尾上流家元 尾上菊之丞   尾上流 尾上菊之丞の挑戦の序章~新作歌舞伎「刀剣乱舞」演出まで(後編)尾上流家元 尾上菊之丞   尾上流 尾上菊之丞の挑戦の序章~新作歌舞伎「刀剣乱舞」演出まで(後編)

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尾上流四代家元 三代目尾上菊之丞 未来への跳躍

2023.7.16

尾上流 尾上菊之丞の挑戦の序章~新作歌舞伎「刀剣乱舞」演出まで(後編)











2023年7月。新橋演舞場で公演中の新作歌舞伎「刀剣乱舞」の真っ最中だ。尾上流 四代家元の三代目尾上菊之丞さんは、歌舞伎役者の尾上松也さんとの共同演出として名を連ねている。それだけではない。菊之丞さんから、次から次へと新しい試みが繰り出されている。前編に引き続き、尾上菊之丞さんを突き動かす、その理由と情熱について聞いてみた。

 

 

➡尾上流 尾上菊之丞の挑戦の序章~新作歌舞伎「刀剣乱舞」演出まで(前編







振付師・演出家として続々と評判の舞台を手掛ける

 

 

2023年7月新橋演舞場で公演中の新作歌舞伎「刀剣乱舞」で、主演の尾上松也さんと共同で演出を担当している、日本舞踊・尾上流四代家元の尾上菊之丞さん。

 

 

「尾上松也さんとは、10歳くらい歳が違いますが、実は『おーい』と呼べば声が届くくらいのご近所さんとして育ちました。うちにもお稽古をしに来てくれていまして、彼が高校生くらいの頃から僕がみさせてもらっています。彼の歌舞伎自主公演『挑む』には第一回目から関わり、ファイナル公演では演出も担当させていただきました」

 

そして今回。尾上松也さんから菊之丞さんへこんな打診があったという。

 

「今回、松也さん自身も演出に挑戦したいと。そして一緒にやってくれないか、と彼が言ってくれたんです。後輩からも機会をもらう年齢になりました。有難いですね」

 

「刀剣乱舞」は、2023年春に企画・構成を手がけた新作歌舞伎「ファイナルファンタジーX」に続き、ゲームの世界観を歌舞伎の舞台にする新しい試みだ。








尾上菊之丞 尾上菊之丞

落語が好きと語る菊之丞さん。それもあってか、話の運びやリズムが軽快。周囲を和ませる力がある。






新しい挑戦の中で気づく、根底に流れる共通点

 

 

菊之丞さんは2017年に、フィギュアスケートと歌舞伎がコラボレーションするアイスショー「氷艶」も振付・監修している。「氷艶」は、男子シングル、および、先シーズンまでアイスダンスの選手として活躍していた高橋大輔さんが主演のアイスショー。日本舞踊の家元が、歌舞伎役者や舞踊家とも違う、フィギュアスケーターに振り付けることとは。アイスショーに関わるという挑戦は、菊之丞さんにとって、どんなものだったのだろうか。

 

 

 

「フィギュアスケーターはとにかくストイックなんです。高橋大輔さんたちの練習の様子を見ると、氷上ではなくまず床で、壁に向かって何回も何回も、振りを繰り返し練習していました。徹底的に振りを体にたたきこんでいくんです。彼らは、数分間の競技のために、年単位で命をかけて練習をする人たちです。たとえ寝ていてもできるくらいにならないと、不安にもなるでしょうし集中できないんでしょう。体という〝器〟を徹底的に鍛えていく、その作り方に感銘を受けました」







舞踊家や歌舞伎役者と、アスリートとの違い。それを垣間見ることができた。

 

 

 

「役者は、ひとつの舞台に何年もかけることはできません。3、4日で(準備を)やらなきゃいけない。踊りの振りでも、いざ舞台に立ち、アドレナリンがバンバン出る中で、その瞬間に生まれるものが醍醐味のひとつというのもあります。役になった魂から、自然と動きが出てくるのが役者さんの踊りなんです。でも、僕たち舞踊家は、役よりも動き。圧倒的に『舞踊家ですよ』という〝器〟を舞台で見せなければいけない。動き本位で、徹底的にお稽古場で反復して〝器〟を作ってから、そこに魂を入れていく。高橋大輔さんたちの練習を見て、そのことを再確認しました」

