9歳での箏との出合い。それが人生の方向を大きく変える出来事となるとは、本人も家族も思いもしなかっただろう。だが、生活のほとんどを箏が占めるほどのめり込み、14歳で「全国小中学生箏曲コンクール」グランプリ受賞、16歳で「くまもと全国邦楽コンクール」最優秀賞・文部科学大臣賞を受賞するころには、家族からの反対をよそに、プロの演奏家になりたいという思いは募っていくばかりだった。
メジャーデビューと藝大進学
夢への一歩を踏み出して
チャンスは思いがけずめぐってきた。コンクールに優勝したことをきっかけに、日本コロムビアと契約。2017年、若干19歳でファーストアルバム「玲央1st」でメジャーデビューを果たした。翌2018年には早くもセカンドアルバム「玲央 Encounters:邂逅」を発表。東京藝術大学への入学という、かねてからの目標も叶え、家族からの反対の声もいつしか応援に変わっていった。
インターナショナルスクールの自由な風にあたって生きてきたLEOにとっては、藝大での学びの時間はちょっとしたカルチャーショックもあった。箏曲科では師弟関係やしきたりを学ぶ場面もあるためだ。たとえば1年生の時に必ず経験する、先生をエントランスから教室までご案内するというしきたり。手荷物をお預かりして、エレベーターの乗り降りにも気を遣う。伝統芸能の内弟子などでは当たり前の心得であり、所作だが、その当番にあたるとナーバスになったという。
「日本の学校にある先輩後輩というような、上下関係のないインターナショナルスクール育ちなので、そういうしきたりや、その際の所作に戸惑い、少し休学して距離を置こうかと考えるほど悩みました。でもどんな経験もマイナスではなく、プラスにしてみたら?と先生からアドバイスされたのもあって、やり通しました。逃げないで続けてよかった」と今は思う。
西洋と日本の古典曲がシンクロする
LEOのニューアルバムの試み
今年は3月にニューアルバムの発表をひかえる。日本と西洋、双方の作曲家によるクラシックを中心としたプログラムで構成した。たとえば八橋検校の代表作「みだれ」、そしてバッハ「無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2より アルマンド」を取り上げるという試み。実は、八橋検校もバッハも同じ17世紀の音楽家である。現代から俯瞰して日本と西洋の楽曲が、LEOの箏によって再現されるという、この視点が新鮮だ。現代音楽からは藤倉大「竜」、坂本龍一「1919」などをセレクト。繊細さと豪胆さ、スピード感など、箏がこんなに表情豊かな楽器であるということ、可能性に気づかされる。師事する沢井一恵氏と共演する作品もあり、アルバムの中でも特に力が入る。
また、4月には読売日本交響楽団
ライバルと意識する同級生や、箏の演奏家はいるかとたずねた。「僕より古典曲を上手に演奏する人がいるのは知っています。でも僕にも人には負けない部分がある。だからライバルと意識することはないです」。箏への情熱は誰にも負けないという自負。努力と認識する必要がないほど、箏が中心の生活を送ってきた人の心は揺るがない。
「自分のことだけじゃなくて、箏をもっと広めたいという思いがあるんです。そのためにできることをいつも考えています。遠い未来のことを考えるよりも、少し先、1、2年先に実現したいことを計画して、実行していくのが好きです」。周囲から箏奏者になることを反対されても、夢を実現した人である。自分の人生の方向を、自らで静かに舵を取っていこうとする。誰に頼るのでもなく、自らを恃む強さを持っている人。それがLEOなのだ。
とはいえ箏を除けば、素顔はまだ23歳になったばかりの普通の男子。料理が好きで、こちらも凝りだすときりがないという。どんな料理をするかをたずねてみた。「様々なスパイスをミックスしたカレーは、かなり完成度が高いんですよ。あとはハンバーグ。肉汁を閉じ込めてジューシーな食感を出すためにゼラチンを入れたりと、工夫しています」と秘訣を教えてくれた。ファッションも大好きで、今、お気に入りのブランドは、リック・オウエンス。「自分のお気に入りの服を、自分で稼いだお金で買えるのでしあわせです」と笑う。若いアーティストの矜持を感じる一言だった。
運を切り開いていく
若さのカタルシスに溺れない冷静さ
その反面、LEOはこうも言う。「僕は本当に運がいいんです。邦楽界の登竜門である『くまもと全国邦楽コンクール』で優勝できたのだって、その年の出場者数や、選曲、演奏の順番など、運の要素は絶対にあるんです。そのコンクールで僕を見つけてくれたレコード会社のプロデューサーがいたことも、運。自分の実力や努力で語りつくせない要素がたくさんあることを理解しています」。
若さのカタルシスに酔うでもなく、自らを冷静に眺めることのできる客観性と情熱。ふたつの異なる視点を統御する強さが、彼をさらに前へと推し進めていく。2021年春はニューアルバムリリースとコンサートなど、活動も本格的に。LEOの箏は鳴りやまず、響き渡る。
一歩ずつ着実に、軽やかに歩んでいく彼を、これからも見ていこう。
LEO
箏アーティスト。1998年横浜に生まれる。本名は今野玲央。箏曲家カーティス・パターソン氏の指導のもと、横浜インターナショナルスクールの音楽の授業内で9歳にして箏を始める。のちに箏曲家沢井一恵氏に師事。14歳で全国小中学生箏曲コンクールのグランプリ受賞。「くまもと全国邦楽コンクール」コンクール史上最年少の16歳で最優秀賞・文部科学大臣賞受賞。2017年3月、1stアルバム『玲央1st』でメジャーデビュー。2018年MBSドキュメンタリー番組「情熱大陸」、テレビ朝日「題名のない音楽会」に出演。8月に2ndアルバム『玲央 Encounters:邂逅』をリリース。2019年サントリーホール「成人の日コンサート」出演。「第29回出光音楽賞」受賞。現在、沢井箏曲院講師。
◆2021年コンサート情報
詳細はLEOの公式サイトをご覧ください。
2月25日(木) Hakuju Hall リクライニング・コンサート 第156回 LEO箏リサイタル
◆LEO「In A Landscape」2021年3月24日発売
八橋検校:みだれ
J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2より アルマンド
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲 第1番より プレリュード
ダウランド:涙のパヴァーヌ
坂本龍一:1919
藤倉大:竜
ドビュッシー:塔(パゴダ)〜「版画」より
ジョン・ケージ:In A Landscape
スティーヴ・ライヒ:Electric Counterpoint III※曲順未定
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