グエナエル・ニコラグエナエル・ニコラ

Style

Portraits

グエナエル・ニコラが創る、情熱のリゾート

2020.7.24

グエナエル・ニコラが提案する、日本の次なるリゾートとは

ドルチェ&ガッバーナやフェンディなど、世界のハイファッションブランドの店舗、またGINAZA SIXやレストラン、ホテルなどのインテリアや建築から、プロダクトデザインに至るまで、幅広くデザインを手がけているデザイナーのグエナエル・ニコラ。20年以上、日本を拠点に活躍し、独自の視点で独創的な世界観を築いている。また日本の美意識、日本建築や文化を知り尽くし、自身のデザインと融合させることで、私たちにいつも新鮮な体験と驚きを与えてくれている。

「SEN RESORT」の全景。山に囲まれた建物は川の上に設計されている。 「SEN RESORT」の全景。山に囲まれた建物は川の上に設計されている。

「SEN RESORT」の全景。山に囲まれた建物は川の上に設計されている。

自粛生活が続くと、ふと自然が恋しくなることがある。これは、自然が脳へ良い影響を与える証であり、科学的にも実証されていることらしい。旅に出たい、温泉に入りたい、そんな欲求が高まる中、今までに見たことがない、あまりにもドラマチックなリゾートプロジェクト「SEN RESORT」を知った。これは、フランス人デザイナー、グエナエル・ニコラが率いるデザインスタジオ「キュリオシティ」が発表したリゾート構想で、実際には存在しない。しかしこのプランを見ると、日本の次なるリゾートの理想形が見えてくる。グエナエル・ニコラは、日本のリゾートには自然がもたらす鮮烈な体感と特別感が足りないと語った。

客室プラン。昼はソファがあったところから、夜は布団が出てくる。 客室プラン。昼はソファがあったところから、夜は布団が出てくる。

客室プラン。昼はソファがあったところから、夜は布団が出てくる。

「SEN RESORT」は、日本のホスピタリティと自然、
モダンデザインを融合した、新しいリゾートプロジェクト

「日本には素晴らしいホテルや旅館はたくさんありますが、自然が体当たりをしてくるようなドラマチックなリゾートはないように思います。私はフランス・ブルターニュの自然に囲まれた小さな町で育ったせいか、自然はただ美しいのではなく、もっと情熱的で過酷なものと感じています。しかし、だからこそ自然が放つエネルギーは力強く、私たちに大きなパワーを授けてくれるんです。疲れたとき、リフレッシュしたいとき、私はサーフィンへ出かけたり、家族と自然に囲まれた地に旅をしたりしました。その時選ぶのは、美しく整備された至れり尽くせりのリゾートではなく、切り立った崖や滝の横にある、そのままの自然の中にあるリゾートです。こういう場所で過ごした時間は、必ずと忘れられない思い出になると思います。日本には壮大な未開の自然がたくさんあります。そこに、キュリオシティのモダンデザインと日本の最高のホスピタリティを融合すれば、類を見ない新しいリゾートが創れると考えたのです」。


バースペース。滝を目の前にして、静かにお酒をいただく。 バースペース。滝を目の前にして、静かにお酒をいただく。

バースペース。滝を目の前にして、静かにお酒をいただく。

リゾートプロジェクト「SEN RESORT」にクライアントはまだいないが、場所が決まれば、その地に合わせて完成することは容易だと語る。
「SENはすべてにおいてドラマチック。エントランスとなるのは激しく流れる川の上にあるガラスの橋。レストランや客室、プール、スパなどは、すべて川に浮かぶ船のようですし、バーは水しぶきを上げる滝の目前にあります。どこにいても激しく流れる水と、迫りくる山がすぐそばに感じられる…、そんな迫力にきっと圧倒されると思います。ここでは雨も雪もそして風も、すべてがホテルの一部であり、ゲストはそれを身体で受け止めます。もちろん安全面はしっかり計算していきますので安心してください」。

客室のコテージが連なるヴィレッジ。 客室のコテージが連なるヴィレッジ。
客室のコテージが連なるヴィレッジ。橋を一部沈めることで、独立した空間をつくることができる。昼と夜ではその印象はガラリと変わる。 客室のコテージが連なるヴィレッジ。橋を一部沈めることで、独立した空間をつくることができる。昼と夜ではその印象はガラリと変わる。

客室のコテージが連なるヴィレッジ。橋を一部沈めることで、独立した空間をつくることができる。昼と夜ではその印象はガラリと変わる。

「ここは日本のリゾートですから日本建築の技法や精神性を生かしています。日本のお寺や旅館をイメージしてください。外からは内の広さや奥ゆきが分からず、中に入ると奥ゆきがあり、角を曲がるごとに見える景色が変わります。そして、窓の景色も外からは創造できなかった世界観がある。このしなやかな発想はとても新鮮で刺激的です。また狭い空間を有効活用するフレキシブルな暮らしも日本の特長。和室を襖で仕切って臨機応変に用途を変えたり、屋台はコンパクトで移動できたり、このアイデアもSENの客室に活かしました。時間や用途によって使い分けられるように、客室の畳の一部を上下させて、昼はソファ、夜は布団、またお風呂も必要なときに下から現れる設計です。3つあるレストランはまるで屋台のように、季節や用途で移動ができるので風景も変化します」。
一定期間を過ぎればこの建物はすべて撤去して元の自然に戻すと言う。自然を守りながら、自然を享受する。このフレキシビリティとフィロソフィーが、新しいリゾートには不可欠になるのかもしれない。


SORANO HOTELのロビーラウンジ。テントから昭和記念公園が見えるようなデザインになっている。 SORANO HOTELのロビーラウンジ。テントから昭和記念公園が見えるようなデザインになっている。

SORANO HOTELのロビーラウンジ。テントから昭和記念公園が見えるようなデザインになっている。

2020年6月に立川にオープンしたSORANO HOTELもグエナエル・ニコラのデザインだ。昭和記念公園を一望できる立地を存分に生かし、ロビーはグランピングを意識したテントをイメージし、ここも自然を体感できる空間になっている。特に圧巻なのが屋上のインフィニティプールだ。

屋上のインフィニティプール。目に映るのは目の前に広がる空と緑だけ。 屋上のインフィニティプール。目に映るのは目の前に広がる空と緑だけ。

屋上のインフィニティプール。目に映るのは目の前に広がる空と緑だけ。

「まるで空と一体化したようなプールに入ると本当に気持ちいいですよ。ここには余計なデザインはいらないと思います。自然に勝るデザインはありませんから、すべてのデザインを潔くよく引き算しました。引き算はデザイナーにとっては勇気ある決断なんですよ」。
“自然に身を委ねて、ありのままを受け入れる”そんなしなやか生き方も素敵だなと、グエナエル・ニコラは教えてくれる。彼が創り出す新しいリゾートに出かけることがいまから待ち遠しい。

 

 

(敬称略)

 

グエナエル・ニコラ
1988年 ESAG Penninghen インテリアデザイン科(パリ)、1991年ロイヤル・カレッジ・オブ・アート プロダクトデザイン科(ロンドン)卒業し、同年に来日。フリーランス活動を経て,1998年キュリオシティ設立。インテリア、建築から化粧品、グラフィックデザインまで幅広く手掛け、海外プレステージブランドのストアデザインをワールドワイドに展開している。作品集『CURIOSITY ESSENCE』(ロフト・パブリケーションズ)、『CURIOSITY SENSE』(パルコ出版)も刊行されている。

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