 






尾上菊之丞 尾上菊之丞

柔らかい所作と動じない体幹。異なる作用を合致させ、美しいひとつの踊りとなっていく。






挑戦の連続。
古典芸能の魅力を、もっと身近に、広く知ってもらいたいから

 

 

地元の新橋花柳界はもちろんのこと、京都・先斗町の芸妓衆のお稽古で東京と京都を行き来したり、その他振付、監修などでスケジュールは多忙を極める菊之丞さんだが、いろいろと挑戦していきたいという。その行動の幅は驚くほど広い。そのいくつかを紹介してもらった。

 

 

世界中がコロナ禍にあった2020年7月、日本舞踊・藤間流八世宗家・藤間勘十郎さんと一緒にオンラインサロン「K2 THEATRE」を始めた。

 

 

「世界中がコロナ禍で自粛を余儀なくされて、劇場での興行も中止が相次いでいた時期、藤間勘十郎さんとオンラインサロンを始めました。新作から古典まで撮りおろしの日本舞踊やライブ配信、伝統芸能解説、和楽器演奏などを行なっています。日本舞踊や伝統芸能についてのちょっとした知識を知っていただけば、もっと興味を持ってもらえるのではと考えました。コロナ禍以前は、インターネットで検索しても一流のものってなかなか出てこなかったのです。この配信をきっかけに日本舞踊を楽しんでもらう土壌が作れるといいですね。こちらを見てから劇場に行ったら、より楽しめる。そんな役割を担えたらと思っています」

 

 

 






藤間流 藤間勘十郎さんと尾上菊之丞さん 藤間流 藤間勘十郎さんと尾上菊之丞さん

藤間流 八世宗家  藤間勘十郎さんと。







また、大蔵流茂山千五郎家の能楽師狂言方、茂山逸平さんとタッグを組んだ「逸青会」も興味深い活動だ。2022年は、「連獅子」「泣尼」などの古典と合わせ、新作「きつね」を上演。花形の歌舞伎役者として話題の中村莟玉さんとともに舞台に上がった。

 

 

 

「尾上菊之丞と茂山逸平の二人会として、2009年から続けています。日本舞踊と狂言という異なるジャンルに生きるふたりが、ジャンルを超えて新しい可能性を追求しています。古典作品の上演に加え、単なるコラボレーションに終わらない新しい可能性を求めて毎回「舞踊狂言」として新しい作品を創作、発表しています」

 

 

 







「逸青会」 「逸青会」

2022年の「逸青会」舞台から、左から茂山逸平さん、中村莟玉さんと。新作「きつね」の一場面。2023年は、京都公演12月9日(土)、東京公演12月16(土)を予定している。







さらに今秋、演劇ユニット新派の子 錦秋公演 河竹黙阿弥没後百三十年「新編 糸桜」に出演する。黙阿弥の一人娘・糸を波乃久理子さん、河竹家に嫁ぐみつ役に大和悠河さんが共演する舞台だ。菊之丞さんの役どころは河竹家の養子となる繁俊。なんと菊之丞さん、初めてのストレートプレイの出演となる。

 

 

このほか、今年から「菊之丞 FAN CLUB」というオンラインサロンも始めた。動画を中心に、尾上流のことや公演のこと、自身の身の回りのことまで、菊之丞さんが気さくに話しかけてくれるような作りとなっている。まったく、身体がひとつでは足りないとはこのこと。一体この情熱は、原動力はどこからやってくるのだろう。

 

 

それは、日本舞踊を通じて古典芸能の魅力をたくさんの人に届けたいという想いがゆえのこと。

 

 

日本舞踊はじめ、伝統芸能に親しむ人は昔と比べれば減っている。そもそも欧米のように、誰もが気軽に劇場に足を運ぶという習慣も薄い。もちろん、現代の流れに合うような形で提示していく必要もあるが、まずは知ってもらうことが大切だ。基本的なことを知っていれば、伝統芸能はもっと楽しめるはずなのだ。

