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京都通信

2024.7.4

初夏を彩る「京都薪能」と 年4回のお楽しみ!「市民狂言会」に行ってきました

もっと京都を知りたい人のために、季節の行事、美味しいもの、ホテル、観光名所まで、京都在住ライターの野村がお届けする京都の最新情報、「京都通信」です。第一回目の今回は、6月上旬に行われた「京都薪能」と、「市民狂言会 」のリポートです。



初夏の夕暮れ、マジックアワーに包まれる平安神宮
暮れゆく舞台で演じられる、幽玄の「京都薪能」

「京都薪能」は1950(昭和25)年に始まり、今年で73回目。毎年6月1日・2日に平安神宮で行われている、京都の初夏の風物詩です。

 

 

「京都薪能」の今年のテーマは「光源氏の夢」。やはり、大河ドラマ「光る君へ」を意識してのことでしょうか? 夕闇の中、篝火が焚かれ、浮かびあがる能舞台。朱塗りの社殿を背景に、源氏物語ゆかりの演目が観世・金剛・大蔵の各流派によって披露されました。

 


初日は、夕顔の亡霊が光源氏との儚い恋の思い出を語り舞う優美な「半蔀(はじとみ)」。続いて、六条御息所を主人公とする「葵上」。光源氏の愛を失い、嫉妬に狂った御息所が鬼女となり紫上を呪い殺そうとする、緊張感に満ちた作品です。

 

2日目は、須磨の浦に現れた光源氏の霊が、月光のもとで舞い戯れる「須磨源氏」。続いて、昔を懐かしむ六条御息所の切なさや情念の疼きを晩秋の嵯峨野・野宮の風情に重ね、もの寂しくも優雅に描いた「野宮」が上演されました。


薪能「野宮」 薪能「野宮」

恋への未練と、妄執から解放されたい思いの間で揺れ動く、六条御息所の複雑な心情を描いた「野宮」。


舞台に詩情を引き出す能の世界とは打って変わって、今度は“おかしみ”あふれる狂言が始まります。演目は、源氏物語をパロディ化した2000年代以降の新作の「おばんと光る君(1日)」「ひめあらそい(2日)」。滑稽な仕草とセリフに観客席も湧きます。幽玄の能と、笑いに満ちた狂言。このコントラストが、また魅力です。




終幕を飾るのは「土蜘蛛」。一大スペクタクルに息を飲む観客


終幕を飾るのは、病床の源頼光を襲う土蜘蛛の精と独武者の死闘を描く「土蜘蛛」。武者が斬りかかると、土蜘蛛の精が白糸をシュシュシュと繰り出し大迫力! 能のなかでも派手な演出で知られた一曲です。

 

 

会が始まるころは、西の空がまだ茜色に染まっていましたが、会も半ばに近づくとあたりは暗闇に。篝火に浮かび上がる舞台は、まさに幽玄そのものです。能楽堂で拝見する舞台とは趣が異なる素適なひとときを味わうことができました。


土蜘蛛 土蜘蛛

蜘蛛の精が千筋の白糸を投げかけるスペクタクル活劇能「土蜘蛛」。

年に4回開催。京都市民に親しまれてきた、「市民狂言会」


「市民狂言会」は1957年から続くもので、6月7日の会で第274回を迎える、京都市民にとってもお馴染みの狂言会です。

 

室町時代から650年以上もの間、途絶えることなく演じられてきた「能楽」。それぞれに洗練を重ねた「能」と「狂言」を同じ能舞台で交互に上演するスタイルを基本としていますが、近年は「狂言」だけが独立して演じられることも増えてきました。

 

京都市と京都市芸術文化協会が主催する「市民狂言会」もそのひとつ。京都市民はもちろん、誰もが気軽に狂言に触れられる機会として年4回、京都観世会館で開催されています。上演されるのは、大蔵流茂山千五郎家・忠三郎家による狂言や小舞。今年度は、これまで休止していた上演前の‘‘見どころ解説”が復活し、より一層魅力を満喫できるプログラムとなっています。

