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特別な体験に溢れている「海の京都」3

2022.7.8

「海の京都」から世界へ発信 素晴らしき味とモノに出合う旅

コースには8,250円、11,000円がある。8,250円コースの前菜盛り合わせ。素材の旨味とソースの味わいのハーモニーが絶妙。


京都府北部にある『海の京都』と呼ばれる地域には、日本の文化や技術を世界へ向けて発信するレストランやブランドがある。今回は、日本が長く大切に守り続けてきた精神と素晴らしいセンスを感じる2つのスポットを紹介する。海の京都を訪れた際にはぜひ立ち寄って欲しい。

 

丹後とイタリア料理のフュージョンが生み出す、「aceto」の新発想

 

海の京都を旅するなら、まずは京都駅から宮津駅まで移動して旅をスタートさせよう。宮津まではレンタカーや高速バスを利用するか、JR山陰本線で福知山を経由して京都丹後鉄道宮福線を利用することができ、約2時間弱で到着できる。その日は宮津駅周辺や天橋立で宿泊して、夕食は宮津駅近くにあるレストラン「aceto(アチェート)」へ出かけて欲しい。

 

このレストランを経営するのは宮津で1893年創業の「飯尾醸造」である。「富士酢」と言えばわかる人も多いだろうか。栽培期間中農薬不使用栽培の米を「米酢」と表示できる5倍の量を使用し、一年をかけて、昔ながらの手法で酢酸発酵や熟成を行っている。その丁寧な仕事が生み出す味わい、独特な芳醇な香りは料理人やグルメたちに高い評価を受けている。



京都丹後鉄道宮津駅から徒歩10分、天橋立から車で5分の地にある「aceto」。 京都丹後鉄道宮津駅から徒歩10分、天橋立から車で5分の地にある「aceto」。

京都丹後鉄道宮津駅から徒歩10分、天橋立から車で5分の地にある「aceto」。



飯尾醸造がなぜレストランをスタートさせたのか。天橋立を有する宮津ではあるが、観光客の多くは宿泊や食事をすることはなく、少し立ち寄るだけの街であったために、段々と活気が失われていった。そこで飯尾醸造の5代目当主飯尾彰浩は、新鮮な食材と素晴らしい大自然に囲まれた宮津の地を世界へ広めるために、丹後食材を使った美味しい料理を提供するacetoをスタートさせたと言う。宿泊や食事を目的とした観光客が増えれば、街には賑わいが戻り、そして新たな雇用も生まれる、そんな街の復興を願っての一歩がacetoだった。



aceto 中庭 aceto 中庭

レストランから中庭を見る。



建物は120年前に建てられた商家をリノベーションした風情のある佇まい。店内には当時の床の間や欄間、襖や障子などをそのままに、テーブルは酢蔵の古い欅の「搾りフネ」をリメイクしてあるなど、洗練された空間も一見の価値がある。

 

料理を担当するのは、東京・神泉でイタリア料理「アルキメーデ」のオーナーシェフを務めていた重 康彦(しげ やすひこ)である。イタリア・シチリアで料理を学び、東京で修行を積んだ後、アルキメーデをオープン。飯尾彰浩がレストランをオープンさせるに当たり、重に白羽の矢を立てた。「丹後は自身には馴染みのない地でしたので正直悩みました。しかしお米や魚介、野菜など、どの食材も素晴らしい。また町おこしをしていきたいという地元の人たちの思いにも心打たれました」と重は語る。

 

「東京ではなく宮津でイタリア料理を作るなら、丹後の食材を使って、そして飯尾醸造のお膝元であることを活かした新しいイタリア料理を作りたいと考えました。酢を使う料理もありますが、酢をもっと幅広く捉えて、酢を製造する際に出る米ぬかや酒粕などを使ったり、発酵を活かしたり、新たな発想と知識、経験を存分に活用した料理を提供しています」と話してくれた。新鮮で贅沢な食材を良心的な価格でいただけるのも地方ならではの魅力であろう。



スペシャリテのひとつ、玄米リゾット。ブロードで炊いた玄米に煮詰めた魚の出汁をかけて味わう。 スペシャリテのひとつ、玄米リゾット。ブロードで炊いた玄米に煮詰めた魚の出汁をかけて味わう。

スペシャリテのひとつ、玄米リゾット。ブロードで炊いた玄米に煮詰めた魚の出汁をかけて味わう。



重シェフ 重シェフ

acetoの重 康彦シェフ。



aceto

京都府宮津市字新浜1968
TEL 0772-25-1010
営業時間:18:00~23:00(最終入店20:30)
定休日:毎週月曜日・火曜日

 

 