 

 

 

「日本舞踊はマイナーなものかもしれない。でも、もっと知ってもらいたいし、それだけの価値がある、という思いがあります。ささいなことからでもいい。興味を持ってもらわなくては。すべてはそこから始まります」と菊之丞さんは語る。舞踊家として、そしてその枠を軽やかに超えてさまざまな活動に精を出すのは、すべてが日本舞踊の未来のためなのだ。

 

 

現在、尾上松也さんと共同演出を担当した新作歌舞伎「刀剣乱舞 月刀剣縁桐(つきのつるぎえにしのきりのは)」を、新橋演舞場で上演中だが、もう次々と新しいプロジェクトが目白押し。息をつく暇もないほどの多忙を極める菊之丞さんだが、その表情はいつも飄々と明るい。

 

 

自由闊達に、境界と境界をふわりと行き来できるのは、その軽やかな印象の中に実は強い信念を内包しているからなのだろう。尾上菊之丞はどこまで行くのか。彼の描く未来図を、私たちもともに見ていこうと思う。




















洋服姿の尾上菊之丞さん 洋服姿の尾上菊之丞さん

洋服だとまたガラッと印象の変わる菊之丞さん。

尾上菊之丞 Kikunojo Onoe

 

1976年3月、日本舞踊尾上流三代家元・二代目尾上菊之丞(現墨雪)の長男として生まれる。2歳から父に師事し、1981年(5歳)国立劇場にて「松の緑」で初舞台。1990年(14歳)に尾上青楓の名を許される。2011年8月(34歳)、尾上流四代家元を継承すると同時に、三代目尾上菊之丞を襲名。流儀の舞踊会である「尾上会」「菊寿会」を主宰するとともに、「逸青会」(狂言師茂山逸平氏との二人会)や自身のリサイタルを主宰し、古典はもとより新作創りにも力を注ぎ、様々な作品を発表し続けている。また日本を代表する和太鼓奏者、林英哲氏をはじめとして様々なジャンルのアーティストとのコラボレーションにも積極的に挑戦している。

日本舞踊・藤間流八世宗家・藤間勘十郎さんとともに立ち上げたオンラインサロン「K2 THEATRE」や、「菊之丞FAN CLUB」へのお問合せは、尾上流公式サイトをご覧ください。













新作歌舞伎 「刀剣乱舞 月刀剣縁桐(つきのつるぎえにしのきりのは)」

歴史の改変をもくろむ時間遡行軍を倒すために、刀剣男士を成長させて、歴史を守る戦いに挑むという、人気ゲーム「刀剣乱舞 ONLINE」は、刀剣男士のモデルとなった刀剣ブームを巻き起こしました。これまでも舞台、アニメ、映画と、さまざまなジャンルで取り上げられ、今や日本が誇る人気コンテンツの一つとなっています。そしてこのたび、“刀剣乱舞”がついに新作歌舞伎として上演されます。歌舞伎の本丸に顕現する刀剣男士は、三日月宗近、小狐丸、同田貫正国、髭切、膝丸、小烏丸の六振り。題材となっているのは、十三代将軍足利義輝が討たれた“永禄の変”ですが、この歴史的事件を歌舞伎ならではの発想で大胆に脚色しました。尾上松也、尾上右近など、花形が一堂に会し繰り広げられる新作歌舞伎です。

◆新作歌舞伎 「刀剣乱舞 月刀剣縁桐(つきのつるぎえにしのきりのは)」

2023年7月2日(日)~27日(木)

【休演】10日(月)、18日(火)

昼の部 12時~
夜の部 16時30分~
※上演時間は幕間含め約3時間の予定です
劇場:新橋演舞場

チケットWeb松竹




Text by Junko Morita
Photography by Natsuko Okada(Studio Mug)

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2023.6.28

尾上流 尾上菊之丞の挑戦の序章~新作歌舞伎「刀剣乱舞」演出まで(前編)

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