 

今年度初回の公演が行われたのは6月7日でした。


市民狂言会ポスター 市民狂言会ポスター

エネルギッシュな山伏と、気弱な禰宜(ねぎ)の対比が面白い「禰宜山伏」


はじめに能舞台に登場したのは茂山逸平さん。笑いを交えたわかりやすい解説を聞き、今日の見どころの予習をしたら、最初の演目「禰宜山伏」が始まります。

 

登場人物は山伏、禰宜、茶屋の亭主、大黒天。禰宜が茶屋で一服していると山伏が現れ、何かと難癖をつけ始めます。挙げ句の果てには、禰宜に自分の荷物を押しつけようとする始末。見かねた茶屋の亭主が仲裁に入り、大黒天への祈祷で勝負をつけるよう提案。負けた方が相手の荷物を持つという約束をするが……というお話です。

 

茂山千五郎さんによる傲慢で居丈高な山伏が、とにかくエネルギッシュで迫力満点。茂山千之丞さん演じる気弱な禰宜との対比がくっきりと描かれ、笑いを誘います。

 

続いて披露されたのは、2題の小舞「放下僧」と「雪山」。狂言師の方々は数十番ある小舞を覚えながら、正しい姿勢と型を身につけていくそうです。


小舞 小舞

昨年の「市民狂言会」で披露された、   狂言 「尼泣」。©Haruka Uesugi


祇園祭の鉾町を題材とした狂言に大笑い


最後は、祇園祭の山鉾のテーマを相談する場面を描いた狂言「鬮罪人(くじざいにん)」。現在とは異なり、中世は山鉾の趣向を毎年変えて出した町もあったようです。

 

祭の当番になった主人は、相談のため町内の衆を集めるよう召使いの太郎冠者に命じます。案は出るものの、決まりかけると太郎冠者が出てきてケチをつけます。そこで太郎冠者が“地獄で鬼が罪人を責める場面”はどうかと提案すると、主人は反対。しかし、町衆の賛成を得てこれに決定し、鬮引きで役を決めることになりました。その結果は太郎冠者が鬼で、主人は罪人の役。早速稽古を開始するが……という展開です。

 

茂山宗彦さんが演じる主人は、不機嫌オーラ全開。茂山茂さん扮する太郎冠者は、杖で責めようとするたび主人に睨まれ、ガクガクブルブル。怯えながらも、日頃の鬱憤を晴らすかのように、だんだん調子に乗っていく太郎冠者の様子におかしさを感じずにはいられません。


市民狂言 市民狂言

祇園祭を目前に控えた6月の京都にぴったりの「鬮罪人」。立場が逆転した2人のやりとりが笑いを誘う。


市民狂言会の開催月は6月、8月、12月、3月。8月以外はいずれも金曜夜の開催です。京都市が主催とあって、お値段もリーズナブル。そのときどきの季節感を取り入れた演目も上演されます。一度観たら「はまる」こと間違いなし。次回もぜひ、足を運んでみたいと思います。


◆ 令和6年「市民狂言会」スケジュール

・第275回  8月23日  解説、瓜盗人、因幡堂、二人大名

・第276回  12月6日  解説、薩摩守、腰折、米市

・第278回  3月7日   解説、今参り、小舞(貝尽し、福の神)、狐塚

京都芸術センター
電話番号: 075-213-1000(10:00~20:00)
メールアドレス:shiminkyogenkai(a)kac.or.jp


Text by Erina Nomura

 

野村枝里奈
1986年大阪生まれ、京都在住のライター。大学卒業後、出版・広告・WEBなど多彩な媒体に携わる制作会社に勤務。2020年に独立し、現在はフリーランスとして活動している。とくに興味のある分野は、ものづくり、伝統文化、暮らし、旅など。Premium Japan 京都特派員ライターとして、編集部ブログ内「京都通信」で、京都の“今”を発信する。







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