natsuko Okada
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