日本の伝統技術、丹後ちりめんの魅力を世界へ
「KUSKA」が挑む、オールハンドメイドの世界





丹後半島の先端に位置し、京都丹後鉄道与謝野駅からタクシーで10分ほどのところに重要伝統的建造物群保存地区に指定されている「ちりめん街道」がある。丹後ちりめんの商家や工場、銀行やかつての駅舎などが建並び、今も当時のままの建物が多く残されている。与謝野町は古来より、高級絹織物「丹後ちりめん」の生産が盛んな地で、その数は減っているものの現在でも機織りの音が響いている。

 

 

丹後ちりめんとは丹後地域を中心に生産され、表面にシボと呼ばれる細かい凹凸がある織物のことである。経糸 (たていと) と生糸を強く撚った  緯糸 (よこいと)を交互に織ることで表面によって生まれたシボは、シワになりにくく柔軟性を作り出す、さらに凹凸の乱反射は染め上がりの色合いを美しく表現していくのである。丹後地域で織られたちりめんは、京都の問屋から各地へ広まり、そこで染色が成されていく。つまり丹後ちりめんは日本の着物文化を支えている絹織物なのである。



全ての工程を手仕事で行なっているKUSKA。 全ての工程を手仕事で行なっているKUSKA。

全ての工程を手仕事で行なっているKUSKA。



丹後ちりめん生産量は1973年には約920万反だったが、2019年には約30万反程度となり、2020年にはコロナの影響で約15万反まで落ち込んでいる。1936年に丹後ちりめんの製造・販売業をスタートしたクスカ株式会社もライフスタイルの変化から厳しい状況が続いていたがそんな中の2008年、3代目楠 泰彦は代表取締役に就任をした。楠は300年の歴史を持つ丹後ちりめんの技術と文化を、今の時代が求めるものへどう進化させていくか、そこが大きな課題であったと語る。



KUSKAには若手の職人の姿が多いのが印象的である。 KUSKAには若手の職人の姿が多いのが印象的である。

KUSKAには若手の職人の姿が多いのが印象的である。



「私が家業を継ぐことに対して両親は反対でした。それほど先行きが見えない状況でした」と楠。会社を存続させるために、まず会社が所有する織機などを処分して資金を作り、現代のライフスタイルに適した商品づくりについての準備を進めていった。丹後ちりめんの技術と魅力は必ずや世界に認められる、その自負が心の支えになっていた。そして2010年に老舗手織りメーカー発のブランド「KUSKA(クスカ)」をスタートさせた。
「デザインありきではなく、素材がデザインを作り出す。これが私たちのモノづくりです」。その言葉通り、KUSKAの商品は丹後ちりめんの技術とモダンデザインが見事に融合した美しい商品ばかりである。



職人が1本ずつ手仕事で仕上げていく。 職人が1本ずつ手仕事で仕上げていく。

職人が1本ずつ手仕事で仕上げていく。



鮮やかなブルーとしなやかな風合いが美しい。 鮮やかなブルーとしなやかな風合いが美しい。

鮮やかなブルーとしなやかな風合いが美しい。



工房の横にはショップがある。 工房の横にはショップがある。

工房の横にはショップがある。



かつては、製造したちりめんは問屋へ卸して商売をしていたが、KUSKAは糸作りから染め、織り、仕上げにいたるまで すべてオールハンドメイドにこだわっている。そのため1日に限られた数しか作ることはできないが、その丁寧なモノづくりがKUSKAの真髄なのである。KUSKAのネクタイを、一度手に取って欲しい。その鮮やかな色、風合い、しなやかさ、すべてが文句なく美しいのがわかるだろう。日本の丹後ちりめんの見事に進化した姿がここにある。

 

実は、楠が家業を継ぐきっかけとなったのは丹後ちりめんを世界へ発信したいという気持ちだけではなく、サーフィンもあると楠は笑う。長く野球に打ち込んでいた楠が大学時代にサーフィンに出合い、今でもライフワークとしている。長く故郷を離れていた楠は丹後の海の素晴らしさにも心惹かれたのだと言う。丹後の魅力をとにかく世界へ発信したい、そんな強い想いからWEBメディア「THE TANGO」もスタートされた。丹後の美しい写真が紹介されたサイトは旅のガイドにもなる。丹後を訪れる際には参考にしてみて欲しい。

KUSKAの工房は事前に予約をすれば見学も可能である。もちろんここでショッピングもできる。

 

クスカ株式会社
京都府与謝野郡与謝野町岩屋384−1


古の日本の暮らしが色濃く残る「海の京都」を3回に渡って紹介した。自然が作り出した美しい風景、伝統と革新が融合によって生まれたインスピレーションは、私たちの心に多くの事を教えてくれルはずだ。ぜひ、まだ知らない京都の新しい魅力を見つける旅へ出かけてみてはいかがだろうか。

 

Photography by Natsuko Okada

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